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読書履歴#26_会社とは何か?原点を忘れないための本

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9月2日〜9月13日
文字数:約7,500

はじめに(所感)

楠木健氏の帯の一言「本質に次ぐ本質。議論が重く、大きく、そして深い。あまりに本質的であるがゆえ経営者が見て見ぬふりしてきた核心をストレートに衝く」
という言葉にこの本の要点が集約されています

ここ数年はアクティビストが会社を正しい方向に導きながら、成長させるということで注目されています。
(株主偏重主義なんて言葉も聞くようになりました)

本当に出資先企業のことを想って、一緒に成功したいアクティビストもいると思いますし、大半がそうなのだと思います。
だからこそ注目されていると思うのですが、一方でメディアはそれは株主がコントロールする会社、というような書き方をしているものも多いです。

私自身もどこかで

・成長し続け、企業価値を向上し続ける会社
・株主にしっかり還元しROEが高い会社
・イノベーションを常に起こす会社

こそがモダンで、素晴らしい会社であると思っていました。

この本を読むとそうではなく、本来会社とは

・成し遂げたいこと、変えたい未来を持つ人の集まり
・株主とはその夢に共感し、リスクを背負って出資する仲間
・イノベーションよりも、経営者が夢の実現に向かって
常に思考錯誤し変化を作る
・どう変化を作るのではなく、何をしたいから変化しないといけないと
自立的に考える集団

であるべき。というよりはもともとそうであるということを強く認識しました。

これから経営学について学びたい人、少し学び経営学が面白いと思い、その知見を実践に活かしてみたいと思ってる人に是非読んでもらいたい本です。

緒言

・著者が40年近くのコンサル経験を通して得た「会社」という存在の人間的・社会的な重さと肥沃な可能性、「経営」の地に足が着いた奥行きの深さを伝えるための内容

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P2〜P7

第0章 序説

・商売や会社を自分の手で一から起こした人は原始のビックバンを知っている
もっと製品、サービスを買ってもらうには、もっと安くするには、そのために仲間を増やすには、どうすれば良いかを必死で考え挑戦を続けるうちに商売は繁盛し会社は大きくなっていく
・そこにコンサルが現れ、さまざまなフレームワークを使って多くの問題点を指摘し、将来への懸念を表明する
コンサルは軍事概念であった「戦略」をビジネスの世界に持ち込み、競争相手との競争に勝つためのロジックを作り込んだ
さらにその先にコンサルは一歩踏み込み「競争に勝てなければやる意味もない」という否定のロジックを展開し始め、「生きるための手段の話」から「目的とすべき絶対的価値」へとすり替え、そして刷り込むことに成功した
・この変化によって、自らのビックバンかは営々とつながる命脈を断たれ、なぜその会社が誕生し、何を成し遂げるために生まれてきたのかよりも、「なんでも良いから勝てることをやる」ことこそ第一に考えなくてはならなくなってしまった
・会社は誕生の担い手となった人、引き継いだ人、それに懸けた人、それに尽くした人などの意志と行動を体現している意味でも、制度である以前に人間的営為である
・その極めて人間的営為であるはずの会社を「競争に勝てないなら存在する意味もない」と考えるようになった
・「会社は会社、俺は俺」という現代風なスタイルは競争的世界観を成立させる暗黙の前提条件
・会社は自分達の夢や志を体現するものでなく、単に自分たちを会社の利益に奉仕する存在へと変容させてしまった
それを最も象徴しているのが経営者であり、経営者は会社の利益に奉仕する好感可能な歯車となり、疎外されるようになった
会社は競争するために生まれたのでなく、込められた夢や志を体現するために、競争しなければならなくなった
経営者しか出来ない仕事は会社の目指す価値、夢や志を体現する担い手になることであり、他人に決められた価値を追求するのが仕事ではない
経営者に欠くべからざるものは「常識的感覚(Common Sense)」であり、地に足を着けて、人間的、統合的にものを見て判断する、本来持っていたはずの自然な感覚

