肉うどんとハイボール、いつかどこかの違う人生で
すいません、お代わりください。
やるせなさすぎて。
笑い話にもなりゃしない。
でも、それでよかったのだと思う。
記憶は感情と紐づいている。
ありふれた毎日に。
埋もれても不思議じゃない出来事を覚えているのは。
何らかの想いがあったから。
理由などなく。
ともにいるだけで。
嬉しかったのだと思う。
ひとりぼっちじゃないから。
感情は共鳴する。
ともにいて嬉しかったなら。
相手もまた。
嬉しかったのだろう。
ひとりにはさせなかったから。
人生なんて本当は。
ありふれた毎日の積み重ね。
人を構成する、理由なんかない日々。
始まりがあって、終わりがあって。
出会いがあって、別れがあって。
生があって、死があって。
だけど消えない。
ともにいた記憶。
夫婦で結婚式に呼んでもらった学生時代の後輩が。
数年前亡くなった。
自殺だった。
どうしても抜けられない仕事があって。
告別式は夫に参列をして貰った。
でも、それでよかったのだと思う。
結婚式で号泣していた新郎のお父さん。
告別式での様子を聞き。
慟哭を見る勇気はなかったと感じたからだ。
付き合いは長くない。
でも、なんとか後輩の力になろうと。
出来ることを全てした。
後輩のためにしたことを。
人から批判をされたこともあった。
失敗はあったかもしれない。
でも正直、間違っていたとは思わない。
批判のいくつかは。
なんらかの嫉妬のようにも感じた。
強情だったかもしれないけど。
貫いた。
彼のために。
付き合いは長くない。
でも、想いは強かった。
だからだと思う。
訃報に接してから。
結構長いこと落ち込んだ。
死の選択なんて。
本人にしかわからないような苦しみと。
分かち合われにくい事情があって。
誰かを護る目的が秘匿されてることもあるから。
安易な解釈を嫌う出来事だと理解している。
後悔。
もっとできたことがあったんじゃないか。
私ごときが他人の人生を。
どうにか出来ると思うのは傲慢なのに。
酷く罪悪感を覚えて。
苦しいなと何度も思った。
元々人付き合いが苦手な後輩だったけど。
どうしているかなと。
お子さんも大きくなったかなと思い出すくらいの疎遠さで。
多忙になり、ある日突然。
訃報が届いた。
メールの件名にぎょっとしたことを覚えている。
もっと深く関われたなら。
思い出したときに連絡できたなら。
後輩は死なずに済んだのか。
私は彼を見捨てたのか。
たまに。
いい思い出になりましたなんて言ってたけど。
年寄りくさいと、からかいたくなる軽さはなく。
微妙なニュアンスを覚えた。
まるではじめから。
何かを決めてたかのような。
触れられなかった。
どうしても。
後悔と自罰感情が。
何度も寄せては返した。
今でもたまに思い出す。
いくつかのことを。
別に、なんかしらいいことを言ったわけでもない。
つまらない雑談や。
後輩のズレた発言にイラッとしたこと。
多少のメールのやり取りや。
後輩が気を遣ってくれたこと。
珍しく彼がやってみたいと強く望んだから。
となりにいて。
機械操作を見守ったこと。
なるべく手を出さないように。
経験値的に周りには大反対された。
だけど、私が責任を取るからと貫いた。
繊細で慎重さが必要な操作だったから。
大したことはさせてあげられなかった。
操作に憧れを抱く人も多くて。
彼もまたそのひとりだった。
あのとき言われたんだった。
いい思い出になりましたと。
全然特別じゃない。
ありふれた毎日に。
埋もれても不思議じゃない出来事を。
それでも私が覚えているのは。
想いをかけた後輩のとなりにいたのが。
ただ嬉しかったのだと思う。
感情は共鳴する。
私が嬉しかったなら。
後輩もまた。
嬉しかったのだろう。
懐かしさに似た雑多な記憶を思い出すのは。
一度でも彼の幸せを。
祈ったことがあるからじゃなかろうか。
なんで。
なんでよ。
と、思った。
何度も。
生きる理由になるような。
大したことはさせてあげられなかった。
だからって。
何も死ぬこたないじゃんか。
ごめん。
役に立てなかったね、私。
何もしてあげられなかったね、私。
ごめんね。
助けてあげられなくて。
だめな先輩で。
ごめんね。
とても柔らかいものが。
ぶつんと断たれたような気がした。
同じく結婚式に呼ばれた友人と。
気持ちの折り合いがつかないもの同士で、よく愚痴りながら飲んだ。
結論なんて出やしない。
ぶつぶつと、やるせない気持ちを話しているだけ。
そういうときのハイボールって。
なんであんなに炭酸が抜けてるんだろう。
気持ちに折り合いがつかなかった。
あるときまでは。
後輩の死から少し経って。
とある人に何気なく話したことがある。
霊的な世界にとても詳しい。
新興宗教の人ではない。
どちらかというと「視える」系の人だった。
あなた方が、彼を祈っておられるお陰で。
人生をやり直すための学びに入れてますよ。
その方。
えっと。
情報量が多すぎて。
何から理解したらいいのか混乱したけど。
とりあえず。
転生前提ってことだねとまずはおさえた。
でも。
人生をやり直すための学びが。
どんなものかはいまだに知らない。
どういう仕組みなのかも知らない。
ロングコートダディの「お前は肉うどんです」みたいなものか。
肉うどんでやり直す人生なら。
だいぶ深淵だな。
だけど思ってしまった。
亡くなって終わりじゃなかったんだ。
彼の人生には、続きがあるのか。
やり直せるのかもしれないのか。
何それ。
ものすごく救われるんだけど。
とても柔らかいものが。
ぶつんと断たれたその先が。
あっただなんて。
しかし。
私も、友人も。
ハイボールかレモンサワーとともに。
ぼやくばかりで。
