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凡人の私は「オペラ座の怪人」で●●に感情移入する

 ミュージカル愛好家であればお馴染みの演目、ミュージカルを普段あまり観ない人でも、このタイトルは聞いたことがあるだろう。
 原作はガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』、それを元にイギリスの作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーの楽曲を用いてミュージカル化された。日本では1988年から劇団四季が断続的に公演を続けている、大人気の演目だ。

 私はこの演目が大好きで、何度も舞台で観た。劇団四季愛好家の方たちが仰るように、「(劇団四季の俳優陣であれば)この人たちが演じるオペラ座が好き」といった考えもある。
 しかしそれ以上に、私はある登場人物にとても感情移入してしまう。だからこそ、『オペラ座の怪人』を私は私なりにとても愛している。
(以下、若干のネタバレを含むので気になる方は閲覧をお控え頂きたい)



『オペラ座の怪人』の登場人物たち

 この作品は、1881年のパリ・オペラ座を舞台にした、女性一人・男性二人の三角関係を軸に物語が進む。
 本作への愛ゆえにとても雑な言い方をすると、「ファントムとラウル、どっちを選ぶんだいクリスティーヌ!!!」という内容だ。

【登場人物

● ファントム
 
オペラ座の地下暮らしのド天才作曲家&演奏家。作中が全体的に世界観がゴシックなのは多分彼の影響。異形の顔を仮面で隠している。
 映画版ではジェラルド・バトラー、劇団四季では市村正親が演じたことでお馴染みの大人気の役柄。

クリスティーヌ・ダーエ
 オペラ座のバックダンサー。裏で謎のボーカルレッスンを受けていて、実はめちゃめちゃ歌が上手い。亡き父は著名なバイオリニスト。
 かの有名なサラ・ブライトマンも演じたソプラノ。

● ラウル・シャニュイ子爵
 オペラ座のパトロンの貴族で、幼馴染のクリスティーヌが舞台で歌っているのを見て「クリスティーヌがいる!」と気付いてテンションが上がった。なんやかんやでクリスティーヌと恋仲?になる。いわゆる王子様ポジション。

 ミュージカルの場合、公演する国やカンパニーによって当然演者が変わる。そのため、演者によって役への解釈・表現の仕方が変わるのもまたミュージカルの醍醐味。(私が一番好きな公演については後程。)

 ちなみに、市村正親 (ファントム)、野村玲子 (クリスティーヌ・ダーエ)、山口祐一郎 (ラウル・シャニュイ子爵)というとんでもない布陣の音源が、かのアンドリュー・ロイド・ウェバーのYouTubeチャンネルで公開されているので、ご興味あればぜひ。


私は凡人だから、この人に感情移入してしまう

 さて、『オペラ座の怪人』を愛する人たちの多くは、ファントムが大好きであることが多い。
 まあそりゃそうだ。本作は彼のクソデカ感情に端を発した物語だし、ファントムがキービジュアルになっているし、クリスティーヌとファントムの関係性によって成り立つ物語だから。

 ところが、私が一番気に入っている登場人物はファントムではなくラウルだ。その理由は、この状況に巻き込まれて一番苦労したのは彼だったと思うから。

 先程の【登場人物】を見て頂くとわかるのだが、彼はごく普通の人だ。まあ、当然貴族なので普通の人ではないのだけれど。でも、金と地位があるだけで、ラウルはオペラ座において普通の人。客席に座ってまばゆい舞台を見つめる観客の一人だ。

 ラウルはクリスティーヌを愛しているし、「なんかヤバそうなファントムからクリスティーヌを守らねば」という純粋な行動原理に基づいて劇中で奮闘する。
 一方、ファントムとクリスティーヌというはちゃめちゃな音楽の才能に恵まれた二人の関係は、はたから見るとよくわからないし危うい。でも、二人の中には音楽という共通言語・価値観があり、二人の中だけではそれが成立している。

 物語のほとんどがオペラ座を舞台にしている時点で、ラウルに勝ち目はない。オペラ座とか言う完全アウェイな舞台で、音楽ガチ勢の間に凡人が割って入れるわけがない。
 『オペラ座の怪人』の劇中で、ラウルは勝負に勝って試合に負けた……。そんなところだ。(続編『ラブ・ネバー・ダイ』からは目を逸らしつつ……。)

 毎度『オペラ座の怪人』を観る度に、私はラウルを応援してしまう。金より地位より音楽が全ての価値観の土台にあるオペラ座で、自分が丸腰であることにも気付かず奮闘するラウルの姿を。
 彼は、『オペラ座の怪人』を観劇する多くの観客の代表だ。そういう風に私は思う。私は凡人だから、ラウルに感情移入してしまう。
 頑張れラウル、負けるなラウル、いやもう最初から勝負はついているから、せめて生き延びてくれラウル……。