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P12〜P33

迷宮の経営辞典:戦略

・企業戦略論において戦略がどのような条件を満たせば確かなものかがテーマとされてきた、その条件とは
①戦いの争点となる決定的な要素において相手に対して優位であり、相手には模倣できない強み
②その優位性が持続性を持つ
③戦いを通じてその優位性が累積的に強化されるもの
の3点に要約される

・戦略を公表している(手の内を明かす)企業がある、これは戦略と呼べるものではないと告白しているようなもので、希望や希望的観測に過ぎない
普及したのは戦略という概念でなく言葉だけ
戦略論として分析的に語られるものは、事後的なもので、歴史家や経営学者が道筋立てたもの
本来戦略とは説明できないものであり、説明できないからこそ戦略とも言え、説明しようとすることあるいは、説明できるようにすることが、思考を眼前のことに限定することにつながる
経営者は会社の戦略的な構想の深みを覗きみている人でなければならない
戦略とは深みを覗いた人がそこに見出した何かに挑もうとする強靭な意志と信念の産物で、意志なきところに戦略はなく、信念に深さがなければ優れた戦略はない

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P36〜P45

迷宮の経営辞典:市場

・仮想空間の市場(しじょう)は需要と供給と価格を定義するために必然的に単一商品の市場であり、その商品をめぐってQCDで差別化し買い手が選別・選択する
・商品だけでなく会社自体も初めから同業他社とともに類型化された市場の参加者となる
仮想空間の市場の中に自社を押し込めている
市場的思考の悪癖は全てを単一化同一化するところであり、それと同時に実際の市場(いちば)にある豊饒な多様さや複雑さをさっぱり捨象されてしまう
市場とは本来そこに閉じこもるものでなく実在の「いちば」のように縦横に動き回るものであり、よい経営者とは自らの五感をフル稼働させて市場を歩き回っている
・経営で使われている市場とは
+市場規模を把握するは、既存製品販売高の言い換え
+市場をセグメント化するとは、客層
+市場の声に耳を傾けるは、既存/潜在顧客
市場に参入するは、事業の言い換え
+市場競争に勝ち残るは、同業者・類似業者群
・結局のところ市場という言葉を使い回されているが概念としては空洞
経営者は観念としての市場から外に出なければならない、その市場のあれこれは優秀な経営スタッフに任せておけばよい
いちばを歩き回って生まれる発見的直観が明日の事業、会社をつくる
市場とは本来その会社の独創であり、その独自の市場観が、その会社の会社たる所以

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P46〜P55

迷宮の経営辞典:価値

・価値という言葉はその意味とは裏腹に軽くなってしまった。その最たるものが企業価値
企業価値とは誰が認める価値なのか?
価値とは本来主観的なもので、客観的にできるのは計測のみ
企業経営が偏差値教育の延長のようになってしまい、経営はただ計測される対象となり、その尺度たる価値判断のモノサシは外部から与えらるものになった
・それは主観を手放したことを意味し、自らが考える善い会社、善い経営でなく他者に示された会社の尺度に従ってひたすら良い点を取るべく努力し、その結果を計測されて通信簿をつけられる存在に成り下がった
・計測者ばかりの組織は、与えられた価値の尺度の伝達と計測結果の報告が往復するだけの脳のない回路
会社は社会的存在として自ら提示する独自の評価を世に問うことで賛同者を主体的に募る存在
経営者の仕事は新奇な価値をひねり出すことではなく、自分が正統と考える価値のアンカーたることだと言っても良い

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P56〜P65

迷宮の経営辞典:利益

日本人にとっての利益は元来Benefit(何かを成した時もたらされる恵)であり、Profitではなかった
・利益は結果としての恵みから、意図して稼ぐものとして、企業経営の目的と信じられるようになった

