小さじ2杯

私は勤務先の学校から車で10分程のところに住んでいる。交通手段は毎回原付に荷台をつけたような乗り物のトゥクトゥクを使っている。時代は進んでいて、スマホにアプリをダウンロードし、そこにトゥクトゥクを呼びたい場所と行き先をタイプすれば、料金が表示されて近くにいるトゥクトゥクが来てくれる。ぼったくられる心配のない素晴らしいシステムだ。

今朝もいつものごとく、行き先に学校名を入れてアパートまで来てもらった。そのとき近くにいるトゥクトゥクが来るので、ドライバーさんは毎回違う。トゥクトゥクに乗り込み、走り出してしばらくして、運転手さんに「韓国語、話せますか?」と質問された。「話せません。日本人なので」と答えると「あ~日本人ですか」と運転手さん。3秒ほどの沈黙の後、何かをもう一度質問してきた。

「......クセ」

「......ハクセ.....」

「......ハクセン.....  アーユーストゥーデント?」







韓国語である。韓国語であなたは学生かどうかを聞いてきた。耳を疑った。わたし日本人っていうたよな?しかもカンボジア語で日本人やから韓国語は無理やというたよな?ほんであ~日本人っすね、とお兄ちゃんいうたよな?

パニックになった私はなぜか「アンニヨ、ソンセンニンイムニダ」となけなしの韓国語を絞り出して答えた。

味をしめたお兄ちゃんは、もっと韓国語で質問をしてくる。わたしも必死になけなしの韓国語で会話を繋げる。

なぜ、日本人の私が、カンボジア人の運転手お兄ちゃんと韓国語で会話をしているのか、おかしくなってにやにやしながら学校に到着した。



カンボジア人によくされる質問のひとつに「中国人?韓国人?日本人?」がある。最初の頃は、中国人や韓国人に間違えられることに戸惑いを覚えたが、少し冷静になれば確かに同じような顔である。今はそう聞かれても何とも思わず日本人です~と答えるようになった。

ここからがカンボジア人の素晴らしいところ。日本人と聞くと、「アリ~ガトゥッ」と「コムニチワ」と眩い笑顔で挨拶してくれる。その眩い笑顔の中に小さじ2杯ほどのドヤ感があることも愛すべきポイント。

日本人あるあるだと思うけれど、外国の言語を話そうとするとき、ああ、この発音だと通じないだろうな、とか完璧に話せるようになってから実際に話してみよう、と尻込みしてしまう。ビビっている間に、自分の小さな挑戦に卑屈さを大さじ1杯ほど混ぜ込んでしまうのである。

日本人に対して果敢に韓国語を挑戦してくるお兄ちゃんと尻込みがちな自分を思いながら、カンボジア人を見習わねばと思う今日。



























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