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「もし」、貴方に出会えなければ。

とある、クリスマスの出来事。

『死にたい』僕はこう思っていた。

あの馬鹿な人たちと出会うまでは。。。

第一章 

道なき道


僕はいわゆる普通のサラリーマン。いや、少し盛ってしまった。ダメなサラリーマンだ。いや、それも少し盛った。仕事もできない。お金のない。彼女もいない。ダメダメな人生の負け組のサラリーマンの駒田利夫(としお)38歳だ。

僕には人生にピークがない。ずっと人に必要とされていない。ずっと生きがいもない生活をしていた。

そんな僕だが、『30歳までに俺は何者かになる。』と夢を語っていたのも遥か昔。

今はそんなことすら思わない。『俺、このまま死ぬのかな。。。?』と真っ暗の天井を眺めることも増えた。

『はぁ。。家族。。。持ちたかったなぁ。。かっこいい車に乗って、めちゃくちゃ可愛い女の子を迎えに行きたかったなぁ。。。』後悔ばかりの人生だ。

こんなことを考えては寝れない日々が続いている。

くる日もくる日も、僕は当たり前の日常を送っていた。

一応、言っとかなきゃいけないが僕の日常とは怒鳴られ続ける日常だ。

『駒田!なんでこれが出来てないんだ!』『駒田何をしているんだ!』

『駒田!駒田!』上司が怒る。そして若手社員がそれを見て笑う。これが僕の日常であり毎日だ。

もうやってられない。

僕は毎日に疲れ切っていた。

そんな僕はいつも通り満員電車に乗って、最寄駅から自宅まで歩いて帰る。

満員電車には、いろんな人たちが乗っている。若者カップルやビジネスマン。ベビーカーを押すお母さん。本当に不思議な空間だ。

ふと、僕は疑問に思った。


『みんな幸せなのかな?』


いつも自分が考えているからこそ、そんなどうでもいいことが気になってしまう。

疲れて寝てしまっているビジネスマンに、自分の携帯と睨めっこしているカップル、ベビーカーの子供が気になって仕方がないお母さんが幸せそうには僕にはとても見えなかった。

