マイケル・ケイン『わが人生。名優マイケル・ケインによる最上の人生指南書』集英社

マイケル・ケインは、イギリス人である。1986年、映画『ハンナとその姉妹』で、アカデミー賞の助演男優賞を受賞した。しかし、本書でも書いているが、受賞するとは思っていなかったため、映画『ジョーズ'87復讐篇』の撮影スケジュールのため出席できなかった。それに懲りて、2000年、映画『サイダーハウス・ルール』での2度目の受賞では、オスカー受賞のスピーチを行った。

第1章 人生は逆転できる
どんなに悲劇的な出来事でもそこに自分にとってプラスの面があるということだ。どんなに悲劇的な状況に陥ってもそのなかからよいものを見い出すようになった。
自分のやりかいことを見つけて、やりかたをしっかり学んでほしい。身につけたものを最大限に生かす。やりかたを学ぶ。何でもいい。自分が損得抜きで選んだもの、やっているときは充実感が得られてもっとも自分らしくいられるもの、そうしたもののなかに身を投じるのだ。最高の自分になるために努力を惜しまない。誰もが有名な俳優になれるわけではない。だが好きなものを見つけて、それで報酬が得られるものであれば、目の前に広がるのは自分だけのパラダイスだ。

第2章 人生はオーディション
公の場にいるときのあなたは常にオーディションを受けている。誰があなたのパフォーマンスを見ていないとも限らない。
仕事で注目されようと頑張っているひとも、あのひとの目に留まりたいと思って頑張っているひとも、仕事やプライベートのどんな場面であれ、自分のイメージに凝り固まってはいけない。周囲からのイメージで自分の可能性を狭めてはいけない。大事なのは現実を見ること、それはつまり自分が伝えるものを知り、それを活用することだ。
生きていれば常にブレイクのチャンスはある。レストランで映画界の大物から声を掛けられる大きなブレイクもあるが、実際に来るチャンスはもっと地味で気づきにくい場合が多い。だから常に心づもりをしておきたい。それを見極め、つかみ取り、活用した先にブレイクが待っている。

第3章 逆境を逆手に取る
そこが地獄であっても、そのまま突き進む。
困難な状況にあるときは常に、私は「逆境を逆手に取ろう」と自分に言い聞かせる。問題が発生しても、そのなかにポジティブなものはないか懸命に探して見つけ出すのだ。
あるひとから成功の秘訣を聞かれたときに、私は「苦難を乗り切る」ことだと答えたことがある。私はまだここにいる。ときには地獄をくぐり抜けることになっても、いまなお前に進んでいる。結局、成功とは苦難を乗り切ることなのだ。

第4章 正しいことをする
成功は行動から生まれる。チャンスを待ってはいけない。自ら外に出てつかむ。隅に座って完ぺきな役、完ぺきな脚本、完ぺきな監督、完ぺきな出演料をじっと待っていたところで埒があかない。自分は何も動かずに、完ぺきなプロジェクトがリボンで包まれて向こうから届けられるのを待っていても来るわけではない。完ぺきな異性にさえ待っているだけでは出会えないのだから仕事はなおさらだ。来た仕事を引き受けて、それを自分の力で思い描いていた作品に近づけるしかない。経験からしか自信は得られない。自信からしかリラックスは生まれない。リラックスして自分の持てるものをすべて出してこそのパフォーマンスだ。
自分の役目がどんなに小さくても、努力を怠っていい理由にはならない。役が自分の希望に沿わなくても、監督の要望に沿わないでいい理由にはならない。自分の評価を上げるどころか下げることになってしまう。
結果は直ちには見えてこないかもしれないが、行動のすべてが重要であり継続は力なりだ。正しいことを長く続ければ、最後は思いもよらない奇跡が起こる。

第5章 現場に着く前から仕事は始まる
自分の出番が来る前、カメラが回る前、仕事が始まる前に現場に到着する。時間どおりに来て精神的、肉体的な当日の課題がないか確認して準備する。私が話しているのはプロにおける仕事と礼儀の基本中の基本だ。こうしたことに注意を向けるひとはあまり多くないが、基本を守るだけで優位に立てる。
信頼できるという評判が立ったおかげで、一、二度私は主役の代役を引き受けたこともある。主役がアルコールやドラッグ、または個人的な問題などで映画を続けられなくなったせいだ。

