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アクアリウム【さとうささら】-制作後記- ④編曲~ミキシング編

アクアリウム
歌:さとうささら【CeVIO AI】
作詞・作編曲・mixing:yanaki Jun
写真:orika.

編曲

構成について

『アクアリウム』の構成とキー(調)は下記の通りです。

(イントロ ― 1A ―1A’)GMaj
(1B)FMaj ― A♭Maj
(1サビ)E♭Maj
(間奏)Cm
(2B)FMaj ― A♭Maj
(2・3サビ)E♭Maj
(アウトロ)Cm

サビ~間奏を終えてから2Aを繰り返す一般的な形としなかったのは、詞を書き終えた時、この並びで眺めた方が収まりが良く感じたからです。また楽曲を続けて聴き返すとき、出だしのGMajが一度しか登場していない構成にすることで、飽きのこない仕掛けとする狙いもありました。が、現在の消費される向きの強い音楽シーンにおいて、この狙いはほとんど意味を成さなかったように思います。楽曲を発表したボカコレのようなイベントでは、短いながらも聴き手の関心を集める即効性の高いイントロ作りに苦心すべきなのでしょう、きっと。

水底をイメージした音

楽曲のテーマに従って、いくつかの音色選びが決定されます。前回のユニット作『恋花火』でも、アウトロ部で花火のSEを入れてみたり、サビ直前のFX(効果音)にリバースさせた花火の爆発音を入れ込むなどしています。
『アクアリウム』では水底に沈んだ音で曲が閉じている他、泡沫(ほうまつ)を意識したSynth Pluckの音をどこか上昇して聴こえるようなフレーズで鳴らしています。

生ドラムに差し替わる前のリズム隊のエフェクト処理も、同様の狙いから行われています。

ストリングスアレンジ

サビを例に、ストリングスについて解説を試みたいと思います。
※Vn=ヴァイオリン / Va=ヴィオラ / Vc=チェロ / Cb=コントラバス

作業工程は次の通りです。
① 歌メロに対してVnのカウンターメロディ(副旋律)を決める。
POINT:歌メロが盛り上がる最高音の箇所では、引き立て役に徹するべく目立たせない。
② 1st Vnと2nd Vnはオクターブで重ねる。
POINT:2nd Vnの音域が楽器の最低音(G2)より下にならないよう注意。
③ 2nd Vnに対してVaを3度下でハモらせる。
④ Vcはコードのベースラインをなぞる。
( エレキベースが担っているときCbは省略)

①が思い付けば後の工程は機械的に行ってもそれなりの形になるのではないでしょうか(暴論)。それくらい歌ものでのストリングスアレンジは①が重要だと考えています。歌の邪魔にならないよう、それでいて単体で聴いても魅力的に思えるラインとするのが理想です。黄=歌メロと紫=1st Vn(鳴っているのは1st+2nd)を抜き出した動画を用意してみました。

様々な奏法を取り入れるとらしさが出るので、駆け上がりやフォール、スタッカート等で動きを付けています。ちなみに『アクアリウム』で使用したストリングス音源はSession Strings Pro 2です。使い勝手が良く、歌ものポップスに適した音源だと思います。

Session Strings Pro 2 / Native Instruments

カウンターメロディとなるストリングスラインの構築は決して容易ではありませんが、ハモりを意識することが一つの手掛かりとなります。インターバルは3度と6度が基本と覚えておくと破綻のない響きが得やすいでしょう。
またメロディとの分離感もポイントとなるので、リズムが並行しないよう心掛けます。歌メロが伸びているときや休符のタイミングでストリングスを動かす、歌メロにはない奇数拍を取り入れる等々。『アクアリウム』では駆け上がり、駆け下がりは5連符を基調としています。

歌メロとは異なる魅力的なメロディを模索していく。

Vaは2nd Vnに対して3度下を(コードトーンに即して適宜調整しつつ)ハモらせ、Vcは先に出来上がっていたエレキベースの1オクターブ上をなぞらせています。ストリングス単体で鳴らすとこんな感じです。

歌メロのない間奏部やアウトロは、ストリングスを主旋律として捉えている他、あまり作業工程に差はありません。副次的な動きを付ける対象楽器がピアノに取って代わられています。
楽曲によってはパートを増やすディヴィジを考えてみたり、VaとVcに別の動きを付けることも(そもそもVaとVcを省いてアレンジすることも)ありますし、副旋律を作らず背景的に和音の白玉を組むこともあります。その時々で最適なアレンジの形を考えていきます。

ストリングスは表情付けが重要なので、しっかりとボリュームのオートメーションを書く。

ミキシング

エフェクトプラグイン

《Plate Reverb》
今回ミキシング時に少しばかり難航したものが、ボーカルエフェクトの要とも言えるリバーブ選びでした。前述した通り水底をイメージした音作りを意識していたので、深めにかけて演出しているのですが、普段愛用しているプラグインたちだとどうにもしっくり来ず。最終的にフリーで配布されていた「RO-GOLD」に落ち着きました。(※最終的な仕上がりではルーム系のリバーブも薄く混ぜています。)

RO-GOLD / Black Rooster Audio

元々ここのデベロッパーさんは「VLA-2A」(後発のMarkⅡ含め)等、個人的に気に入って使用しているプラグインが多かったのですが、「RO-GOLD」はとりあえず貰っておくか、くらいの気持ちでダウンロードしてから特に触れていませんでした。改めて調べてみると既製品の「RO-140」からGold部のみを抜き出した廉価版のようですね(「RO-140」は他にプレート素材としてSilver、Steel、Aluminum、Bronze、Titaniumが選択可能)。プリセットはありませんが、このつまみの少なさでは迷いようもないですね。時には、これくらいざっくりとしか設定できないプラグインの方が好ましい結果が得られることもあります。気になった方は下記リンク先よりどうぞ。
RO-GOLD / Black Rooster Audio(※アカウントの作成が必須です。)

最後に

長々と書き綴ってきた制作後記は、ひとまずここで終えたいと思います。今後も発表する楽曲を通じて何か有益な情報を上げられたらと考えています。最後までお付き合いいただけた方は、本当にありがとうございます。
次回は、私なりのラウドネスノーマライゼーション対策について記述してみたいと思います。それでは。

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