『みんな、なんで生きているんだろう。。。』

こんな事を考える僕は末期なのだと思う。


第二章

出会いはいつも突然に


駅を出た僕は、家とは逆の方向に向かった。

なんか今日は家に帰りたくなかったんだろう。

目的は改札を出て、家とは逆方向にあるベンチだ。

『今日はクリスマスか。。。』

慣れたはずの一人ぼっちのクリスマス。

僕は少しベンチに座って夜風を浴びたくなっていた。

ベンチに座ることに決めた僕はその前にコンビニへ行き、普段はあまり飲まないお酒を買った。

僕はベンチに『ヨイショ。』と腰掛け、じっ〜と遠くを見つめた。

お酒を片手に遠くを見ているその姿は滑稽で、惨めなサラリーマンだと街ゆく人には映っただろう。

『くぅ〜〜〜〜ウマイ。』普段飲まないお酒を飲みながら、僕は改札の方を眺めていた。

多くの人が疲れた顔で、慌てたように改札を出て、足早に家に向かっている。

クリスマスの予定があるのだろうか。それとも、明日の仕事に備えているのだろうか。

『早く帰らなくきゃ』と、疲れ切った顔には見えない使命感を背負っている顔に僕には見えた。

『みんなすごいなぁ。。闘ってるのは僕だけじゃないんだ。』

僕は改めて、自分の弱さに嫌気がさして、慣れないお酒を一気に飲み干した。

普段飲まない僕が一気なんかするものだから、僕はすっかり帰る気力をなくしている。

『今日は、いっそうのことベンチで寝て帰ろうかな?どうせ帰っても誰もいないし、何かあったって心配してくれる人もいねぇし』

完全に僕は酔っている。

『フゥ〜』大きなため息で勢いをつけるかのようにベンチに横たわった僕の目に映ったのは曇り空の中で負けないで自分を表現している数個の星空だった。


『空。見上げたのはいつぶりだろう。。。』


『ドアが閉まりま〜す』ホームから聞こえてくる「現実」と「今」僕が見ている星空が同じ現実だとは思えない。いや、思いたくなかった。

きっと僕は現実を忘れたい気持ちでいっぱいだったんだ。

ただ、現実はそんなに甘くはない。『ポツン、ポツン』と小さな雨が降ってきた。

まるで神様が僕を家に帰らそうとしているようだ。

『マジかよ。。。』

ベンチに寝そべった僕のスーツは濡れていき、明日着ていくスーツが無い。このままでは明日会社に来ていくスーツがない。

ただ、

今の僕はそのアクシデントすら気持ちよかった。

『いつぶりだろう。こんなに自分に素直になれたのは。』

気が付くと僕は素直に目を瞑っていた。

しかし、

そんな幸せは長くは続かない。

『トン、トン!』誰かが僕を揺すっている。

『ねぇ、きみ、きみ、ちょっと何してるの?』

どうやら僕は気持ちの良い眠りについていたそうだ。

寝ぼけた僕の前には警察官が二人いる。

『こんなところで何してるの?家はどこ?家はわかるの?』

一人の警察官が質問攻めにしてくる。

『うるさいな。。。せっかくいい気持ちだったのに。。。』

酔っていたのもあって、僕は警察官に小さい声で言ってしまった。

すると、警察官もカチンと来たのだろう。

『いい歳こいて何してんの。ほんとに。』

僕もカチンときた。

やっぱり人間は身に覚えのあることを言われると腹が立つようだ。

『お前らみたいな税金で飯を食ってる奴らが何を言ってんだよ。お前らこそ俺に感謝してんのかよ。』

自分でも最低だと思った。あまりにも最低すぎて酔いも覚めていた。

『僕はなんてちっぽけな大人になってしまったんだ。。。』

悔しさと切なさが一気におそってきた僕は泣いた。一粒、一粒、溢れ出る涙は雨がきれい流しさらってくれていた。


『すいません。帰ります。』


その頃の僕の酔いも覚めていた。

街からは人もいなくなり、雨が地面を打つ音だけが鳴り響く。

ビショビショに濡れたスーツが足を重たくさせる。

僕は出来るだけ濡れない道を選んだ。

すると、

薄暗い裏路地を入った所に『ビューティフルシアターズ』と小学生が書いたようなお世辞にも綺麗とは言えない字で書いてあるbarを見つけた。

僕は心の中で『汚い映画館をむしろ知らないんだけどなぁ』とか思いながら、中を覗いてみると、大きなシアター画面で洋画の『ホームアロン』を数人で見ていた。

ホームアロンは僕が小さい時からクリスマスを代表するような映画だった。

『そっか、今日はクリスマスだもんな。。久しぶりに見てみたいな。』

なんか少年に戻った気持ちになって、僕は少しワクワクしていた。

そして僕はお店の玄関を開けた。

すると、

下には芝生を張ってあり、大人が4人ほど寝転がりながら映画を見ている。

店内の明かりは、映画と室内用のプラネタリウムの灯りだけだった。

僕がどうしていいか、分からずにボーッとしていると一人の男がやってきた。

『おきゃ。。おきゃくさ。。ん。。。ヒィヒィ。。はじめてだよね。。。』

目の前にいた男はどうやら店の人らしいが、何故か号泣している。

(ホームアロンってそんな号泣する映画だっけ?)

『とりあえずこれで終わるまで我慢してよ!』と言われて渡されたのはハイボール。

とりあえず、みんなと同じ芝生の上に座ったが僕には気になることがあって映画に集中できない。

そこには、号泣する店の者らしき人、クリスマスなのに半袖短パンでいるムッキムキのおじさん、真っ白の白髪メガネをかけ真っ白のスーツを着てステッキ持っておじいさん、後は色黒のスポーティーなお姉さんだ。

『入る店間違えたかな。。。でもハイボールもらってしまったし、終わるまでは我慢しようかな。。。』と気が乗らない僕の横で店の男がまた声を上げている。

『ケビン頑張れ!!!!!お前なら大丈夫だぞ!!!!!俺はお前の味方だからな!!』と涙ながらに叫んでいる。

僕は恐怖すら感じた。

こんなに映画に感情移入する人なんか見たことないからだ。

この人たち絶対おかしい人たちだ。

そう思って周りを見渡しいるとみんな店の者らしき男を見てクスクスと笑っている。

『えっ、なんで?』僕は不思議で堪らなかった。

すると、また店の者らしき人が叫んだ。

『行けーーーー!やっけろ!!ケビン!!!』

(どんだけ感情豊かなんだよ)

僕は心の中でそう思った。すると、

他のみんなも『やれやれ』みたいな感じで、見ている。

その顔は物凄く優しくて、どこか子供を見つめる親のような目をしていた。


第三章

いいんだよ。


そんなこんなで映画が終わった。

『ケビン!!今回も最高だったぞ!!!ありがとう!!」

(今回って何回目のリアクションなんだよ。。。)

『亜弥ちゃーーーん。泣きすぎたら喉渇いた。お水ちょうだい!!』

どうやら、色黒のスポーティーなお姉さんは亜弥(あや)と言うらしい。

(てか、子供かよ)

