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インド映画『RRR』で大活躍、誇り高き軍馬マルワリが好き

こんにちは。Pacallaという馬のWEBメディアで「Pacalla馬図鑑」という記事を連載している一介のライターです。その中で、過去に『マルワリ』という耳がくるんと湾曲したインドの在来馬を紹介させてもらっているのですが、最近その記事がTwitterでシェアされはじめたので、なぜ??と思っていたら、大ヒット中のインド映画『RRR』の中でマルワリが活躍していたとのこと。

マルワリはいつか乗ってみたい憧れの馬! これは見に行くしかない! ということで先日、映画館で見てきました。インド映画にこれまで関心がなかったため、マルワリにありきで見に行ったのですが、これがもうめちゃくちゃ面白くて、今年はあと2カ月あるけど、個人的に2022年に見た映画の中でNo.1はもうこれに決まりです。マルワリの素晴らしさはもちろんですが、それを置いておいても本当に良すぎる映画でした。

だらだらと前置き(すみません)

そんなわけで今回は劇中に出てきた、マルワリの話をちょこっとできたらなと思います。ただ、前置き(言い訳?)をしておきたいのが、マルワリって伝説的、神様的な感じで思われたりもしている関係上、信憑性のある情報が世の中に少なめです。あんまり現地(インド)で研究がされていないという事情もあります。なので、これから書くのは「あくまでも、私が見聞きしたことのある情報」と「私の個人的な意見」として軽い気持ちで読んでいただければ幸いです…! 加えて、覚えが悪いので映画のシーンの記憶が間違っている可能性ありです…。書く前からすいません。

(また、ネタバレはしていないと思いますが、基本的にRRRを見た人じゃないと読んでもよくわからないと思います。)

耳が不思議な形の、あの馬はなんだ?

本作品『RRR』の主人公ふたり、ラーマとビームが初めて出会うシーンで、ラーマが乗っている馬。この馬の耳がくるんと内側に湾曲していて、とても珍しいので映画鑑賞後にググってみたという方が結構いらっしゃるようです。

この馬はインドの在来馬で、おそらく『マルワリ』という馬です。「おそらく」と書いたのには理由があって、インドの在来馬で耳が湾曲しているのはマルワリだけではないのです。実はカチアワリという品種の別の馬もいます。ただ、体格とかその他の特徴(左右の耳先が触っていない等)を見ると、今回RRRに多く使われているのはマルワリの方だと思います。ちなみに2つの品種の共通点の湾曲した耳は『インド耳』と呼ばれています。

マルワリはインドのラジャスタン州が原産の馬で、かつては軍馬として重宝されてきました。インドでは数々の伝説が語られ、非常に勇敢で神聖と考えられており、『インドの誇り』と称されてきた馬です。

11月9日追記)現地在住の方に聞いたところインド耳の馬は厳密に分けると他にも3種類ほどいるということでした。追って調べてみようと思います!

マルワリの身体的特徴をまとめたイラスト

イギリス植民地時代のマルワリ

私がRRRに興味を持ったのは、マルワリが登場するということはもちろんですが、物語の舞台がイギリス植民地時代のインドだったいうことがあります。というのも、マルワリは当時のイギリスにあまり好まれず、かわいいインド耳は奇形といわれ、インドの繁殖技術が低いからこういった馬が生まれるのだと嘲笑の対象となっていたと読んだことがあったのです。当時のイギリスはマルワリの生産を減らし、他のポロポニーやサラブレッドを生産するようにしていきました。それがマルワリの衰退のきっかけ、原因ともいわれています。またこの頃からマルワリとサラブレッドとの交配も進んだそうです。

ちなみに、近代ポロの発祥もインドです。イギリスのスポーツのように思われがちですが、イギリス植民地時代にインドにやってきたイギリス兵がポロを発見して、なにこれおもしろいじゃん!となり、本国に持ち帰ったという経緯です。そんなこともあって、前述のようにポロポニーを生産する方向に動いたのかなと思っています。

11月14日追記)調べた感じ、マルワリもポロに使われたりしなくもないようなんですけどね。マニプリとかポロにもっと向いている馬は他にいたので。マルワリは歩様的には馬場馬術の方が向いてそう。

なお、インドが独立した後も、マルワリをとりまく状況はよくなりませんでした。マルワリのことをよく知らない人たちの手に馬がわたってしまい、管理が雑になり、絶滅危機へとつながっていきます。その後の流れについては、長くなってしまうのでPacalla馬図鑑の方をご覧ください。

11月14日追記)図書館にて『英領印度産馬状況一班』という大正時代に書かれた資料を発見しました。そちらを解読していく中で、上記に関してアップデートするかもしれません。

劇中、マルワリはどこに出てきた?

