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映画感想「ノスタルジア 4K修復版」シネマ尾道にて

 4K修復版の上映があると知ったのは2024年1月。
この作品はどうしても映画館で見たかったのです。しかし、福岡KBC、広島サロンシネマの上映期間は都合がつかなくて、もう見られないか~無念、と思っていたら、かねてから行ってみたい映画館であるシネマ尾道でやっているではないですか。大阪からの帰りに尾道に寄り、鑑賞しました。

ハマスホイの絵に
どことなく似ている

【 作品情報 】 監督・脚本アンドレイ・タルコフスキー 1983年 イタリア、フランス、ソ連制作 126分
脚本トニーノ・グエッラ、撮影監督ジュゼッペ・ランチ、カメラマンジュゼッペ・デ・ピアーシ、録音レモ・ウゴリネッリ、美術監督アンドレア・クリザンティ
出演オレーグ・ヤンコフスキー、エルランド・ヨセフソン、ドミツィアナ・ジョルダーノ他


1 感想

 全編、全てのシーンが絵画のように決まって見える。
主人公アンドレイはロシア人だが、舞台はイタリア。トスカーナ地方の朝もやに包まれた農村風景、古都シエナの村にある石造りの日光のささない教会、古くからの湯治温泉バーニョ・ヴィニョーニ、石畳に細長い石造の建物が坂道に密集して並ぶ古い町。行ったことはないのに、観る者に郷愁を誘う風景である。

 主人公と連れの通訳の女性が宿泊するホテルは、もとここを治めていた領主の屋敷だろうか。あるいは貴族が湯治に来た時に利用していた別荘のようなものか。調度品や家具はいっさい取り払われ、客室として使える最小限のしつらいになっており、画面から一部分見えるバズルームだけ現代風に改装したようにやけに明るく見える。長方形の窓と、高い天井、広い廊下と階段が、殺風景な中にもかつての栄華をしのばせる。

物語の終盤で出てくる瘋癲病院も総石造り。歴史的建造物をそのまま病院に転用したような雰囲気で、これにもなぜか郷愁を感じた。
 
 周囲から狂人とみなされているドメニコの住む家は廃墟同然で、堅牢な石造りの壁に家具はあるのに、天井は穴だらけで降った雨がたちまち床に大きな水たまりを作る。
湯煙りが立つバーニョ・ヴィニョーニの温と温泉を四角く囲っている石垣、石造りの廃墟の地下に溜まったエメラルドグリーンの美しい溜水。
水と石の組み合わせ、長方形の窓、階段の平行線の映像、水音が心地よい。

冒頭シーンの民謡らしき歌声と、川のほとりに建っている時代錯誤に古い様子の木製の家。私は主人公の子供時代の回想なのかと思ってみていた。
母親と姉、シェパード犬、白い馬、細い木製の電柱、ウッドハウス。
あとでパンフレットを読むと、「主人公の妻」とあるのでロシアにいる主人公の妻と子だとわかった。
しかし、ドミニクの子供の姿ともなぜか印象が重なり、彼の言う「1+1=1」のように、主人公とドミニクの人生が重なっていく。異国で強烈なノスタルジーに捕らわれてしまった人間と、世界の終末を確信している人間の物語り。

 ストーリーはあるものの、主役はやはり美しく印象的な映像と音だろう。

雨音、水の流れる音、教会で流れるヴェルディのレクイエム、終盤のクライマックスで流れるヴェートーベンの交響曲第九番。

通訳の女性と主人公がいさかいになる場面、ドミニクが監禁していた妻と子が解放される場面だけが現実的で、作品のアクセントになっているように思った。


2 映画館について


 映画を鑑賞したシネマ尾道は、JR尾道駅(山陽本線)南出口を出て、徒歩3分ほどの所にある小さな映画館です。
2001年に尾道市にあった最後の映画館が閉館した後、2004年に一般市民の方が「尾道に映画館をつくる会」を作り活動を開始。2008年に開館した映画館です。

「落下の解剖学」
観たい!

インターネットの情報から、様々なゲストを迎えてトークイベント等を活発にされているのを知っていたので、一度は行ってみたいと思っていた映画館。

イベントのゲストに招かれた
方々のサイン色紙

 タルコフスキーの「ノスタルジア」、まさにピッタリの上映館。上映は4月4日(木)まで。全国的に上映終了近いのでお早めに。

 JR尾道駅南出口を一歩出ると、目の前に瀬戸内海、尾道水道と呼ばれる狭い海峡が広がり、すぐ近くに向島が見えます。

向島に渡るのは渡船が便利。約五分で到着します。船の乗客はしまなみ街道を走るのか、サイクリストが多かったです。

以上。

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