子守話は、芥川龍之介「鼻」だった。
幼い頃、子守唄ならぬ子守話としてお気に入りだったのが、芥川龍之介の「鼻」だった。
父に「鼻やって、鼻やって」と頼み、「鼻」を聞かせてもらっていた。
読み聞かせのように本を読むのではなく、昔話みたいにストーリーを語ってもらうのだ。
大人になってからきちんと作品を読んでみたら、幼い頃に聞いていた話とは意味合いが違っていることに気づいた。物語のすじは間違っていないのだけれど。
幼い頃に聞いていた話は、和尚の鼻がもとに戻って、和尚は「ああよかった」と思った。みたいなオチだったと記憶している。
しかし原作は、和尚の鼻が小さくなったことに対しての、「周りの反応」「他人の利己主義」について描いた作品だった。
肝心なところが抜けている。
そのまま読み聞かせても、まだ3歳か4歳くらいの小さい子供には理解できない部分かもしれないが。
とにかくこの作品の言わんとする事がすっぽり抜けた形の話を聞かされていたのだ。
幼い頃のわたしは、なぜかこの話が好きで、何度も話してもらっていた。
子供の頃の感性とはよくわからないものである。
おかけで大人になってから改めて原作を読み、更にこの作品の魅力を知った。
他の芥川作品も読み、読んだ作品の中では、今のところお気に入りトップ2だ。因みに1番好きなのは「芋粥」。
余談だが、まだ10代くらいだったか、好きな文学作家は誰か?と聞かれたら、芥川龍之介と答えていたことがある。「鼻」だけで、というわけではない。もうひとつ理由があった。それは、あの頬杖をついた写真がイケメンだったから。
<文・見出しイラスト/犬のしっぽヤモリの手>
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