第6章 リハーサルこそ仕事
私を解雇した唯一の人物、ジョーン・リトルウッドから学んだ主な教訓、それはリハーサルは仕事で、本番はリラックスの場であるということだ。その意味するところは、パフォーマンスまでにリハーサルを繰り返して十分体にしみ込ませることで、本番は無理なくリラックスしてこなせるということであり、それは演技においても人生においても大切なことだと私は実感した。
誰もがときにパフォーマンスをする境遇に置かれるだろう。そんなときでも丹念にしっかり準備しておくことで、自然な所作が損なわれるどころか、むしろごく自然に振る舞うことができる。

第7章 動作は控えめに
どんな職業においても大きな教訓があり、同時に誰もが教えてくれないようなちょっとしたコツ、それを身につければ優位に立てるようなコツがある。その大半はインパクトを与えるために身体と声を使う方法がメインだ。
仕事で出世したいひとは、自分がなりたい人物を観察するといい。そのひとがどう振る舞っているかをよく見るのだ。極端に振る舞ってはいけない。上司をまねて歩き回ると、同僚から不機嫌そうに映る。だが振る舞いをわずかに変えるだけで、自分が違った角度から見えてくる。そしてそれをきっかけに周囲もその角度からあなたを見るようになる。
繰り返すが、動作は小さいほうがより多く伝わる。映画において演技する際は人生同様に多くを語らないほうが効果的であり、そこでの本当の価値は自分のセリフをどう言うかではなく、相手の言っていることにどう耳を傾けてそれをどう反応するかにあるのだ。

第8章 真剣に楽しむ
映画や他の分野で成功したいひとには、技術以外にも身につけておくと役立つことがいくつかある。スタミナ、柔軟性、完ぺきに集中できる力と、(同時に)リラックスして楽しむ力だ。リラックスして楽しむ力は絶対に必要というわけではないが、身につけていたほうがあなたにとっても周りのひとにも気持ちにゆとりができるのは間違いない。

第9章 アドバイスに耳を傾ける
また一方で指示どおりこなすことも必要だ。話を聞いて柔軟にかつ瞬時に対応し、批判があれば受け止める。映画と同様に、人生においてもそれは同じだ。自分なりの結果を出して身に降りかかる責任を受け止める。だが同時に指示を出した相手の言うことをオープンに受け止めなくてはいけない。相手が上司、クライアント、人生のパートナーでもそれは変わらない。

第10章 大きな視点を持つ
どの映画でも、私はチーム全体を撮影時の家族であり、成功に向かって一緒に歩む仲間だと考えているから。自分が誰かより立場が上だとは考えないし他の俳優と競おうとも思わない、チームのみんなが自分のためにしてくれること、私が彼らのためにできることを理解するように努め、みんながよりよい映画を作れるように助けたいと思っている。
孫たちにも同じことを言っている、君たちより足の速い子、賢い子、見た目のいい子、お金持ちの子、運のいい子はいつだっている。だから他の子たちと競うことはやめなさい。つらくなって、自分が惨めになって不幸になるだけだ。自分のことに専念して、力の限りそれを頑張りなさいと。

第11章 スターでいること(そのプラスとマイナス)
私が言いたいのは、頂点に立ってもそこからまた登山が始まるということだ。ぜひとも大きく深呼吸して、心の目で景色を見てほしい。でもそこから次はどうする?どんなに最高の場所でも、いつまでもそこにのんびりと座っているわけにはいかない。下山を目指すか、地図を見ながら尾根を歩いて遠くであすかに見える別の頂上を目指すか、そのどちらかだ。やっとだどり着いたと思っても、そこで立ち止まるわけにはいかず、そのまま進んでいくことになろう。だったら旅を楽しむようにしたほうがいい。