RRRは絶賛劇場公開中(2022/11/8現在)で、まだネット配信で何度も同じシーンを繰り返して見たりできないので、映画館で一度だけ見た私の記憶が確かならば…ということになるのですが、劇中最初に登場した馬はビームの故郷の森の中で、イギリス兵(総督)が乗っていた馬だと思います。これはマルワリではなくサラブレッドっぽさのある馬でした。

次に目立つ形で馬が登場するのが主人公ふたりの出会いのシーンです。

上に貼った動画では残念ながらカットされてしまっているのですが、ラーマが乗っている馬は橋の上で荷馬車を曳いていたマルワリです。昔、神様のように崇められたマルワリは、車などの台頭によってその役割を失いはじめると荷馬車などを曳くようになったといいます。やっぱりRRRはそういう時代の話なのかもしれません。

そんな話から、個人的には神のような存在のマルワリが荷馬車を曳くイメージがあまりなかったのですが、日本の在来馬(ドサンコなど)の側対歩という歩き方は揺れが少なく荷物を運ぶのに適しているということなので、リヴァルという特別な歩き方をするマルワリももしかしたら適しているのかもしれません。一応リヴァルが見られる動画を貼っておきますね。

ラーマがマルワリに乗り、ビームがバイクに乗って走るこの出会いのシーン。時間にするとかなり短いですが、その後の展開も相まって非常に印象的になっています。優美に着飾ったお祭り仕様のマルワリも素敵ですが、勇敢な軍馬だったことを彷彿とさせるマルワリのイメージにピッタリの、素晴らしくかっこいいシーンになっていました。

11月21日追記)なおメイキングを見たところ、マルワリが後肢で立ち上がるところや直線を走るところはブルーバックで実写、ラーマを橋の外に放り出すところはVFXを使っています。撮影方法がおもしろいですね!ちなみに軍馬として活躍した際に後肢で立ち上がる姿勢が求められたようで、口伝によればマルワリは数分間そのままでいることが可能だといわれています。実際、マルワリは後肢で立ち上がっている写真や動画が良く出回っているので、得意ではある(または訓練されることが多い)のかなと思います。


※ちなみに、「RRR」をググると下記のようなバイクと馬が走る演出が出ます

上記のシーン以外にも、親友として過ごすラーマとビームの青春感満載の描写の中には、たびたびラーマが馬に乗り、ビームがバイクに乗って並走する楽しげな様子が登場します。その際にラーマが乗っている馬はほぼマルワリです。(サラっぽい馬も少しいたかも、、記憶が)

ラーマが騎乗している馬だけでなく、劇中のさまざまなシーンにマルワリたちは映り込んでいます。マルワリに乗っているのはインド人だけではありません。イギリス兵もマルワリに乗っているシーンがありました。ただし、マルワリに乗っていたイギリス兵は落馬し、神話になったラーマに乗り替わられてしまいます。(この映画の中においての)支配的で、インドやマルワリに敬意を持たないイギリス兵が『インドの誇り』に跨るんじゃねぇ!お前が乗る馬じゃねぇ!と言っているかのようなシーンでした。

11月21日追記)上記、2回目の鑑賞で再度注目しながら見まして、何か証拠があったわけでもないんですが、やっぱり意図的だと思いました。ここはラーマたちがインドの誇りを取り戻すシーンだと思います。

なお、ラーマ役の俳優ラーム・チャランさんは乗馬技術に非常に長けており、「ラーム・チャラン・ハイデラバード・ポロ・ライディング・クラブ」のオーナーも務めています。どうやらインドでポロというスポーツを復活させたいと思いがあり、チームを立ち上げたという経緯のようです。

そのほか、ちょっと気になったところ

マルワリのことをネットなどで調べると、完璧な湾曲のインド耳のめちゃくちゃ美しい個体ばかりが出てくるのですが、実際は全ての馬が完璧な湾曲じゃないよね、そうだよねというのが、映画の中で見て取れたのが面白かったです。ちょっと映り込むだけのマルワリだとだいぶ左右の耳が離れている子がいたり、顔はサラブレッドっぽくて、ちょっとだけ耳が湾曲していたりするなど、作り込まれていない、純血種だけじゃないであろうリアルなマルワリ界隈を少し感じられたのがよかったです。

