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働かないおじさんと日本型終身雇用

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※このnoteは、毎週土曜の夕方に投稿しています

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前回記事のとおり、14年目で経理ガラパゴスへ異動となりました。ここでは、閉ざされた井の中で威厳を誇示するベテラン勢とは一定の距離を保ちつつ、異動1年目ということもあって「従順なフリ」をしていました。

今回は、経理部時代に少し関連する「働かないおじさん」について書きたいと思います。

「働かないおじさん」が蔓延する日本型終身雇用

先日、サントリーの新浪社長が「45歳定年制」を提言しました。若干炎上したようですが、これは日本型終身雇用の限界を象徴しているようにも思えます。

といいますのも、東京海上においても「働かないおじさん」が増加しており、会社は彼らの対処に苦慮しています。かつての東京海上においては、日動火災との合併後の2008年頃から大量の降格処分を乱発することで、人件費ファンドの均衡を図っていました。しかし、日本の労働関連の法律において「降格に係る立証責任」は会社側にあります。

これは、仮に労働者が「降格不当だ」と訴訟を起こした場合に、会社側が「この人はXXXで、本当にダメな人だから降格した」と十分に立証がされて初めて、会社側の「降格処分」が妥当と判断されるものです。これ以上の細かな解説は記載しませんが、日本の労働者は手厚く保護されており、会社側が裁判所に「確かにこの人はダメだね、降格は妥当!」と認めてもらうハードル(立証責任)が、極めて高いのです。

しかし、これらの立証責任を軽んじていた東京海上は、実際に労働者から「降格不当」として訴訟を起こされ、負けてしまいます。

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会社「この人は本当にダメな人なのです。XXXだったり、XXXもあって、会社としては面倒見てきたけど、やはりダメだった。降格は妥当でしょう?」
裁判所「ん~、確かにダメな部分もあるけど、配置転換するとか、会社も温情をもって対応すれば良かったんじゃない?立証不十分!労働者の勝ち!降格は不当ということで」
労働者「やったぜ~!」

この立証責任の配分は、関連する法律や事象によって様々で、全ての訴訟において会社側が不利という訳ではありません。しかし、日本の労働関連の法律においては、特に降格や解雇等は労働者が圧倒的に有利な体系となっており、この過保護とも言える労働者保護の法体系の存在が、「日本は世界で最も成功した社会主義国家である」と言われている一因なのかもしれません。

この点、私個人の見解としましては、働かないおじさんの降格はウェルカムでした。なぜなら、会社全体として考えると、彼らの高額な給与を私の世代が倍以上働いて補填している構図になっているので、この負のスパイラルを解消するためにも、私は「どんどん降格させて欲しい」と思っていました。

しかし、上記の労働訴訟で敗訴した後は、東京海上において降格人事を見ることはほとんど無くなりました。降格に係る会社側の立証責任や訴訟リスクおよびレピテーションの観点からも、このような危ない橋を渡り続けることはできないと判断したと思われます。

しかし、損保業界においては、自動車保険バブルが終焉を迎え、社員の高額な給与を支えることが難しくなっています。そして、増え続ける「働かないおじさん」の問題。働かないおじさんは増え続け、日本型終身雇用の会社においては、解雇・降格は難しい。そうであれば、近年推進されている「若手の給与削減」「女性の活躍推進の名の下の給与削減」等は、会社が働かないおじさんの雇用を維持するための最後手段なのかもしれません。

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なぜ「働かないおじさん」は増え続けるのか

日本型終身雇用の会社においては、目の前の「働かないおじさん」が引退したとしても、新たな「働かないおじさん」が次々と量産されます。若手の方から「バブル入社の働かないおじさんが引退すれば大丈夫」という話を聞きますが、これを日本型終身雇用の構造上の視点から捉えてみるとどうでしょうか。

以下の記事で示しましたとおり、多くの方は「出世の壁」で振り落とされ、「④諦め組」として生涯を終えます。特に、自動車保険バブルの終わった損保業界の収益は非常に厳しいこともあって、昇格させる人員も相当程度絞られている状況です。そうすると、ますます「④諦め組」の人々が増えていく構図になります。そして、このカテゴリーに分類されてしまうと、出世が無くなるので、それに気づいた従業員が頑張る意義も意欲も無くなってしまうのです。

そして、配属ガチャからの異動ガチャを経て、気付けば市場価値も低くて転職はできない。しかし、日本の労働法において労働者は強力に保護されており、そこそこ働いておけば解雇も降格も無いので、量産された「働かないおじさん」が会社に居続けるのは、当然の帰結ではないでしょうか。この「働かないおじさん」を個別に攻撃するのは簡単ですが、問題はそれほど単純ではなく、日本型終身雇用の構造的な問題といえます。

このような前提を踏まえると、新浪さんの唱えた「45歳定年制」も違った見え方がするかもしれません。

日本型終身雇用の会社において、増え続ける「働かないおじさん」を今後も支えるのであれば、より強力に、今まで以上に「若手の給与削減」「女性の活躍推進の名の下の給与削減」等を推進するしかありません。少なくとも「バブル期入社の働かないおじさん」が引退しても、このような構造上の問題が解決する話ではなないと思います。

じごく


ここで、もし政府の唱える「70歳定年制」が導入されるとどうなるでしょうか。おそらく、更に現役世代の給与等を下げざるを得ず、多くの方は頑張ることが馬鹿らしくなり、中長期的に労働意欲の著しい減退を引き起こすのではないでしょうか。これは、社会主義国家が崩壊していくのと同じ構図ですね。

そもそも、国家が個別企業に対して「定年を70歳にせよ」と要請すること自体に違和感のある話ですが、戦後の日本においては、一定程度の自由なビジネスは認めつつ、雇用等の社会保障は社会主義国家のように強力に統制してきた点が、世界的にも稀な日本型社会主義の特徴なのかもしれません。


どの「働かないおじさん」を選ぶ?

これまで、東京海上において「働かないおじさん」は各現場で受け入れていました。経営企画、経理、財務といった本社コーポレート部門は、経営に関わる重要な仕事も多く、「働かないおじさん」の受入れは免除されてきたのです。しかし、現場では増え続ける「働かないおじさん」で溢れて返っており、現場だけで支えることができなくなってきました。

このような背景から、これまで「働かないおじさん」の免除を受けてきた経理部も、いよいよ「働かないおじさん」が人事部からノミネートされます。

人事「おじさんA、おじさんB、おじさんCの3人から選んでください」
経理部長「・・・、じゃあAで」
人事「要員にはカウントされない(ゼロカウント)ので、ご安心を・・・」

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(続く)

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