『冬の終わりと春の訪れ』#17

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 刻一刻と〝終わり〟が近づいてくる。それは私自身を焦らせていた。
 彼にこのことを告げようか。けれど、告げた後にどうすればよいのかも、どうしたいのかすらわからなかった。そう考えたら逆に、告げたくないような気もしてきた。

 このまま時が止まればいい。そう思った。

 ――しかしそんな私の願いなんて叶う筈もない。気が付けばクリスマス。
 最後の思い出作りにも良いかなと思って、部活の先輩たちと遊ぶことになった。勿論その場には、彼もいた。
 素直に嬉しかった。誰かと一緒に思い出を共有できることも、その場に彼が居ることも。

 あまりに楽しすぎて、欲が出た。彼との思い出が、もう少し欲しい。
 そんな想いは通じたのか、彼と冬休みも学校で会えることになった。雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり。それはとても穏やかで、楽しい日々で。まるで雪が彼と私を繋ぎとめてくれているようだと、ロマンチックなことを考えたりもした。

『溶けちゃうね』

 だから、雪が消えていってしまうのはとても悲しかった。冬が終わり、春が来る。その過程で私に待つのは、〝終わり〟の瞬間だった。
 そんな私の気持ちなんて知る筈もない彼は笑っていた。私はその笑顔を壊したくなかった。

 見ることが最後になるかもしれない彼の表情は、笑顔が良かった。


『――先輩、私、年が明けたら海外に行くんです』
『え!?』
『今までお世話になりました』
『待って、急すぎるんだけど!』

 学校に行くのが最後となったあの日。受験勉強の邪魔になるかもしれないとは思いつつも、お世話になった部長には電話で連絡を入れた。

『……あの子には言ったの?』
『いいえ』
『言わないの?』

 部長の言葉に、鼻の奥が熱くなる感覚を覚える。

『なんて言えばいいのか、わかんないんです』

 声を出した瞬間、涙が頬を伝う。

 なんて言ったらいいというのか。私が海外に行ったら海外での生活が待っているように、彼にだって日本での生活がある。最初はメッセージのやり取りが盛んに行われたとしても、いづれ疎遠になるだろう。それなら、すっぱりと別れの言葉でも言って縁を切ってしまいたい。
 でも、別れの言葉なんて言いたくない。言う勇気なんて、なかった。


 出発の日が近づいてきた。明日には私は日本を旅立つ。
 だからそろそろ、筆を置こうと思う。


 ねぇ、片山くん。
 こんなに臆病な私は、最後まで自分の気持ちも、別れの言葉も口にすることはできませんでした。
 そのくせして、こんな原稿にもなっていない、手紙としても成り立っていないようなものを残す私を、どうか許してください。
 君との時間は私にとって、とても大切なものでした。大好きでした。

 今まで、ありがとう。


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