それから、てっきりパンフレットやWEBに使われているマルワリとバイクに乗った主人公二人のビジュアルは、出会いのシーンものかと思っていましたが、ちゃんと見るとラーマの乗っている馬も違うし(マルワリではある)、ビームが乗っているバイクや服も出会いのシーンのものとは違うようです。バイクの違いについてはバイクに詳しい方がTwitterに書かれていたりもしたので、そちらも調べみるとおもしろいかもしれません。
※この記事のキービジュアルのイラストを描いてるときに気が付きました。

インドの誇り、マルワリにいつか会いたい

この映画は、主人公ふたりの友情の物語であり、インドを取り戻す物語でもあると思います。イギリス植民地時代という舞台の中で『インドの誇り』といわれてきたマルワリが、象徴的に登場することに意味があったりするのかなと思ったりもしたのですが、どうやらS・S・ラージャマウリ監督は以前の作品(バーフバリ等)でもマルワリを起用しているようなので、そこは深読みしすぎたかもしれません…!(これから同監督の他の作品でどのようにマルワリが出てくるのかもチェックしていくつもりです)

監督は乗馬技術に長けており、自ら騎乗シーンの演技指導などもするようなので、馬に詳しい人だと思っています。また、インドはサラブレッドを年間1200~1300頭くらいは生産していますし、さらマルワリやカチアワリ以外の在来馬も生産しているけれど、マルワリは世界に5000頭しかいないとされています(※1)。なので、たまたま起用した馬がほとんどマルワリだったということはないんじゃなかろうか、と思います。

単純に見た目が美しくて画面映えするとか、監督がマルワリ好きとか、そういうのも含めてですが、なんらかの意思があっての起用なんじゃないかなと。もしかすると、軍馬として古くから使われてきたマルワリの勇敢な気性が映画の撮影に向いているとか、マルワリを後世に残したいとかいう理由もあるかもしれないですよね。(ちなみに監督の故郷とかも調べてみましたがラジャスタン州ではありませんでした。あとはロケ地がラジャスタン州に近くて、マルワリの手配が容易だった?とかも考えたんですが、ロケ地がどこなのかまで調べられなかったです。誰かロケ地教えてください…。)

(※1)正確な数字はわからない。マルワリ生産地のラジャスタン州の1992年の調査では純粋なマルワリは3000頭だった。とりあえず、頭数だけで考えたらサラブレッドの方が手配するのは容易そうに思える。

11月21日追記)他作品も見てみて、やっぱりこれは深読みなんじゃなくて監督の中で、インドの勇者、ヒーローが乗る馬はマルワリなのではないかと思いました。

12月5日追記)マルワリの現在の頭数について、Indian Journal of Animal Sciences 91(2021年発行)に2019年時点で25000頭という記述を見つけました。本当ならかなり増えている…!(嬉しい。ただし、この数字も本当に正しいかどうかちょっとわからない…)。単純に考えると25000頭いれば、当初5000頭と考えていたときよりは手配が容易なイメージになりますね。ただ、インドって広いですし、インド在住の方にお話を聞いたところ、インド国内で見かける馬は圧倒的にサラブレッドが多いということでした。同監督作品のマガディーラでも現代パートはサラブレッド、前世パートはマルワリと分けられているので、やはりマルワリがインドの主流ということではないんじゃないかなと思います。どちらにせよ、5000頭と25000頭だと結構インパクトが違うと思うので、早い段階で記事を読んでくれた方には申し訳ないです…。すみません…。

マルワリは輸出の制限云々…の問題などもあり、なかなかインド国外で見ることができない馬です。おそらく、現在日本にはいないと思います。ただ、前述のPacalla馬図鑑でマルワリ編を書いたときに、少しメッセージのやり取りをさせてもらったインドのマルワリ生産者さん(バイヤーさん)は本気で日本にマルワリが欲しいなら協力すると言っていたので(←急に話が大きくなったのでちょっと焦りましたが…)、いつか日本にマルワリがやってくることもあるかもしれません…!その時はぜひマルワリに会ってみたいですね。

(いろいろマルワリについて書きましたが、とりあえずわたしは今、ラーマに夢中です。)

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11月14日追記)同監督作品『マガディーラ 勇者転生』を見て、そちらも馬について考察しました。今回に増して、主観と願望が強めになっておりますがご容赦ください…!


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