『いやぁ〜本当に何回見ても泣ける最高の映画だなぁ〜。ホームアロンは。ところではじめまして、ここの映画館のマスターのコウジです。コウジって呼んでくれていいんで。今更ですが何か飲みます?』

どうやら、店の亭主はコウジさんというらしい。

『あっ、ありがとうございます。じゃあ。。。ハイボールいただけますか?』

そういうと『りょーかい!』コウジさんがいう。

僕はコウジさんに呼ばれてカウンターのほうに移動した。

カウンターには椅子が5つあって、僕はその真ん中の席に座った。

『みんなを紹介するね。あの半袖短パンの人がトシさんでなんでこの時期に半袖短パンなのか気になるよね?』

コウジさんが、さも今からおもろいこと言うぞ〜みたいな顔をして言ってきた。

『はい。正直、この店に入った時から気になっていました。なんでなんですか?』

僕が聞いた。

『実は。。。トシさんマッチョでしょ??自分は鋼のような筋肉をつけるから長袖も半袖もいらないんだって。。。これ本気で言ってるんだよ。面白いでしょ?』

『はぁ。。。』

僕はキョトンとした。この人たちが思う面白さが全然わからない。この店には変な人しかいないのか?と怖くなった。。。

『じゃあ、あの。。。。白のスーツの方は??』

僕が聞くと、コウジさんは言った。

『あの人はアッキーさんだよ。なんであの服装か聞いてみたら?』

『ニヤっと』いたずらっ子な顔をしたコウジさんが言ってきたので、僕は聞いてみた。

『あの。。アッキーさん。なんでそんな格好なんですか?』

すると、芝生でトシさんと話していたアッキーさんが立ち上がってこう言った。

『いや、、、、なんでって君おかしいこと言うね!!だって今日はクリスマスだよ。

クリスマスといえばケンタッキーでしょ?だから、カーネルサンダースじゃん!』

みんな笑っている。それには僕もつられて笑ってしまった。

『ぜっっったい、普通ならサンタクロースだよ〜。もぅ、涙出てくるよ。本当にアッキーさん面白すぎでしょ!!!!お腹痛ーーーい!!!』

コウジさんのその言葉に、またみんなで笑っている。

アッキーさんもみんなと一緒に笑っている。


『グハァグハァグハァ』


アッキーさんがカーネルサンダース顔負けの大きな身体に似合う豪快で特徴的な笑い方に僕たちは笑いを我慢することができなくなっていた。

もう、その頃の僕は、もうこの場所のことを好きになっていた。

なんか優しくて、些細なことで笑い合えて、現実なんだけど非現実さをすごく感じる。

『はい。お待たせ。ハイボールだよ。てか名前はなんていうの?』

『駒田利夫って言います。』

『駒田利夫かぁ。。。じゃあトッシーさんね。』

こうして、僕は変な人たちの仲間に入った。そして、僕は一晩中、笑い続けた。

『てか、トッシーさんは今日はなんできたの?雨宿り的な感じ?』

『そんな。。感じですかね。。』

『あっ。そっか。』

コウジさんは僕の雰囲気を察して話を終わらせてくれた気がした。

『じゃあとりあえず、一緒に呑もっか?』

『はい!』

僕はここにいるみんなの安心感がたまらなかった。

『ここにいる皆さんはどうやって出会ったんですか?』

『それ聞いちゃう??実はね。。。』

コウジさんがもったいぶるようにいう。

『俺ら、元々同じ会社だったんだ。』

『同じ会社だったんですか?』

『うん』

『じゃあ、コウジさんは、なんでこの場所を作ったんですか!?』

『なんでって。。。長くなるけどいいの?』

『はい!ぜひ聞きたいです!!!』

僕は今の自分はこの話を聞かないといけない気がした。

そして、コウジさんが照れ臭そうに口を開いた。

『じゃあ。。。』


第四章


僕は生きる


『ねぇ。トッシーさんは映画好き?』

『めっちゃ好きとかではありませんが、見ます。』

『そっかぁ。じゃあさ、この映画知ってる?』

そういってコウジさんは何かを用意し始めた。

そして、プロジェクタースクリーンに映し出された映画は相当、昔の映画だった。

『これなんていう映画ですか?』

『これはね、素晴らしき哉、人生!という映画だよ。』

コウジさんが流してくれた映画は半世紀も前の映画だった。

『ごめんなさい。知らなかったです。どんな映画なんですか』

『トッシーさんは自分がいない世界とか考えたことある?』

『自分のいない世界ですか?』

『うん』

僕はそんなファンタジーみたいなことは考えたこともなく、正直コウジさんの言っている意味がわからなかった。

『すいません。僕は考えたこともないですし、よく言ってる意味もわからないです。。。』

