『冬の終わりと春の訪れ』#18【完】

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 ――なんてことを書いてくれたんだ。

 読み終わってすぐ、僕は自分の鞄の中から新年号を取り出した。僕が部室に顔を出すのをさぼっている間に製本作業が終わり、完成したものだ。3日前にはできていたが、遠山さんの作品もあると思って避けてしまっていたもの。

 パラパラとページを捲る。そこに遠山さんの作品を探す。題名は「親愛なる君へ」。最後のページを見ると、僕の名前のところは「――」という線で代用されていた。掲載するにあたって、おそらく名前を載せることを避けたのだろう。

 ということは、これは、原稿のコピーなんかじゃない。名前を修正する前の、原稿の原本だ。

「バカ……!」

 反則だと思った。こんなの。許すとか許さないとかの問題じゃない。


 スマートフォンを片手に取る。LINEのアプリを起動する。
 遠山さんのアカウントを表示した。良かった、アカウントを削除してはいない。

 トーク履歴には、僕達の他愛ないやり取りや冬休みの間の待ち合わせ時間の相談が詰まっている。けれどその中には、蜜柑さんの作品に対する僕の感想も詰まっている。
 その時の書き出しはいつも決まっていた。

『蜜柑さんへ』
『原稿読みました。蜜柑さんの作品は、相変わらず――』


 この先は、遠山さんだけに贈る言葉。


「溶けちゃうね」積もっていた雪が消えていくのを見た彼女は、寂しげにそう呟いた。春よりも冬の方が好きだと言う。花粉症のせいかと聞いてみたら、彼女は首を横に振った。「春は別れの季節だもん」冬を惜しんだ彼女は、春になると海外へ渡った。僕がそれを知ったのは、雪が跡形もなく溶けた後だった。

~冬の終わりと春の訪れ~
【完】


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