《Deep Red Sugar Saxophonist》第１話

　これは、中学時代に書いたお話です。
　昔使っていたパソコンから、そのままデータを移しました。
　訂正なし、原文ママです。
　途中まで公開しますので、どうか生あたたかい目で見守ってやってください。

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　午前零時。暗闇の中に、ひとつの人影があった。髪は長く、澄んだ茶色の瞳。服装は、上は白、下は黒の服装だった。
　綾子は呻き声を上げていた。右腕は刃物で深く傷つけられ、白い服が真っ赤に染まっている。白く、細く、長い指に、血が伝っている。血は、その指先からポタポタ落ちていく。
　痛い・・・もうだめ・・・・・・
　綾子は、左手で出血が続く右腕を押さえながら、その場に力なく座り込んだ。血は、押さえていた左手を伝っていく。生温かった。押さえる力を強くしてみる。
　最近あまり眠っていなかったからなのか、それとも、出血のせいなのか・・・・・・綾子に睡魔が襲いかかる。瞼は少しずつ重くなる。意識が遠のく。
　もう・・・どうなってもいいわ・・・・・・
　綾子は静かに瞼を閉じる。
　その時、銃声が一発響き渡った。
　綾子ははっとして目を覚ます。逃げなきゃ。この場から、今すぐに。私がまだ生きているなんて奴に知られたら・・・刃物の傷では済まないわ・・・殺される。
　何とか立ち上がって逃げようとしたが、遅かった。その男は綾子の前に立ちふさがった。
　男は、綾子に銃口を向けている。
　沈黙が流れる。
　最初に口を開いたのは綾子だった。
「あなたは・・・私を殺しに来たんでしょ・・・なんで、すぐに殺したりしないの・・・・・・」
　鋭く痛む右腕を押さえながら、言った。血が一滴、地面に落ちる。
「・・・まだあなたを殺すのは早い。もっと痛めつけてから、殺したい」
　男は答えた。恐ろしいくらい、低い声だった。
　綾子はその恐怖に耐えられなくなり、男とは逆のほうへ逃げ出した。
　体中が震えていた。どうなってもいいなんて言ったし、自分自身、あの場で殺されていればよかったって・・・あの時は、そう思っていた。でも、銃口を向けられ、低く、恐ろしい声であんなこと言われたら・・・私はもう、だめだった。想像なんてしていなかった死の恐怖が、一気に襲ってきた。
「そんなに痛めつけてほしいのか。それなら・・・・・・」
　男は、逃げる綾子に銃口を向ける。
　まだ死にたくない・・・私にはやらなきゃいけないことがたくさん・・・・・・
　綾子の左足に激痛が走る。血が噴き出す。
「うっ・・・」
　綾子は地面に倒れこんだ。右腕と左足の激痛が、同時に襲い掛かってくる。綾子の体からは、すでに大量の血が流れ出していた。
　倒れこんだ綾子に、男が近づいてきた。
「あんた・・・ほんとに俺から逃げられるとでも思ってるのか」
　綾子は、答えられなかった。痛みが鋭く、耐えているので精一杯だった。下唇を咬む。
　息を荒くして、辛い痛みをこらえ、綾子は言った。
「・・・逃げて見せるわ・・・絶対・・・あなたに殺されたりなんて・・・しないわ」
「・・・そうですか」
　男は、氷のように冷たい視線を綾子に向けた。
　その瞬間、綾子は立ち上がった。持っていたナイフを男に向かって投げつける。
　ナイフは信じられないくらいの速さで飛んで行き、男の左肩を刺した。
　綾子は、再び逃げ出した。走るたびに、撃たれた左足がずきずきと痛む。しかし、立ち止まっている暇などない。逃げなくては。
　背後で男が銃を構えているのは、だいたいわかる。・・・恐い。どうしても恐くなる。最初に男に会った時の恐怖を思い出す。
　いや・・・死にたくない・・・まだ殺されたくなんかない！

　綾子の胸を、一発の銃弾が貫いた。

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