申し訳なさそうに僕は言った。

すると、

『いいよ。きっとほとんどの人が考えたことないはずだから。』

そういうと、

コウジさんは優しい目のまま僕に語ってくれた。

『僕たちってさ、見てわかるように、みんな変でしょ?だから共通して会社に『居場所』がなかったんだよね。こうなんて言うのかな、みんな優しくてさ、人のこと嫌うのが苦手な人たちでさ、そんでもってみんな無理に笑ってて、なのに毎日を悩んで、苦しんで、明日なんかこなければいいのに。って本気で願ってたんだよ。本当にいい人達だよね。』

僕は驚いた。

底抜けに明るいと思っていた、ここにいる人たちが自分と同じだなんて思ってもいなかった。

『トッシーさん。今、苦しいんだろ?君の目はあの頃の僕らのような目をしているよ。』

僕は涙を我慢するのに必死だった。やっぱりコウジさんは僕の心境を見抜いていた。

『僕はね、映画が好きでね。映画に囲まれながら、仲間と人生歩んでいけたら、どれだけ楽しいんだろう?ってその頃に思ってさ、本当は映画館を作りたかったんだけどね。』

『はい。。。』

僕はもう『はい』しか言えなくなっていた。

『だからこそ、ビューティフル・シアターズを作ったんだ。心が綺麗になれる映画館をね。』

『心が綺麗になれるんですか?僕もなりたいです!』

『もうトッシーさんの心は充分に綺麗だよ。この映画館にはね、映画があって、プラネタリウムの星空があって、仲間もいる。どんなに日常でつまずいても笑い飛ばしてくてる非日常がこの映画館にはあるんだ。そんな映画館ないでしょ?』

そう話す、コウジさんの顔からは仲間を愛し、自分を愛し、このビューティフル・シアターズを本当に愛しているのが伝わった。

『こんなのは映画館じゃない。とか、たくさん笑われたり、たくさん馬鹿にされたけど、俺には形や大きさはどうでも良くて、そんなことよりも一回きりの人生で誰といたいとか何がしたいか方が大事だったんだよね。』

そう言うと、コウジさんは亜弥さん、としさん、アッキーさんと順番に目を合わせてこう言った。

『そんな居場所がこの映画館を作った理由だったっけな?』

照れ臭そうにコウジさんが頭をポリポリ掻きながら言った。

きっとこの人だから、『ビューティフル・シアターズ』という場所の意味があるんだと僕でもわかった。

周りにいた、トシさんもアッキーさんも亜弥さんも僕をみて、微笑んでくれている姿はまるで、僕に『素直になりなよ。』と言われている気がした僕は泣いた。

この歳になって、こんなに涙が溢れ出るなんて思わなかった。

でも、

泣くことで『生きる』ことを感じていた。


あとがき

ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。

2020年1月僕たちはコロナウィルスによって、強制的に人生のハンドルを握られました。

飲食店は閉店するお店が殺到、観光業も大ダメージをくらい僕たちの当たり前は『過去のもの』となってしまいました。

将来に対する不安、仕事の不安、自分の身体の不安、たくさんの不安が僕たちの胸を締め付けました。

その理由は『コロナウィルスという敵が不透明だったから』

僕たちは、はじめましてで、出会った敵に対してメディアも専門家も政府も『答えを持っていない』から闘いがスタートしたのです。

それを見た僕たちは、どの情報が正しいのかもわからずに、ただただ不安を感じるしかない毎日でした。

ただ、その中で確実に見えたモノもありました。

それは、

『自分がどう生きるか』の大切さです。

『誰といたいか』『何をしたいか』これは今後テクノロジーがさらに発展、進化したところで未来では大事になってくると思います。

アウシュヴィッツ収容所から生き延びた人たちのほとんどの人は『生きる意味を見出している者だ。』とご自身も収容されていた精神科医のヴィクトール・フランクルさんはお話しされたそうです。

家族が待っている。自分にはやり残した仕事がある。など『生きる意味』は時に苦しい時の自分の支えになります。

これからの時代はテクノロジーの進化によって、全てが携帯でコミニュケーションを取るようになるからこそ『絆』や『支え合い』と言う人間らしい部分が大切になってくると思います。

この僕の短編小説が皆さんの人生で少しでも明るくなることを願っています。

では、あなたは隣にいる人に愛してると言えてますか?

2021年10月1日 坂口 靖彦。

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