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
 P66〜P73

迷宮の経営辞典:成長

・成長を継承する概念としては本来成熟がある
・うまく成熟できなければ、停滞または未熟となる
・経済や経営の世界では成熟は忌避され、しがみつくのは成熟でなく体格の成長しかなくなる
・人間がウルトラマンのように大きくなれないように会社も際限なく大きくなることはないが、大きくなり続けることを強要されていると言える
会社にとって成長が止まることは停滞という死に至る病だと思い込まされているかもしれないが、適したサイズを超えて永遠に大きくなり続けようとする膨張こそ、本当の病
経営者はさまざまな時間軸上の要請に目を配りながら時間的に開かれた未来に向けて何が自分の会社にとって善いことなのか、今はどういう時期なのかを判断し続けなければならない
・目の前に見える体格の成長は必ずしも会社としての本当の成長ではない、会社としての成長とは大きな会社になることではなく善い会社になるための道程を歩むこと
自社の目指す善い会社とはどんな会社なのかのイメージを描くのが、その経営者ならではの見識である。それを目指して会社を牽引して時機を会社を動かすことも、時には足を止めることも、先を見て種を蒔くことも、経営者のセンスであり手腕となる

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P74〜P83

迷宮の経営辞典:会社

日本に長寿企業が多いのは、「柔軟性」(変わるまたは産む)と「一貫性」との両立
・貫くとは変わると矛盾するように思うが「時代環境の変化の中で、自分の本分とは何か、自分にしかできないことは何か」を模索する中で自分の進むべき道を見出してきたということ
株式会社とは未踏の夢に向かってリスクを背負って挑戦するために、多数の人が力を合わせる仕組みであり、同じ夢を持ち者同士が財を出し合って事業に挑戦する。
成功すれば出した分相応の分け前を手にするが、失敗すれば、灰燼に帰す
・現代の文脈に置き換えても失敗したときの損失を自らの出資分に限定する(有限責任)という意味で、リスクを取って事業に挑戦することを可能にする大前提にやっている
株式会社であることは、自然人と同様の人格を有することが前提で、自然人同様の理性、常識、良識を備えた行動を取るはずのものとして信頼できるということ
法人の人格、社格とは過去の記憶「わが社とは、何を求めて何を考えどう苦悶してきた会社なのか」という自己認識に刻み込まれた記憶の集積であるとともにそこから未来へとつながる主体的意思を宿したものである
・経営課題の根本はその自社に対する自覚によって自らに課される
・営業指標などは自動車で言えば計器に過ぎず、その指標をモニタリングしたからと言って目的地に向かう保証はない

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P84〜P122

迷宮の経営辞典:組織

組織が「漬物と糠床」のような何かを媒介して固有の結び付きを形成した人の集団で、組織とは固有の歴史的存在としてしか定義できないとも言える
概念としての組織は存在しない
良い組織には、組織全体でなく、その中の随所において幾重にも折り重なる、人が躍動し人が創意工夫し人が育つスペースがある
・阿吽の呼吸は日本の特殊性として世界には通用しないと卑下されてきた
常識的に考えれば言わなければ分からない関係よりも「言わなくても分かる」関係の方がずっと進化した存在
・この言わなくても分かる理想の状態は、宮大工の西岡常一氏の「労働だと思えば時間があっても棟梁の命令を待つ。仕事なら大工一人ひとりの心の中に出来上がった塔があり、自分は今どの部分を受け持っているかが分かるので、仕事が終われば命令されなくても次の仕事に没入できる」という言葉に集約されている

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P123〜P141

迷宮の経営辞典:改革

改革とは常時やっているものではないし、常時やっていれば落ち着いて事業をやっているヒマもなく改革とは呼べない
改革を唱え続けなければならないとしたら、その改革がいつまで経っても成就しないことに他ならない
摩擦のない改革などあり得ず、その痛みが大きければ大きいほど改革の持つ意味も大きい
激痛を伴う改革に挑む原動力は、現状を否定するマネージメントと言える
・将来に向けた肯定だけではものは進まないし、変化の先が良いことは大体の人が分かるが、どうやったら変われるが難題
・改革の最終的な必須要件は結局経営者自身が変わる覚悟

