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山の天気は本当に変わりやすい【信越北陸一人旅⑥】

朝から雲海を見た僕の車の足取りは上り坂であろうととても軽い。平坦な田んぼ道を走っている時くらいアクセルの踏み心地が軽かった。

しばらく走ると、青と緑の景色からグレーと赤褐色の景色に変わった。白根山の火口付近に来たらしい。またどういうわけか先ほどまで快晴の様子を見せていた青空は消え、空一面が分厚そうな雲で覆われていた。よく「山の天気は変わりやすい」と聞くが、ちょっと標高が上がっただけでこんなに変わるものなのだろうか。


白根山の火口といえば、写真スポットとしても有名だ。火口にギリギリまで近づき、エメラルドグリーンのお釜を撮影することができる。僕もそのお釜を一度で良いから見てみたいと思っている。僕がこの道を通った時は、白根山の火口付近は立ち入り禁止になっていた。最近は白根山の火山活動が活発らしい。

走りながら周りを見渡しても人っこ一人いないし、木や大きめの草といった目立った植物はあまり生えていなかった。剥き出しの岩肌が多く、地面には赤褐色の、車内から見ても乾燥していそうだと分かる土が無造作に敷かれていた。動物が気軽に住める世界でないことが車内にいても肌で感じられる。


他に目についたものとしては、所々に建てられた避難用のシェルター。どれもものすごく簡素で、コンクリートでできたただの細短いトンネルって感じだった。車で素通りしながらの確認だったので正確には分からないが、密着状態でもせいぜい6〜7人しか入らないような気がする。実際に今ここで火山が噴火した時、本当にあんなシェルターで助かることができるのかとめちゃくちゃ疑問に思った。


気がつくと、もう山の下の景色はグレー一色。さっきは綺麗な雲海が見えていたのに、今はもうただただ何も見えないだけのグレー。空からこちらに何かを見せようとする気概はまったく感じなかった。道は一本道。本当にこのまま進み続けて大丈夫なのだろうかとも思ってくる。


赤褐色の土はやがて見えなくなり、下り坂が多くなって来た。

そうか。ここから山を下るのか。まもなく下界に帰れるというホッとした気持ちが胸を包み込もうとした時、また上り坂がやって来た。さらに加えて、霧が立ち込めて来た。霧は昨日の夜も経験したぞ。


霧の中上り坂をしばらく登ると、車が多く停まっている駐車スペースを見つけた。こんな所で何かが見られるのだろうか?僕はふとカーナビを見ると、そこが日本の国道の最高地点であることを知った。まず国道の最高地点ってカーナビに載ってるんだって思った。


せっかくなので僕も車を停めることにした。車から降りると、すぐそこには「日本国道最高地点」と書かれた石碑が立っていた。


標高は、2172m。富士山の標高がだいたい3800mくらいだった気がするので日本の中では結構な標高の山だと思う。まだ道路ができていない頃に人間がこんな高い場所まで道路を整備するなんて、昔の人はなんて根性があるのだろう。僕は城巡りが好きなので山城に行くことも度々あるが、要塞といわれる山城ですら標高は高くてせいぜい500mいくかいかないかぐらいだ。その山城で土を掘ったり石を運んだりするのだけでも相当苦労したはず。国道が整備された頃は山城を作っていた時代よりかは技術が色々と進歩していたが、それでもかなり大変な作業だったことは想像に難くない。そんな昔の人の根性のおかげで、我々は群馬県と長野県を行き来することができるようになった。


石碑のそばでは、何やら他の観光客たちが丘の下を眺めている。僕もそれにならって丘の下を眺めてみたが、霧でまったく何も見えない。彼らの話に聞き耳を立てていると、どうやら彼らはここで何かが見えるのを待っているらしい。彼らは一体何を待っているというのだろうか。僕も5分くらい丘の下を眺めて何かが現れるまで待ってみたが、先ほど雲海を目にしていた僕は、どうせ雲海以上のものは見られないだろうと思って再度車に乗り込んだ。彼らは、何を待っていたのだろうか。


そこが国道の最高地点ということは、ここから先はほとんど下り坂。エンジンブレーキを駆使しながら山をひたすらに下っていく。そのまま走っていたら志賀高原に辿り着いた。


志賀高原。初めて来た。スキーのイメージしかないがオフシーズンでも何か見られるのだろうか?この時点でまだ7時台だったので周辺でやっていそうなお店や施設はなく、観光案内地図みたいな物も見当たらなかったのでいったん駐車スペースに車を停めて志賀高原の観光スポットについて調べることにした。そこで、どうやらこの辺りには景色の良い池があるらしいことを知ったのでそこに向かってみることにした。そういえば空はいつの間にかまた雲の少ない快晴になっていた。


カーナビに従って目的地までたどり着くと、待っていたのは綺麗な池ではなくただの茂み。うっそうとしている。よく見ると茂みと茂みの間に車では通れなそうな細い道があることに気づいた。道の目の前に駐車スペースというか、駐車しても良さそうな地面があったのでそこに車を停め、歩いてその道の奥に進んでみることにした。きっとこの先にその池があるのだろう。


だが進めど進めど池なんてものは見当たらない。足元の植物はなんだか濡れていて短パンを履いていた僕の生足にたまに触れてくる。それだけでもちょっと歩いていて嫌になるっていうののに、虫の数も結構多かった。歩きながら、なんで自分はこんな道を歩いているのだろうとか考えたりしていた。結局、道の奥まで進んだが池は見られなかった。「もういいよ!」と啖呵を切るような気分で来た道を早歩きで引き返し、車に乗り込んだ。


再び車で走り始めると、国道沿いに池があった。なんだ、こんな簡単に辿り着けるんじゃねーかと思い駐車スペースに車を停めて見てみると、その池は先ほど見ようとしていた池とは異なる池だった。でも池はそこそこ綺麗だったし何より手頃に池が見られたような気がしてもう満足だった。後で調べたら、紅葉の時期が特に見頃のようだ。

志賀高原では特に他に寄れそうなスポットもなさそうだったので、そのまま国道に乗って山を下ることにした。先を急ぐのにも理由があった。この先に、温泉があるらしいことは事前に調べておいた。僕はそこで朝風呂に入りたかった。この時点でもう時計は8時を回っている。油断していると朝風呂どころか昼風呂の時間になってしまう。志賀高原での観光はこれくらいで十分だ。


こうして志賀高原を少しだけ楽しませていただいた僕が辿り着いたのは、長野県にある渋温泉だった。


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