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映画レビュー『舟を編む』 - 日本語と人情の深みを味わえる作品

※ネタバレ注意

「はじめに言葉ありき」

皆さんは「右」という言葉の意味を説明してと言われたらなんと答えますか?
これは“言葉”の持つ力の通り、とても深い問いです。

“西を見たときの北の方”、“時計を見たときの1〜5時がある方”、“本を開いたときの偶数ページの方”、“10と書いたときの0の方”。
自分だったらなんと表現するだろう。右を感じる瞬間…うーん、パッと思いつきません。。それほど、単純な言葉ほど語釈を付けることが難しいですね。

本映画は『大渡海』という新しい辞書を編纂する辞書編集部を舞台とした、辞書づくりに関わる人たちのドラマです。
「辞書づくり」と聞いただけで気が遠くなりそうですが、そういった語釈をみんなで考えるシーンを思い浮かべるとユニークな仕事ですよね。

W受賞な作品

2012年本屋大賞を受賞した三浦しをんさんの同名小説を映画化した作品ですが、辞書編集という一見地味な世界を人間ドラマに仕上げた原作は素晴らしいものだと思います。(読んだことないので…)

映画作品も2014年の日本アカデミー賞を受賞しており、遅ればせながら観ることができました。タイトルの『舟を編む』の通り、丁寧に編み込まれた作品でした。

言葉は生まれて、死んでいくもの。そして時代とともに変わっていくもの

言葉は自分の気持ちを正確に伝え、相手の気持ちを正確に知りたいという、人と繋がりたいという願望から生まれたもの。コミュニケーションそのものです。
辞書に収められている言葉は数十万語。言葉の海はとても広く深く、その大海を誰かのもとへたどり着くために渡る舟。それがタイトルと辞書名に込められた思いです。

電子辞書や携帯電話の普及の兆しがある時代に、何十年という途方もない作業の先にあるものは、単純に言葉の意味を調べる道具としてだけではなく、今の時代の言葉を残す役割があるのです。
例えば、「見れる」「出れる」のような“ら”抜き言葉。正確には間違いであるが、それを説明した上でも今の言葉として伝えたいという編集長の想い。

そして、コミュ障の主人公が辞書編集を通して言葉の深みに溺れながら、好きな人との恋を紡ぐ物語。
ただ、長い文章(恋文)よりもたった一言(「好きです」という告白)の方が力があったりするものです。

主人公“真面目な馬締くん”(松田龍平)が香具矢(宮崎あおい)を気遣って伝える「切る」にも様々な意味があると。“野菜を切る”、“風を切る”、“時間を切る”、“電話を切る”、“縁を切る”…いいシーンです。
これぞ日本語の深みですね。厚切りジェイソンに言わせたら「Why Japanese people!?」だと思いますが。笑

素晴らしいキャストとスタッフ陣

主演の松田龍平さんのおどおどした性格と猫背、素晴らしい役づくりです。それと、松本編集長を演じる加藤剛さんの演技がまた渋くてイイ!

役者でいうと、この前編集つながりで『重版出来!』で主人公を演じた黒木華さんが今時女子の役で出ており、新人俳優賞を獲っていたり、文学青年の又吉直樹さんもカメオ出演しているのが憎いですね。

そしてアカデミー賞監督の石井裕也さん。なんと同い年で大学時代の友達の友達でした。活躍されてますね!

与え合いの恩贈りで巡る世の中になったらいいな。 だれでも好きなこと、ちょっと得意な自分にできることで、だれかのためになれて、それが仕事にもできたら、そんな素敵なことはないですね。 ぼくの活動が少しでも、あなたの人生のエネルギーになれましたらうれしいです。