コロナ渦不染日記 ＃73
十一月十六日（月）
○今朝の体温は三六・一度。
○最近、通勤途中の電車で、失神するごとく寝てしまう。疲れているのか、季節の変わり目で眠いのか。
○本日の、全国の新規感染者数は、九五三人（前日比－四八七人）。
そのうち、東京は、一八〇人（前日比－七五人）。
一日の新規感染者数が五百人ちかくも推移するのは、あきらかに報告件数の違いでしかないだろう。実際は、もっとおおくいるはずである。
十一月十七日（火）
○今朝の体温は三六・〇度。
○実に二か月ぶりに、大好きな「こういうのがいいんだよ」ラーメンを食べる。
ラーメン半チャーハンセットが安定のうまさである。
○帰宅して、S・D・シフ・編『マッド・サイエンティスト』より、レイ・ラッセル「サルドニクス」を読む。
ウィリアム・キャッスルという映画監督がいた。監督した映画の内容もさることながら、その外側にしかけを用意して、総合的なエンターテインメントにしたてあげる、興行師としての成果で名を知られた監督である。『地獄へつゞく部屋』では、上映中、客席のうえに骸骨を飛ばし、『ティングラー 背すじに潜む恐怖』では、「妖獣〈ティングラー〉が劇場に侵入しました！」とあおったあと、客席の背もたれにしこんだ、電流発生装置を起動するなど、ギミックを駆使することで、一世を風靡した。
この監督が、『ミスター・サルドニクス』として映画化したのが、レイ・ラッセルの「サルドニクス」である。おぞましい悪事をおこなったために、醜い面相となってしまった、「サルドニクス」と名のる富豪が、自分の面相を治すために、ある医者を呼び寄せ、彼のかつての思い人を人質にとる、というのが筋である。キャッスルは、この悪漢の生死を、観客にゆだねるというギミックを用意した。映画館にやってきた観客は、一枚の紙を渡される。一面には「サルドニクスを許す」、もう一面には「サルドニクスを許さない」と印刷されている。それを手に、映画を見ていると、クライマックスで、スクリーンに登場したキャッスル監督が、「多数決で結末が変わります。自分の願う結末が印刷されている面を、スクリーンにむけてください」と観客に呼びかけるのである。もちろん、結末は決まっている。しかし、だとしても、「自分たちが物語の行く末を決めることができるのでは？」と思わせるところに、観客は楽楽しむことになる（これは、現代日本でも、子供むけアニメ映画の上映で、行われているギミックである）。
映画はこうしたギミックがウリであったが、もちろん、ギミックだけでウケるわけではない。しっかりしたストーリーがあってこそ、ギミックは光るのである。レイ・ラッセルの原作は、それをかなえる、しっかりした、いま読んでも面白い、パルプ・ホラーであった。
○ウィリアム・キャッスル監督は、その奇抜なアイディアとエンタメ精神で、おおくの人々に愛されたことであろう。ジョー・ダンテ監督の傑作青春映画『マチネー 土曜の午後はキッスで始まる』に登場する、ギミック映画の監督は、あきらかにキャッスル監督をモデルにしている。
○本日の、全国の新規感染者数は、一七〇〇人（前日比＋七四七人）。
そのうち、東京は、二九八人（前日比＋一一八人）。
二日ぶりに、一七〇〇人を超える新規感染者が報告された。政府の発表では、これは「感染流行拡大の第三波」であるということだが、では、八月のあれは、第二派であったということなのだろうか。
十一月十八日（水）
○いよいよタイツを履いた。
今朝の体温は三六・〇度。
○今日の仕事は、いまひとつの成果に終わった。クライアントの意向を読み違えていたようである。反省の日。
○本日の、全国の新規感染者数は、二二〇〇人（前日比＋五〇〇人）。
そのうち、東京は、四九三人（前日比＋一九五人）。
すさまじい勢いで、新規感染者が報告されている。二〇〇〇人を超えるとは、いよいよ感染拡大は確実になってきた。北海道での報告が増加しているが、神奈川などでも二百人以上が報告され、やはり、大都市で感染拡大が起こっているようである。
十一月十九日（木）
○ジャケットのなかにベスト、スラックスのしたにタイツというかっこうで出かけたのであるが、どうやら今日はあたたかい一日になった。
今朝の体温は三六・〇度。
○帰宅すると、田舎から父うさぎがやってきている。明日、姪うさぎのお宮参りが行われるので、それに同行すべく、上京してきたものである。
帰宅したぼくと入れ替わりに、父うさぎと母うさぎは、近所の寿司屋に夕食をとりにでかけた。巣穴に残ったのは、ぼくと下品ラビット、妹うさぎ、姪うさぎである。妹うさぎが姪うさぎに夕食をあげているあいだ、ぼくと下品ラビットが、からあげを揚げた。
○本日の、全国の新規感染者数は、二三九〇人（前日比＋一九〇人）。
そのうち、東京は、五三四人（前日比＋四一人）。
二日連続で、新規感染者二〇〇〇人超えである。
十一月二十日（金）
○巣穴を出て、駅へとむかう道すがら、いちょう並木をとおりかかると、老婆が銀杏を拾っている。昨晩の風が強かったものか、ふり落とされたもののようである。
今朝の体温は三六・〇度。
○昼食時にスマートフォンを見ると、姪うさぎのお宮参りの写真が、次々と送られてくる。両親も妹うさぎも、義兄弟うさぎもめかしこんで、にぎにぎしいことである。
○どうぶつマッサージから帰宅すると、ひさびさに、巣穴に一家が集まった。お宮参りが済んだことを口実に、ささやかな酒宴となった。
○本日の、全国の新規感染者数は、二四二七人（前日比＋三七人）。
そのうち、東京は、五二二人（前日比－一二人）。
引用・参考文献
イラスト
「ダ鳥獣戯画」（https://chojugiga.com/）
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