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安野光雅美術館(島根県津和野町) へ行ってきました

 4月初めに訪れました。爽やかな風が吹く天気の良い日でした。
桜の時期は過ぎてしまっていましたが、山々の新緑が輝いていました。

JR山口線津和野駅の改札口を出で右手、道路をはさんだ向かい側、徒歩約2分のところに安野光雅美術館はあります。
 白壁に赤茶色の石州瓦が美しい和風の建物です。

左手に駐車場があります
正面玄関

安野光雅氏ご自身が建物の設計や内装のデザインに関わり、2001年に開館しました。昔の酒蔵と学校の木造校舎をイメージした造りです。

正面入り口を入ると、高い天井に広いロビーがあって、右手にミュージアムショップがあります。ショップのみの利用も可でした。コインロッカーあり。

館内は撮影禁止でした。写真はロビーの撮影OKスポット。

「はじめてであうすうがくの絵本」より

 ロビー奥の展示室入口の横には、正方形のマス目に数字が彫られた石製のタイルが壁一面にかかっています。安野氏が考案し、彫刻家の佐藤忠良氏が彫った魔方陣です。どの数字も、隣り合わせの縦、横、斜めに並んだ数字を足すとその合計が同じになるように配置されています。
 「ふしぎなえ」や、「はじめてであうすうがくの絵本」シリーズを書かれた安野氏。数学に造詣が深かったことが伺えます。
 絵画に限らず芸術って、数学的センスが必要なんだな、と改めて思います。

 この美術館では、三か月ごとに展示の入れ替えが行われ、幅広い安野作品が鑑賞できるようになっています。
 私が訪れた時の展示は、「歌の世界」と「安野光雅の描く花」

 第一展示室「歌の世界」では、絵本「雲の歌 風の歌」(2005) 、「歌の風景」(2001)、「天動説の絵本」(1979)から、それぞれ20数点、計60点以上の原画が展示されていました。
 居合わせた初老のご夫婦が、様々な歌にちなんで描かれた絵を見ながら、思わず浮かんだその歌を小さく口ずさんでいました。
絵とタイトルを見て、すぐにメロディーが浮かぶのって、なんかいいなあ、と思いました。
 第二展示室「安野光雅の描く花」では、「御所の花」や作家澤地久枝氏の本の装丁に使われた原画などが30数点ありました。
 落ち着いた雰囲気で、ゆっくり鑑賞することができました。


プラネタリウムと「天動説の絵本」

館内には、小さなプラネタリウムがあります。
来館された際は、プラネタリウムも鑑賞される事をお勧めします。
1日4回上映で、一回35分。上映開始時刻12時、13時、14時、15時。
別途料金は不要です。チケット売り場に申し出て番号札をもらいます。

上映されるのは「天動説の絵本」(1979年刊、福音館書店) を元にしたオリジナルプログラムです。

冒頭と最後に、安野氏の声でナレーションが流れます。
「…絵や小説のような芸術も、天文学のような科学も、疑うことから始まるのです…」
「…知っている事とわかっている事は違います。わかっているのなら、それを自分の言葉で人に説明できないといけません。本に書いてあったから、テレビで言っていたからと、他人のせいにしてはいけません…」

 存外に厳しく鋭い言葉に、ハッとなりました。
彼の絵は、どれもやわらかく温かく、神経に触る所など何も無いのに。

 しかし、よく考えてみると、彼の作品は、遠くから全体を見ているような絵が多く、老若男女様々な人々や動物が登場し、家々や建築物、生活に関わる道具や機械が細かく描き分けられています。
花や木々は、省略されながらも、その特徴をよくとらえています。
そこには、対象を愛でるだけではない、画家の冷静で理知的な観察眼を感じます。

 世界は多種多様なもので成り立っている、それぞれが考えをもち、役割がある。そこには個々人の喜怒哀楽の生活がある。
それをあくまでも淡い色調と優しい絵柄で包み込んで表現されているのだな、と思いました。

ミュージアムショップで購入

 あとがきまで読み終えて、色々と考えてしまいました。「天動説と地動説をわかりやすく解説した本」というだけではない内容でした。

「天動説」を信じていた昔の人々がまちがっていたことを理由に、古い時代を馬鹿にするような考え方が少しでもあってはいけません。ー中略ーいいかえれば「地動説」がわかるという事は、たんに前にのべた天体のうごきの仕組みが説明できるということではないのです。それよりも「天動説」時代の人々が何を考えて、どういう暮らしをしていたかを理解することができるかどうか、という事です。