私が好きな『オペラ座の怪人』

 先述の通り、『オペラ座の怪人』は世界中で上演され、映画化もされていて数多の役者によって演じされて来た。役をどのように解釈し表現するかは演者次第なので、土台にあるキャラクター像はあるものの、微妙に登場人物の見え方も違って来る。

 その中で、特に私が大好きなのは『オペラ座の怪人 25周年記念公演 in ロンドン(The Phantom of the Opera at the Royal Albert Hall: In Celebration of 25 Years)』のクリスティーヌ(演じるはSierra Boggess)だ。

 この演目、コロナ禍にYouTubeで48時間限定公開されたものを観て惚れ込んでしまい、私は光の速さで円盤を購入した。

 クリスティーヌという女性は、

  • 父親を亡くした孤独な女の子

  • 正体不明の”音楽の天使”による秘密裏のレッスンで才能が開花

  • ファントムの画策により歌姫の役を得る

  • ラウルに救われて怪人の手を逃れる

 という物語上、いわゆるお姫様ポジションで受け身の女性として描かれる傾向がある。小説が書かれた時代を考えると、それは特に違和感のないものだろう。私は別に、それを批判しようとは全く思わない。

 でも、私はなんか強え女が好きだ。好きなんだ……。
 それを『オペラ座の怪人』のクリスティーヌ像を壊さず表現してくれているのが、『オペラ座の怪人 25周年記念公演 in ロンドン』のクリスティーヌだ。

 記念公演と銘打たれた本公演は、ロンドンにあるロイヤル・アルバート・ホールで上演されたとんでもなく豪華なもの。演者は200人を超え、劇中劇の規模も本物の演目並みの贅沢さだ。

 この中で、クリスティーヌは実に主人公として振る舞い、行動している。不思議だ、通常の『オペラ座の怪人』と台詞が改変されている訳ではないし、物語の結末も変わらない。
 それなのに、Sierra Boggessが演じるクリスティーヌは自分の意志によって行動し、最終的にファントムを救っている。そんな風に私には見える。

 これは多分、Ramin Karimloo演じるファントムが実に繊細に表現されていることによる相乗効果だろう。クリスティーヌが迷っている時はガンガン距離を縮めて来るくせに、いざクリスティーヌが踏み込んでくると戸惑うファントム。その時、躊躇わないのがクリスティーヌ。
 最終的に「仄暗いクソデカ感情を表現する才能があるせいで、とんでもない闇を作り上げてしまったファントム」を、「己の歌と光の強さで打ち砕きながら救うクリスティーヌ」という構図になる。そこが好きだ。
 強い。好き。このクリスティーヌ、大好きだ。


圧倒的な世界観なのに、誰かの視点に立てる演目

 ここまで見て来ると、『オペラ座の怪人』は私たちが生きる世界とはまるで違う世界観で起きた物語だとわかる。
 それでも、登場人物の誰かしらに感情移入したり、好きだと思えたり、ツッコミを入れたくなったり、こんな風にして/されてみたい……と、誰かしらの視点に立てる作品だ。だからこそ、多くの国で数多のファンに愛されているのだろう。

 最後に、これは2020年に衝動に駆られて観劇した劇団四季『オペラ座の怪人』のキャスト表。コロナ禍ということもあり、当時は直前でもチケットが取れた。

燦然と光輝く、男性アンサンブル 1枠『高井治』の表記。

 また次にあの世界に没入出来る機会を楽しみに待ちながら、私は今日も『オペラ座の怪人』に思いを馳せる。


〈おまけ〉色々な『オペラ座の怪人』

 ミュージカル以外にも、『オペラ座の怪人』には様々な作品がある。ここでは、その一部をご紹介したい。

 まずは先述の原作小説。

 劇団四季関連で言うと、実は対訳付きの楽譜が発刊されている。

 2024年6月14日から4Kリバイバル上映されるのは、こちらの映画版。

 ミュージカルの音源は、劇団四季版・ブロードウェイ版がある。

・The Phantom Of The Opera (Gekidi Shiki Long-Run Cast Version)
・オペラ座の怪人 <ハイライト> ~ オリジナル・ロンドン・キャスト

 また、賛否両論の続編『ラヴ・ネヴァー・ダイズ』もあるので一応ご紹介しておく。一応……。



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矢向の舞台感想文はこちら。

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© 2022 Aki Yamukai

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