バディ!謎解き!最高のお仕事映画!「ヴァチカンのエクソシスト」
ホラーが苦手だ。怖いからだ。ゴシックホラーももちろん苦手だ。血みどろだったりねちょねちょしてたり、体が折れ曲がったりして気持ち悪いし、全体的に暗いからだ。
そんな私が、初めてホラー映画を映画館で観た。ここ最近、SNSを大いに盛り上げているので、映画ファンなら多くが知っているだろう映画『ヴァチカンのエクソシスト』だ。(主演はかの有名なラッセル・クロウ。)
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平べったく言うと、ラッセル・クロウ演じるアモルト神父(実在の人物で2016年没。バチカンとイタリア・ローマ教区の悪魔払い師)が、スペインの廃墟同然の修道院に現れためっちゃ強い悪魔を地元の若き神父・トマースと一緒にやっつけようと奮闘する話だ。
もしこれだけを聞いたら、私は『ヴァチカンのエクソシスト』を多分見なかった。だって、ゴシック・ホラー怖いんだもの。血みどろブシャー、大きい音ギャーーーー! でびっくりするのも嫌だし……。
SNSにおける「ヴァチカンのエクソシスト」フィーバー
私が『ヴァチカンのエクソシスト』を知ったのも、旧Twitter現Xのおすすめ欄。確か、誰かが『ヴァチカンのエクソシスト』超面白いよという旨の投稿をしたのに対し、本作のプロデューサージェフ・カッツ氏が日本語でコメントしていたのを見たのがきっかけだ。
結構前のことだったので、どの投稿だったかは忘れてしまったけれど、こんな感じで彼は日本語で投稿している。かつて日本語を勉強されていたとかで、力道山など日本のプロレスラーにも明るい方。
そこからあれよあれよという間にファンアートが彼の手により拡散され、ラッセル・クロウ本人に届けられたりもして、まあとにかくSNSでは大盛り上がりだった。『ヴァチカンのエクソシスト』略して『ヴァチクソ』なんていう愛称がついたり(ちなみに俺たちオタクの中で「バチクソ」という単語は最大の賛辞と共に使われることが多い言葉だ)、日本の靴下屋さんTabioと作中に登場する靴下の話で盛り上がったり、なんか色々なことが起きている。
(私は映画鑑賞中テンションが上がり過ぎて靴下に着目するのを忘れていた。)
ホラー耐性がなくても大丈夫! がっつり楽しめた3つの理由
さて、先述の通り私はホラーが苦手だ。苦手過ぎて、日本でお馴染み『貞子』シリーズは見ていないし、ディズニーのホーンテッドマンション以外のお化け屋敷にも行ったことがない。
そして、血みどろ・なんかねちょねちょしてる・人体の異形化・急に大きい音がして驚かされる、というのも苦手。例えば、『バイオハザード』シリーズのゲーム実況を見ながらご飯を食べられない。
そんな私でも、『ヴァチカンのエクソシスト』はかなり楽しめた。その理由は、次の3つだ。
1)エクソシストを「お仕事」として表現した構成
まあ、何せホラー映画を観たことが無に等しいので比較対象がないのだけど、本作は「グロテスクな異形を見せる映画」や「とにかく観客を怖がらせる映画」ではなくて、「エクソシストという仕事人としてのアモルト神父を描く映画」だと感じた。
彼がどんな性格なのか、バチカンという大きな組織の中でどれだけ異端児なのか、誰に信頼され・煙たがられているのか。彼の過去が現在にどう影響し、それを踏まえ彼はどのように目の前の敵に立ち向かうのか……。
悪魔退治の映画のはずなのに、結構リアルな組織のしがらみや旧態依然な様子……とお仕事映画の王道要素が描かれる。しかもそれがストーリーに関わって来るのだから実に見事。
本作は目の前の奇妙な出来事を描きながらも、その本質はアモルト神父を描くことにある。だからこそ、映像としてのグロテスクさや大袈裟な驚かせる手法よりも、「アモルト神父の仕事ぶり」が印象に残ったんだと思う。
なんかこう……NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』にアモルト神父が出てたみたいな感じ。
2)悪魔の謎を解く探索で魅せる
エクソシストとして、アモルト神父とトマース神父が悪魔をやっつけるべく奮闘する中で、二人は廃墟みたいな修道院を探索する。ここがかなり不気味な場所で、庭には枯れた蔦が這い回り地下には危険なガスが蔓延し、壁も床もボロボロ……。
この建物自体に大きな秘密があって、二人はそのおぞましい謎を暴くことになるのだけれど、この探索パートがいい。おどろおどろしく朽ち果てた修道院、謎の扉、その先には……。
うわーーーー、これがゴシック・ホラーだあーーーー!