天動説の絵本 あとがきより抜粋

これは、「天動説」と「地動説」に限らず、政治、宗教、科学、道徳感、価値観などあらゆる分野で、自分と対立する意見に出会った時に、考えなければならない事だと思いました。

 安野光雅氏は1926年(大正15)年生まれ。終戦間際、敗戦の色濃い時期に兵隊に召集され、戦後は22歳から35歳まで美術教師として小学校や中学校で教鞭を取っていたそうです。戦中戦後の体験と、子どもたちの教育に携わった経験から、自分で考えることの大切さを身に沁みて分かっていらしたんだと思います。

 もちろん、こんな小難しい事を考えなくても、絵をながめているだけで十分楽しめる本です。
原画の展示もありましたが、本当に単純な線でありながら細部まで描いてあります。

ミュージアムショップ

絵葉書、クリアファイルなどのオリジナルグッズのほか、安野氏が使用していた水彩画専用用紙、MOREAU (モロー)が販売されていました。

著書の品揃えが充実していました。
画集や絵本の他、対談集、エッセイが販売されていました。
 なお、館内に「図書室」があり、安野氏の本が自由に読めるようになっています。手にとって気に入ればショップで購入されるとよいです。
「皇后美智子さまのうた」、井上ひさし氏の演劇ポスター、表紙絵を手がけた筑摩書房「ちくま文学の森」シリーズ (数種類、全部ではないです) 等も。

私のおすすめ安野光雅の本

繪本平家物語
 私が持っているのはカジュアル版ですが、大型版が全国の図書館に蔵書があると思うので、未読の方はぜひ大型版でご覧になって下さい。
 安野氏自身が現代語に書き下した文章と、精密な絵によって平家物語のストーリーがよく理解できます。「もののあわれ」を感じさせる絵です。

騎馬や武士の鎧兜の描き分けがすごい

繪本シェイクスピア劇場
 文章は、シェイクスピア戯曲の完訳で知られる翻訳家、演劇評論家の松岡和子氏。一つの作品を見開き1ページで、簡潔な文章と安野氏の絵で解説してあります。
原画展が、京都府丹後の和久傳「森の中の家」美術館で 2023/3/8〜6/5 開催中です。

余談

 漫画家の安野モヨコ氏(ハッピーマニア、オチビサン、美人画報) の公式note の記事によると、ある出版社からお二人の共著の本を出そうという企画があったそうです。
事の顛末はこちら。ご興味のある方はどうぞ。無料で読めます。→https://note.com/anno_moyoco/n/ne1c2d807623e

津和野のおみやげ

三松堂さんの「源氏巻」と「こいの里」

津和野銘菓 源氏巻。これは三松堂さんのです。
「こいの里」もお勧めですよ!
ひと口羊羹みたいなお菓子で、口の中でスっと溶けます。
コーヒーにもお抹茶にも合います。

JR津和野駅は無人駅

往復の切符は出発地で手配した方がよいです。
山口線は極端に本数が少ないので乗り遅れにご注意。
また、期間によって、蒸気機関車SLやまぐち号が新山口ー津和野間を走ります。完全予約制です。1ヶ月前から発売開始ですが、人気ですぐに満席になってしまいますのでお早めに。詳細は、SLやまぐち号公式ホームページを参照して下さい。
 なおSLではなく、DL(ディーゼル機関車)で運行する場合があるようです。

交通系ICカードは使用できません

駅舎に津和野観光協会事務所が入っていて、観光マップ、各施設のパンフレットが入手できます。簡易切符売り場がありますが、切符販売は16時までです。自動券売機はありました。
改札口手前に待合室があり、フリーWi-Fi、駅ピアノが備わっていました。

 

 津和野駅から歩いて行ける距離に、乙女峠マリア聖堂、永明寺、森鴎外記念館、西周旧宅、津和野カトリック教会、津和野(三本松)城址、大鼓谷稲荷神社があります。
 乙女峠と津和野城址はかなり急な山道なので、歩きやすい靴と服装がよいです。津和野城址は全国屈指の山城。石垣が見事です。また、頂上から眺める津和野町と山々と空の景色が素晴らしいです。

津和野(三本松)城趾の石垣
城趾からみおろす津和野の町なみ

SL山口号の運行日では、川にかかる赤い鉄橋を蒸気機関車が走る姿が見られます。自動車でお越しの方も、町営駐車場に車を停めて、川沿いの道を歩いて町を巡ることをお勧めします。

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