見出し画像

天野祐吉『天野祐吉ことば集 広告の見方 ものの見方』グラフィック社

博報堂で雑誌『広告』の編集に携わり、また広告ジャーナリズム誌『広告批評』を創刊(2009年休刊)した天野祐吉氏が、大衆文化についての批評活動の中で残したことばを集めた本である。天野氏は2013年に亡くなっている。以下、その一部である。

「不思議、大好き。」(西武百貨店)という広告が面白かった。どう面白かったのか。ひとことで言ってしまえば、「暮らしのなかの小さな”不思議”にいつも新鮮な驚きを持ちたい」という広告の言い分が、僕たちをハッとさせたんだと思う。「私もそうしたい」という共感を呼んだのだろうと思います。しかもその言い分を、「不思議、大好き。」なんて簡潔な言葉で、生き生きと表現したところが、とてもよかった。

本物のアイデアというのは、
一つのものが別の文脈のなかに持ちこむことによって、
ぼくらが気づかずにいたものの持つ魅力に、
新しい光を与えることだと言っていい。

ふつうというのは、平均的ということではない。
”人の素(もと)”みたいなものを、色づけもせず、変更もせず、
いきいきと持ちつづけている人のことである。
どこにでもいそうに見えて、実はどこにもいないような、
人そのものみたいな人のことだ。

文章を書くという行為は、自分を美化しやすい。書き言葉というのは本当に悪いヤツで、書いている人を罠にかける。だからそれをどうやって切り抜けるか。ぼくはよく、「あのさぁ」なんて書き出しで書くんです。「あのさぁ」なんて書く立派な人はいませんから、あとは素直に書けるんですね。そうやって書いておいて最後に「あのさぁ」を消す。

あれはなんの本だったか、多田道太郎さんの書かれたものを読んでいたら、すごい言葉にぶつかった。「きく」とは「気が来る」ことだというのである。相手の言っている言葉の意味を理解しただけでは、聞いたことにはならない。それを言っている相手の「気」がこちらに伝わってくるように耳を澄ますことが、「きく」ということの本来のカタチなのだと。

人に聞いた意見でも、
それが自分の心にググッとくれば、
その瞬間にそれは、自分の意見になったのだと言っていいと思うよ。

本書は、天野氏が著した、話したものから、約180の短文を抜き出して載せているという。すべて考えさせられる言葉である。しかし、それを編集した人のなまえは本書に記されていない。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?