第12章 よいときも悪いときも
どんな仕事でも、苦難に耐えて生き残るだけでは成功に到る、つまり頂点を目指す上で十分ではない。失敗した後でもどう持ち直すか、その術を学ぶことも必要だ。私はキャリアの半ばで何度もつまずいたが、そんなときは若いころ苦しかった時代に学んだ教訓に立ち返った。自分の経験から学び、困難を逆手に取り、挫折のなかで光明を見出した。地獄をくぐり抜けていたときも、私は前に進み続けた。何度も「やります」と言って、すべての100%の力を出し、新たな教訓をいくつも学んだ。苦労続きで決して楽でなかったが、おかげで私はちょとした失敗のエキスパートになったと言える。失敗のおかげで勝ち取った成功だ。

第13章 礼節を保つ
相手に腹を立てたり不機嫌になったりしても、決して感情を表に出してはいけない。ジェームズ・クラベルにそう教えられた。実際、私は腹を立てた相手のことは、自分の人生から消去してしまう。両親からそれを教わった。父から同じ相手に二度も好き放題言わせるなと言われ、母からは敵に与える何よりのダメージは無視することだと教わった。怒ることは自分が被害者だと認めることになる。相手にしないことだけが勝利だ。
俳優にとって何より大事なシーンがあって、そこでは品行方正に振る舞い、敬意を持って相手に接することが大切だ。それはラブシーンだ。

第14章 過去を振り返らない。ときには振り返ることも
根に持ってしまうと、自らの過去で自らの将来を縛ってしまうし、あるいはもっと悪いのは、自分に関係のないところで他人がした行為までずっと引きずってしまう。そんなことをしても何の意味もない。時間の無駄だ。
私は1960年という『ルック・バック・イン・アンガー〈怒りを込めて振り返れ〉』の時代を過ごしたひとたちが年を取って忘れてしまう前に、この時代の全貌をとらえたかった。このときばかりは、過去、そしてこれまで起こったことのすべての意味を考えるべく、敢えて過去を振り返ることにした。

第15章 老いても若く
年を取ることで何よりつらいことのひとつは、第一に自分のヒーローやメンターが年を取って亡くなることだ。これはきつい。そしてなお悪いことに、友人たちも老いてその何人かは亡くなってしまう。だがそんな逆境からでも糧にできることはあると言いたい。
自分がもう若くないことに残念がったりはしない。時間の無駄だし、とにかく若いつもりで仕事をしている。若いころは楽しかったし、いまは老いを楽しんでいる。

第16章 人生はバランス
仕事と生活のバランスについて世間で云々される以前から、口には出さずとも私にとってそれは大事なことだった。そして私の場合、仕事と家庭生活のバランスは、もっぱら適切なプロジェクトを選ぶことにかかっている。
仕事と家庭とのバランスを保つという点では、常にこのふたつを線引きをすることができて幸いだった。私は決して仕事を家庭に持ち帰ったことはないし、家庭のストレスを仕事に持ち込んだこともない。スタジオにいるときは仕事に専念し、家にいるときは余暇を楽しむ。

本書から人生指南書となると思われる箇所を抜粋した。「ダークナイト」を始めとする「バットマン」シリーズの執事役ペニーワースを演じた名優である。本書では、数々のスターたちとの共演の裏話などについても書かれている。映画ファンなら本書を手に取って読んでもらいたい。

著者は、はじめてアメリカに行ったとき、ジョン・ウェインから、「君はスターになるよ」、「だがスターでい続けたいなら、これを覚えておくといい。低い声でゆっくり話し、多くを語るな」と言われた。著者の場合、これはそれほど有益ではない。

1979年、UCLAメディカル・センターで、ジョン・ウェインは生前最後のアドバスを著者に残した。とうとうガンに負けたかのように観念した笑顔で、「もうここを出ることはないな。」と漏らした。それから泣きそうな私を見てこう言った。「もういいから行きなさい。前に進むんだ。人生を楽しめ。」と。

マイケル・ケインの人生をたどりながら、人生を楽しむにどうしたよいか学ぶことができる。





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