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K君への手紙3)やさしさとひきこもり

 やっほー。昨夜はすこしでも眠れた?
 昨日の手紙は、なんか、自分のことばっかり書きすぎて、K君のことを置いてけぼりにしちゃったかなあなんて、ちょっと反省してたよ。
 小学校の頃は、こういう…なんだろ、深い? 深い話をしなかったもんね。ただ、ちょっかいを掛け合ったり、馬鹿なことやって遊んでた。あの頃は、楽しかった気がする。いま感じる感情とは、別のかたちの楽しさ。意味のないこと、役に立たないことでも、いっしょに楽しんでくれる人が多かった気がするな…。記憶が美化されてるだけかな?(笑)

 わたしより君のほうが、はるかにやさしかった気がする。やさしい。うん。人を笑かすのが好きで、よくふざけてた。でも、人をからかったり、馬鹿にしたりはしなかった…ように、わたしには見えてたけど、どうだろ。君が怒ったり、感情を表に出してるところを、見たことがないなあ。あ、なんか、一回だれかの悪ふざけで、君の頭に石が当たって、大怪我してた時があったな。その時も、君は怒ってはいなかったような気がする…。いや、わたしは遠くから見てただけで、詳しく知らないんだけどさ。
 
 やさしい人のほうが、生きにくい世の中なんだってことが、だんだん分かっていったなあ。中学、高校と進むにつれてさ。
 腹が立ったら、すぐ人に八つ当たりしたり、立場を利用して自分よりよわい人に説教したりして鬱憤晴らしできる人は、なんていうのかな、たぶんひきこもらない(笑) 他人のせいにできるんだもの。他責化ってやつ。自分が悪いんじゃない、周りが、環境が、状況が、運が悪かっただけ。(いや、こういう人もひきこもるのかな? はっきり言えないな…)
 でも、やさしいとさ、他人のせいにすることに抵抗があるんだよね。あんまり、すっきりしない。他人のせいにしても、あ~、他人のせいにしちゃったな、いま…。って、反省しちゃうようなところがあってさ。結局、他人のせいにするより、自分のせいにして落ち着かせるほうが、気が楽なんだよねえ。
 まあ、どっちも一長一短だね。自分の性格は、自分では選べないもんな。

 やさしい、って、誉め言葉のように、安易に使われるけどさ、そんな簡単なものじゃないんだよ。他人から「やさしい」ってよく言われるような性質は、まあ、本人からすると、結構、むずかしいというか…やっかいな性質でもあるわけで。
 たとえばさ、あんまり怒らない、っていうのも、結局は、怒りがパッと瞬時に表に出てこないだけなのかもしれない。怒りの反射神経というかさ、一瞬で沸騰できる人もいれば、じわじわとマグマのように内部に熱がこもっていく人もいるんだよな。
 私も、そうなんだよ。怒らないってよく言われるけど、それって、すぐには表情に出ないだけ。笑顔の裏で、むちゃくちゃはらわたが煮えていたり、後になってから身体が熱くなったり硬くなったり、すごいイライラ感がこみあげてきたりする。その場で怒りを表現するのが苦手なだけだ。もちろん、そのおかげで、無用なケンカを避けられたってメリットは大きかったけどね。あと、結局、自己嫌悪になっちゃうから。あ~、人に八つ当たりしちゃった~、って。だから、怒ってもストレス発散になるどころか、ストレスになっちゃうんだよなあ。
 他には…自分より他人を優先しちゃうとかね。最初、優先順位をつけるっていう意味がわからなかったもんなあ。なんていうのかね、他人の要求があれば、それをこなして、残った時間があれば自分のために使う、みたいなね。そういうのがあたりまえだったから。でも、自分の回復のための時間…食事とか、睡眠とか、はたまた趣味の時間とか、そういうのを最優先にしても、別になにも問題なかったんだ。上手に断るのが苦手だったのかも。断るよりは、ちょっと無理してでも他人の要望に応えちゃえ、みたいな。「あ~、いまちょっと体クタクタなので…またこんどね~」って、気軽に言えたら、きっと今、こんなに心も体も疲れ切った状態になってなかったんだろうな、って。

 なんだろな~、みんな結局、「やさしい人」のことをちゃんと理解してないよ(笑) 理解する気が、最初からなくて、ただ、自分にやさしくしてくれる都合のいい人、って思ってる人も、まあ結構いると思うけど、そうじゃなくても、やさしい人だなあ~って、大切に思ってくれている人でも、やっぱり理解してない。たぶん。そう、やさしい人にやさしくできる人は、ほんとうに少ない。おそらく。わたしの偏見かもしれないけどさ。

 そしてさ、そうやって、消耗して、疲れていっちゃうと、いくら「やさしい人」でも、心がすさんでくるわけですよ。もういいや、こんな世の中…ってさ。すべてがどうでもよくなったり…あと、なんだろ、疲れ切ってしまったから、この世の中から退場したくなる、かな。もうね、参加する気力がなくなる。

 たぶん、疲れてるからだよ。いままでみんなにサービスしすぎたんだ。当たり前のように。息をするかのように、サービス精神を発揮するから、まあ疲れるんだ。しかも、みんなやさしさに飢えてる。需要はあまりに多く、供給はあまりに少ない。やさしい人は、過剰労働を強いられるわけ。たいへんだ…! ふつうにしてたら働きすぎるから、意識的にやすみをとっていかないとね。
 人にサービスせずに、ただ猫のように生きる。ほら、猫って、人から餌をもらう時は、甘えてくるけど、もらったらもう餌をくれた人に無関心になったりするじゃん。そういう、わがままに生きるのがさ、いのちにやさしいんだよ。きっとね。

 今日は、このへんで終わりにしとくよ。
 次はね…なにを書こうかな? 君に話したいことはいっぱいあるような気がするのに、実際にこうして伝えようとすると、なんだか大したことは全然言えていないような気がする…。うーん。むずかしい。ことばの奥にあるなにかが伝わっているといいんだけど…。
 今夜も、君が、すこしでも安心して、体をゆるめて、深く眠ることができますように。それじゃ、またね。

                           20XX年X月X日
                         やまのうえのきのこ

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