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P142〜P152

迷宮の経営辞典:M&A

・M&Aは戦略を実現するための手段
手段そのものに戦略はないが、M&A戦略と銘打って財布を用意しました、その予算枠で何を買うか考えます。と言われるとその意味は不可解
・売買されるのは会社ではなく株式であり、株式を限定的に取得するだけなら通常の投資となんら変わりない
・ディールとして成立したM&Aの成功率は二割に満たないと言われているのは、買収される側と「自我」が融合できなければ、戦略的意図の達成など叶うはずがない
・相手を尊重しながら自分の意図に従わせるという理想論の背後には本質的矛盾が潜んでいる
・二つの自我が融合できなければ、二つの経営主体が中途半端に残ってしまう
問題の発端は買い手の戦略として企図された段階では相手を経営資源もしくは機能としか認識していない点にある
・資源もしくは機能として構想しながら実際には生身の会社を買うという離業がM&A
・ディール成立後に二つの会社の自我を融合させるという繊細な想像力を要する仕事、本当の経営の仕事(PMI)が始まる
成功事例を見ると、買い手側の経営者・経営陣の技量と力量によるものであるに違いない
両者で共有するゴールに向かってそれぞれ自発的創意を発揮させることのできる共有スペースを創り出すことに成功している
・ところがPMIの仕事がM&Aの尾ひれの作業として事務局に任されることが多くなり、経営者の仕事は何を買うか、何を売るかを決め、そのディールを成功に導くことになってしまっている
・M&Aは組織的統合がなければ、ただの投資
・経営者に求められる洞察力(insight)は、事業価値とその発展の道筋を創造的に見抜く力であり、良い買い物を見極める臭覚ではない

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P153〜P164

迷宮の経営辞典:開発

・開発とは「既知と未知」「可能と不可能」「シーズとニーズ」の間に横たわる深い谷への挑戦と言える
開発への着想を生むのは論理よりも意志
昨今はすべての意思決定が透明であることが良いと常識化されているが、すべて透明にしたところに主体的意思決定などはあるはずがないことは自明
・自分自身の意思決定に透明も不透明もなく、自分という密室に収められており、どうやって決めるかも自分が決める
・透明にできるのは誰が決めるかということでしかない
・会社の最奥の密室とは開発という創造への挑戦のインキュベーター(孵卵器)であり、その部屋の主は経営者以外にはいない
開発を内部に抱える器量をなくし、インキュベーターが劣化し、開発が外部化するようになってきた。世間的には起業と言われている
若いベンチャー企業経営者まで、まずは何よりも先にビジネスモデルについて語り、自分が変えたい社会的洞察の実現への強靭な意志である前に、どうやって稼ぐかになっている
・ビジネスモデルづくりはいくらでも磨くのは助けることができ、取って代われないものは、彼らの夢である
・経営者は開発の号令をかけるのが仕事ではなく、如何に逆風に晒されても盾になって支えるのが仕事
・支えるには経営者自身の信念が必要

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P165〜P182

迷宮の経営辞典:人材

組織が組織であるシンプルな理由は「1+1>2」であるからであり、組織にいることで自分が1以上の働きができるからこそ、その組織に留まっている
経営者の思考は人材を育てるのでなく「人材を活かす」という発想が不可欠
育てるという思考は、育たない原因を育たない社員側の問題とするが、活かすことと考えれば、その責任の大半は経営者側にある
活かすということに気づくと、マネジメントとは「個性」のマネジメントであることがよく分かる

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P183〜P205

迷宮の経営辞典:信義

・経営で何よりも大事なことは信義
信義は会社の信用の基底にあるもの
・現代は会社がやろうとしていることが本当に善いことなのかどうか、正しい道に沿ったものなのかどうか、が容易に判然としなくなった
・車がなかった時代に車を作り、住む家が不足した時代に家を作ることは善いことと昔は信じられていたかもしれないが、現代は難しい問いになっている
・この判断が難しいからこそ、自らに課す規範がその重みを増す
自ら善いこととは何か、を考えるときに利己的でなく社会的に考える約束が「信義」である

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P218〜P230

迷宮から、覚醒の先に

どう経営するかばかりに気を取られ、何を経営しているかが見失われてしまっている
・会社は勝つか負けるかの軍隊ではなく、国家でなければならない
善い国家とは何かという根本的問いがあって、方法論や手段はその後に来る議論

会社という迷宮
経営者の眠れぬ夜のために
ISBN978-4-478-11616-6
P232〜P261


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