特に祈った自覚はない。
でも、なんとなくわかった。
通夜も告別式にも参列できていない私たちが。
ぐだぐだと飲みながら後輩のことを語るとき。
彼を感じている。
肉体はもうないのに。
彼ですらないかもしれない。
どこで何をしてるのか。
何で誰なのか。
全くわからなくても。
存在は今も。
確かに。
きっと。
ものすごく下手くそなやり方だろうけど。
弔っていた。
私たちが彼を終えるために。
けりのつかない気持ち。
出ない結論。
少々の……いや、すいません嘘です。
結構なdis。
やるせなさすぎて。
笑い話にもなりゃしない。
すいません、お代わりください。
いつもハイボールの炭酸抜けてるんだよな。
この店。
でも。
新規開拓しようずなんて気分じゃないからいい。
話してるのは。
彼との思い出。
彼が存在した記憶。
私たちのとなりに。
全然特別じゃない。
ありふれた毎日の。
しょぼい出来事。
初めて知ったよ。
さして美味くないつまみと。
評価点を見出せない酒で。
いつまでもやるせなくて。
だっせえなあウチら。
ともにいただけ。
となりにいただけ。
特別なことなんか何もない。
だけど全部含めて。
祈りだってことを。
炭酸の抜けたハイボールを献杯して。
供養していたことを。
ウチらと彼の鎮魂を。
だっさ。
何かもうちょっと。
かっこいいのがよかったんだけど。
ひとつの出来事を完了させると。
必ず次のステージに進む。
私たちが彼を終えると。
彼も次に行けるのだろうか。
光に還れるのだろうか。
かつて彼だった誰かが。
新しく始まるのだろうか。
レクイエムをかけてあげる。
そうね私が選ぶなら。
米津玄師の「Lemon」かな。
人生をやり直すための学びって。
誰かを助けることなんだそうだ。
特に、すごく大変な道を行く人と。
ともにいること。
18年ぶりリーグ優勝がかかった阪神タイガースの。
ナイター中継が耳に飛び込んできたとき。
※2003年当時。
もしかしたら私にも、もう一度奇跡が起きるかもしれないと。
思えてしまったとき。
生活保護で暮らしてた古いアパートで。
ふと、ラジオをつけてみようと思い立ったとき。
かつて誰かだった誰かが。
ともにいてくれたのかもしれない。
励ましてくれたのかもしれない。
体はない。
声も聞こえない。
でもふと感じた。
ひとりで野球中継を聴く習慣は。
全くなかったのに。
何もなくて惨めな暮らしだったけど。
確かにあの実況を聞いてから。
少しずつ人生は浮上していった。
ねえあのさあ。
ヤツは人生をやり直すための学びっていうのに入れてるらしいよ。
あんたと私が祈ってるからだってさ。
一瞬、友人が反応したのがわかった。
無言は、承知したの意味だったので。
特にそれ以上触れなかった。
ハイボールの炭酸は相変わらず抜けてる。
肉体はいつか滅ぶ。
だけど心は消えないという。
人間の本質は心で。
肉体は心に従っているだけだという。
何度も何度も思い出すのは。
後輩との間に交流した、ぼやっと温かな感情。
あの感情そのものが。
彼の本質なのだろう。
目には見えない。
だけど。
愛だから消えない。
損なわれていない。
だから。
根拠はない。
確証もない。
だけど思った。
やり直せるの。
マジだな、これ。
星の王子様だって言うじゃんね。
本当に大切なものは目には見えないって。
人間だから間違う。
彼はきっと間違えた。
だけど間違えただけで。
罪はない。
だから。
罰は要らない。
間違いは。
訂正されればいい。
チャンスは何度も送られてくる。
ともにいてくれる誰かも。
必ずいる。
一回くらい肉うどんを経由してもいいんじゃないのと思うけど。
時空を超えていつかどこかの違う人生で。
今度こそ幸せになれる道のりを。
かつてヤツだった誰かが。
誰かとともにゆけるなら。
私は自分を肯定できる。
あのとき出来ることは。
全てやれたのだと。
人間だから誰でも間違いはする。
だけど罪などどこにもない。
あなたにも。
わたしにも。
だから。
あれでよかったのだと思う。
ありふれた毎日に。
埋もれるような出来事として。
あのとき出来なかったことが。
なされるかもしれない。
いつかどこかの違う人生で。
XXXX年 XX月XX日
I氏を長らく鬼追い込みしてきた。
何度も逃げてきたんだから、今度は絶対逃げなさんなとケツを叩いた。
嫌われたしうざがられたけどまあしょうがない。
でもこれまでどうしても書けなかった最終章の展開が良い。
けれん味もあり、読者のバイアスが一旦解体されて再構築される清々しさ。
賛否両論起きる、響く読書体験になるだろう。
初版の刷り部数、プロモーションの方向性も決まった。売れる。
地道ないい本だから炎上はさせない。
長く継続的に売る。
今度は奥さんと娘さんも喜んでくださるだろう。
朝食:なし
昼食:栄養剤とカレーパン(サンジェルマン)
夜:I氏の奢りで肉うどん(社食)
深夜:I氏脱稿祝いで前担当のHと。
板わさ、刺身盛り合わせ、厚焼き玉子、かつ煮、もりそば。
どうでもいいけどHと飲むハイボール、なんでいつも炭酸抜けてるんかな。
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参考資料
Youtube『M-1グランプリ』「【ロングコートダディ【決勝ネタ】1st Round〈ネタ順7〉M-1グランプリ2021」(2021年12月19日)M-1グランプリ、https://www.youtube.com/watch?v=uwURyePEvZY(参照日:2022年4月21日)
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