それを肌で体感できる映像の説得力。
事実が明らかになるほど深刻さを増す神父二人の表情……。緊張感がこちらにまで伝わって来たし、謎解きパートで明らかになる景色や修道院の過去には、結構ヒエーとなる。
(基本的に舞台が修道院に限定されている分、いわゆる脱出ゲームっぽさもある。そしてよく考えたら小説・アニメ『バチカン奇跡調査官』が好きだった自分に本作はぴったりだった)
また探索中に、歴史に敬意を払いつつもちょっとお茶目でちゃっかりしているアモルト神父、怯えつつも学ぼうとするトマース神父の人となりがわかるのも面白い。
3)馴れ合い過ぎない、みんな大好きバディ・ムービー
百戦錬磨のエクソシストで、異端児でお茶目なアモルト神父。片や悪魔についての知識はなくて若くて生真面目なトマース神父。
こんな二人がバディになる展開、好きにならずにいられるか? いや、いられない。
悪魔との対峙で、アモルト神父とトマース神父の両方がメンタルに来る経験をしている。それを、妙な慣れ合いではなく神父らしく許し合いながら進む姿がいい。
二人が信頼関係を築く様子って、『ヴァチカンのエクソシスト』では実はそこまで大袈裟に表現されていない。なのに、二人がいいバディになって行くのが伝わって来る。
罪を告白し許し合う仕草が、形式ばったものから本当の懺悔と許しに変わるとか。咄嗟の呼び名が変わって、お行儀のよさより必死さが前に出るとか。握手とか……。
そんでもって、あのやっつけ方でしょ? 好きになっちゃうよこの二人。
本作で終わりみたいな空気出してたけど、終わらないよね? あと199作は最低でも作れますよね? ね????
まとめ
●『ヴァチカンのエクソシスト』でよい夏を
日頃、旧Twitter現Xのおすすめ欄には辟易していた。私にとってタイムラインとは、私が必要だと思っていることをかき集めて並べる場所だった。だから、システムにおすすめされるどうでもいいことなんてノイズだと思っていた。
しかし、あの日(がいつだったのかはもうわからないけど)『ヴァチカンのエクソシスト』についての投稿を目にしなかったら、こんなに楽しい映画を知ることなくこの夏を、人生を終えているところだった。
ありがとうおすすめ欄。本当のおすすめを私に教えてくれて。
私の2023年の夏に、『ヴァチカンのエクソシスト』があってよかった。貴方の夏にも、本作があればいいなと私は思う。
●ありがとうカッツさん
そして改めて、本作に興味が湧いたのはジョン・カッツ氏の日本語の投稿がきっかけだった。「日本文化圏外の人が日本文化に明るくて言語も達者」なんて状況が珍しい私たちからすると、それだけで十分『ヴァチカンのエクソシスト』は存在感が他の映画と違う。
そういう意味でも、彼も投稿していた通り、映画製作陣が直接日本に向けたプロモーションをするのはとても効果的だと思う。
ありがとうカッツさん、素敵な映画を日本の多くのファンの目に届くところまで連れ出してくれて。まさかエンドロールでプロデューサーの名前を探す日が来るなんて思わなかった。
ああ、面白い映画が見られて幸せだった。きっと個人的な今年の映画ベスト10には、『ヴァチカンのエクソシスト』が入って来るんじゃなかろうかと思う。
映画『ヴァチカンのエクソシスト』は2023/7/14から全国の映画館で公開中。これからも色んな展開があるだろうので、詳細は公式ホームページまたはカッツさんのSNSにてご確認頂きたい。
※追記:続編の正式発表がされました。おめでとうございます!
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