『20年越しのプレゼント』 #2



「やったあ! ビンゴ!!」
「おめでとー!」

 クリスマス会当日。子どもたちはビンゴ大会に夢中になっていた。ビンゴになった人からプレゼントが与えられていくのを、写真を撮りながら見守る。運営は全て彼に任せていた。
 ペンケース、下敷き、クリアファイル、シャーペン、消しゴム、お菓子、など。筆記用具が中心のプレゼントではあるが、子ども達の間での流行りのキャラクターやデザインをきちんと押さえられているらしく、なかなかプレゼントは好評であった。
 後輩にプレゼント選びを任せて良かったなと思う。

「ねーねー」

 1人の女の子が、スーツのスカートを引っ張ってきた。

「どうしたの?」

 しゃがみこんで目線を合わせると、その子はもじもじしながら口を開く。

「サンタさんって、ほんとはお母さんなの? あの子達が言ってたの」

 指さした先には、小学6年生の男の子の集まりが。この子自身はまだ小学4年生である。ありがちな出来事に、苦笑いしてしまいたくなるのを抑えた。

「お姉さんはサンタさんいると思うなぁ」

 子どもの夢を壊さないよう、これまたありがちな回答をする。女の子はパッと表情を明るくして「だよね!」と言って同じ学年の友達の元へ駆けていった。
 私が子どもの頃も、他の友達がサンタの正体が親だと話しているのを聞いてしまったなぁと思い出す。そこで悟ったものだ。だから私は、サンタからプレゼントを貰えなかったのだと。
 どうしても欲しくて堪らないものだったような気がするのだけど、何だったっけ。
 また思い出すことが出来なくて、もやもやとした気持ちが溜まった。欲しいものが得られなくて悲しんでいたことは覚えているのに。

 その後もクリスマス会は順調に進んで、子ども達は満足した様子で帰っていった。後輩と共に片付けをする。
 本日は直帰なので、このまま車で家まで送ってもらうことになった。クリスマスのデートも、この年になってわざわざ混んでいる外に出る気にもならないということでお家でゴロゴロとすることに。

「子どもの反応良くて良かった」
「ね。君のプレゼントチョイスのおかげだよ、お疲れ様」

 帰り道、今日のクリスマス会を振り返る。クリスマス会についてほとんど彼に任せてしまったけれど、正解だったと思う。

「君は小さい頃、プレゼント何貰ってたの?」

 ふと気になって聞いてみた。彼は1年浪人したので仕事上は私の後輩だけど、年齢は同い年である。世代が同じならば私が小さい頃欲しかったものも、彼が貰ったものと被っているんじゃないかと思ったのだ。

「ゲームばっかり欲しがってた。DSとか」
「あー、あったね」

 小学校に男友達が持ち込んでいたのを思い出した。やっているのを少し見せてもらったこともある。しかし当たり前のことだが、学校にゲームを持ち込むのは禁止なので没収されていた。
 ゲーム類を欲しいと思っていたような気もしなくはない。けれど、いつからか自分の欲しいものを口に出すのが怖くなっていた。父の機嫌を損ねるのが怖かったのだ。
 嫌だな、このシーズンは。幼少期を思い出すことが増えるからか、父のことばかり思い出す。

 私の家庭環境について先日話したばかりだからか、彼が私に対してクリスマスの思い出を聞いてくることはなかった。何かしら察せられるものがあったのだろう。
 彼とは付き合って半年程になるけれど、今まで頑なに父のことについては伏せていた。母子家庭であることは言っていたけれど。
 気を遣われているんだろうか。静かな空間に、少しの気まずさを覚え始めたときだった。

「あの、さ」

 彼が口を開き、沈黙は破られた。



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