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ぬるいみそ汁 *短編小説*

~ひねもすのたり小生無職生活~シリーズとして三編ほど短編を投稿しようと思います。

「ぬるいみそ汁」

小生は無職である。理由あって築50年の団地で独り暮らしをしている。

小生は夕食のとき、いつもぬるいみそ汁を飲む。猫舌だから。
独り暮らしのため、手間と経済的理由によりインスタントを利用している。スーパーなどで食品を購入する度に思うのだが、一人分を作るというのは実に不経済だ。大抵の食材は最小単位で2人前から。ほとんどが4人前だ。4食同じものを食べ続けるか冷凍などするとしても、やはり大量に作った一人前の方が、一人前だけを作るよりも安く済む。調味料は1回分パックではないので賞味期限内に消費しきれない。煮たり焼いたりすればガス代もかかる。もはや自炊イコール節約の時代ではないのだ。もう少し栄養バランスや添加物の減量などを考慮した商品が多くなれば自炊を完全に辞めてもよい。小生は、健康のことを考え、野菜中心の生活を心がけているため、なかなか外食のみで済ませるところまではできない。そのため夕食は毎日自炊している。

インスタントみそ汁は、沸騰したお湯で作るので、早めに作って冷ましておき、事前にまとめて炊いて冷凍していたごはんを電子レンジで温め、その間に下ごしらえをしておいたおかずを作る。うっかりみそ汁を作っているのを忘れたときには、少々薄味にはなるが水を足してぬるくすることもある。わざわざアツアツのものを覚まして食するのはなんとも無駄な行為のような気もするが、最初からぬるいみそ汁は作れないのだから仕方がないのだ。

自炊といっても簡単に野菜を刻んで、「煮る、蒸す、炒める」3つの内のどれかで、あとは冷奴や納豆、お惣菜を加える程度のものだが、一応料理の範疇に入るものを作って食べている。自分の好きなものを作って、自分の好きな味付けをして食べる。気楽なものだが、毎日義務のように作っていると、3か月に一回くらいは「面倒くさい」「虚しい」「つまらない」などの理由でおっくうになるときがある。世の主婦(主夫)が何の感想もありがたみもなく毎日作ったものを当たり前のように食べられるのが虚しいと感じるのもわかるが、小生のように独り身で、自分のためだけに作って食べてということもまた虚しさを感じることなのである。

自炊をはじめたきっかけは退職前の健康診断で、成人病予防のために脂っこいものを控えて野菜中心の食事を心がけるよう指導をうけたからだ。とはいっても病気になったわけではないので、食事制限をしているというわけではない。小生は、栄養成分やカロリーについて明るくない。野菜中心といっても、なんとなく赤・黄・緑・白の野菜を揃えるようにして、色で考えているだけだ。
野菜の皮むきはとても面倒だ。三角コーナーを買ってネットをはって最初は野菜くずを入れていた。ところが今度はその三角コーナーを洗ったり、ぬめらないように漂白剤を使用したりを繰り返すことが面倒になった。広告を箱折して入れてみたり、シンクの隅っこに固めておいて後で捨ててみたりと試行錯誤した末に、ゴミ箱の上で皮をむくのが一番効率的だと結論を出した。

そういえば昔職場で小生の隣のデスクにいた女性社員が、ゴミ箱を抱えてお土産のラスクを食べていたのを思い出した。何をしているんだと尋ねると、ボロボロと食べかすが落ちるのでという。その時は行儀の悪い女だ、と思ったが、今になってみると、なるほど、なかなか合理的な行為だと納得した。

小生もこれからラスクを食べる時はゴミ箱をかかえてみるか?いや、ラスクのようなぼろぼろこぼれるものは買わないでおこう。

あとがき

ゴミ箱をかかえて菓子食う同僚のデスクの上は塵ひとつなし

以前に投稿した一行詩です。↓↓↓

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見出し画像は、私、犬のしっぽヤモリの手が制作しました。

<© 2022 犬のしっぽヤモリの手 この記事は著作権によって守られています>


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