見出し画像

詩 「赤い切妻屋根の小屋」 (2023)

私は午後、赤い切妻屋根の小屋のところへ行って、一晩過ごした。小屋の右側の土地は傾斜していて、崖のように崩れていて、ドクダミが咲いていた。

私は木造のテラスデッキでコーヒーを飲み、心静かに休んだ。芸術家はここでなら幸せな生活が送れるれるかもしれない、と思った。もしも芸術家に安定した生活があるのなら。もし私がここで本でも書いていたら、ものごとは好転するような気がした。

私はもう1杯コーヒーを飲んだ。それでコップはおおかた空になった。
そしてペアリーというタイ人女性から昨日連絡が来ていたのを思い出した。

「やぁ」と私は言った。
「Miss you」と彼女は言った。
「私は小屋でコーヒーを飲んで、スイートポテトを食べている。私は少し眠たい」
「あなたのラストネームは何ですか?」
「なぜ?」彼女は言葉を置いて、沈黙した。
「なぜなら、知りたいから」

彼女は語るのを辞めた。私が彼女に参るのも無理はない。彼女は私と夢を共有し、その思い出に浸りたいと望む。その気持はよくわかる。しかし私と彼女は共有できるものなどありはしない。何もない。ラストネームさえわからない。

ミステリアスな連絡だった。
人生でただ一度しか訪れることのない連絡。

その日は月が綺麗な夜だった。

私はほとんど恍惚状態に近い目で月を眺めながらそこで寝ていった。

この記事が参加している募集

#眠れない夜に

68,896件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?