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コロナ渦不染日記 #63

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十月十七日(土)

 ○忙しかった一週間が終わり、ようやくの週末であるが、来週もまた、忙しくなることが確定しているので、気持ちはあまり休まらない。

 ○朝おそく起きて、原稿をし、昼すぎにでかけて、なじみの美容室で毛刈りをする。

 ○移動の途中、アニメ『鬼滅の刃』を三話まで見る。

 主人公と妹の登場から、彼らが(当座に)目指すべき場所が提示され、そこへの道筋が示されるところまでを、ていねいに描く語り口は、あいかわらずモノローグがおおい。特に、第二話は、主人公だけでなく、主人公を襲う鬼や、主人公を育成することになる教育係〈育手[そだて]〉のモノローグも入り、始終キャラクター(の内面の声)が鳴り響きっぱなしである。
 しかし、第三話になると、一話のあいだに長い時間が経過するため、モノローグが「映されていないあいだのことを説明する」役割を果たしていて、映像とモノローグに内容の重複がなく、演出としてむだがない。

 ○毛刈りのあと、友人ご夫婦と飲む。久々に会うお二人が、元気そうでなによりであった。天沢退二郎『光車よ、まわれ!』や「オレンジ党」シリーズ、柴田勝茂『夜の子どもたち』など、ホラー風味の児童書の話でもりあがる。

 ○本日の、全国の新規陽性者数は、六二三人(前日比-一七人)。
 そのうち、東京は、二三五人(前日比+五一人)。


十月十八日(火)

 ○浜の映画館で、映画『鬼滅の刃 無限列車編』を見る。

 原作マンガはまったく読んだことがなく、アニメ版も三話までしか見ていないが、それでも充分に楽しめた。

 ○前半は、「悲劇のヒーロー」ものによくある、「ヒーローとなったきかけである、ある悲劇が起こらなかったとしたら、ヒーローは幸せだっただろうか」という問いかけのエピソードである。
 この題材じたいは、格段、目新しい題材ではないし、この映画の語り口も平凡である。たとえば、アニメ『バットマン:アニメイテッド』のいちエピソード「ブルース対バットマン」は、「もしブルース・ウェインの両親が死なず、バットマンにならなかったとしたら、彼は幸せだったのか」という話であった(なお、このエピソードの原題は「Perchance To Dream」、邦訳するなら「夢かもしんない」となる)。
 だが、こういう物語は、いつでも、新しく語られているということが大切なのである。こういう物語は、「悲劇もまた、人を作る重要な要素である」という、人の生き方に大切なことを語るものである。失敗しない人間はいない。そして、人間は自分の生きかたに関わるすべての変数を認識しきることができない。となれば、人生は、悲劇を避けてとることはできないのである。後悔のない人生はないのである。しかし、それでも、生きものは生きなければならない。だから、悲劇をこそ、前へ進む理由とせねばならない。悲劇から、自分を作りあげなければならないのだ。

 そして、「自分だけが新しく見つけたもの」以上に、人のこころに刻まれるものはないのである。だから、この手の物語は、いつでも、繰りかえし、語られる必要がある。

 ○だが、この映画の白眉は、後半のバトルシーンである。実際の上映時間は、はかっていないのでわからないが、体感としては、列車のなかでのバトルシーンと同じくらいの時間をかけられていたように思われる。それくらい、重要なシーンであった。
 ここで描かれるのは、『ロッキー』である。「もし最終ラウンドが終わり、ゴングが鳴り、まだ立っていられたら。人生で初めて、俺は近所のゴロツキとは違うってことを証明できるんだ」である。自己の限界を意識し、その限界を超えようと努めれば、たとえその過程で命を落としたとしても、そのことじたいが、自己を証明することになるのである。つまり、これもまた、それじたいが素晴らしい物語であると同時に、「自分だけが新しく見つけたもの」になりうるのである。

 ○週末の劇場は大入りだった。なかには、親に連れられて、あるいは友達と連れだって、この映画を見にきた少年少女がおおくいた。彼らは、この映画を見て、はじめて、
「人間には限界があること」
「その限界を知ることは、限界の前に膝をつくことであり、悲劇であるが、その悲劇なしに、人間は人間たり得ない、ということ」
「限界を知ることなしに、限界を超えようとすることはできない」
 そして、
「限界を超えようとする姿は、それを目撃したもののこころを鼓舞し、いつか、その限界を超えるところまで、『人類』を連れて行くことができるかもしれない」
 という、『クリード チャンプを継ぐ男』とおなじ感動を受け取ったであろう。まちがいなく、傑作である。

 ○本日の、全国の新規陽性者数は、四三一人(前日比-一九二人)。
 そのうち、東京は、一三二人(前日比-一〇三人)。

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→「#64 新展開」



引用・参考文献



イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/


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