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なぜ『汝、星のごとく』が多くの読者から愛されるのか考えてみた。

凪良ゆうさんが書いた、『汝、星のごとく』という小説をご存知でしょうか?

2023年に本屋大賞を受賞し、多くの本屋さんで平積みされていたので、きっと表紙を見たことがある人は多いと思います。

凪良ゆうさんは2020年にも『流浪の月』で本屋大賞を受賞していて、『汝、星のごとく』は2回目の本屋大賞なんですよね。これ冷静に考えたら、あり得ないです。

本屋大賞は2004年から始まった賞で、公式サイトには以下のように賞の概要が記載されています。

「本屋大賞」は、新刊書の書店(オンライン書店も含みます)で働く書店員の投票で決定するものです。過去一年の間、書店員自身が自分で読んで「面白かった」、「お客様にも薦めたい」、「自分の店で売りたい」と思った本を選び投票します

 引用元 https://www.hontai.or.jp/about/

・・・という説明はありますが、そうは言っても、M1で2回優勝するコンビがいないように、本屋大賞だってニューヒーロー・ヒロインを生み出したいから、2回も大賞を受賞するということが、いかにハードルが高いことかは想像に難くないと思います。

ちなみに、本屋大賞を2回受賞した人はもう一人います。2005年の『夜のピクニック』と2017年の『蜂蜜と遠雷』で受賞した恩田陸さんです。とはいえ、12年の歳月が流れているので、凪良ゆうさんが2020年・2023年という短期間で2回受賞したのは、異例中の異例ですよね。


本屋大賞のみならず、SNSでも『汝、星のごとく』は評価がとても高いです。

「今年読んだ本のベスト10」とか、「名刺代わりの小説10選」などのハッシュタグで発信される情報をみていると、「汝、星のごとく」がことごとくランクインしています。

ちなみに私の評価はというと、100点満点中100点で、今まで読んだ小説のなかで一番よかった!、と言えるほど、感動して打ちのめされました。


・・・では、いったい、この小説の何がそれほど魅力的なのでしょう?
なぜ、多くの書店員や読者から愛されているのでしょう?

私なりに考えてみたので、よかったらお付き合いください!

ネタバレ少々含みます。ご注意ください(核心には触れていないつもりです)。



理由1 王道の恋愛小説

小説において、恋ほど重要な要素はないです。
古典と呼ばれる名著にだって、たいてい恋愛要素は含まれています。
いや、恋愛要素が含まれていない小説を探す方が難しいかもしれません。

しかし、恋を主題として扱う「恋愛小説」ともなると、最近は希少になっているのではないでしょうか。恋愛は人類が始まって以来の永遠のテーマであり、もはや様々なコンテンツで語り尽くされたテーマ。レッドオーシャンです。

恋愛小説のパターンは大概決まっていて、「くっついてハッピーエンド」「結婚してハッピーエンド」「死別して泣けるエンド」の、たいてい3パターンですよね。だから、読者も舌が肥えているというか、飽きているというか・・・。つまり、読み手が満足するハードルが高いのです。

そんな難しい恋愛小説というジャンルで、この「汝、星のごとく」は読者の期待を大きく上回ったのです。

直球を待っていたバッターに対して、渾身の直球ストレートで空振させたかのように痛快で爽快だったのです!

恋愛小説は、みんな嫌いなわけではなく、満足できる作品が生まれにくいからこそ敬遠されてきたジャンルなだけで、実は人々は(書店員も読書家も)、今まで読んだことがないような恋愛小説を心待ちにしていたのだと思います


理由2 置かれた場所で咲けない主人公たち

暁海(あきみ)と櫂(かい)の恋には、非常に厳しい障壁が待っています。

まず、二人とも父親が不在で、母親は心に問題を抱えているという深刻な家庭環境。

そして、人口が少なく閉鎖的で保守的な「島」という生活環境。

この二つの過酷な環境が、二人の恋や人生の足枷となり、運命を翻弄します。

自分ではどうしようもできない、選ぶことができない家庭や環境。
どれだけ努力しても頑張っても逃げられない運命と、それでも折り合いをつけながら希望を見つけようと必死で頑張る二人の主人公、暁海と櫂の姿に読者は胸を打たれます。

物語の大半は「不遇との戦い、不運による喪失」で構成されています。
それがとても切なく、甘いはずの恋愛小説に絶妙な苦味を与えているのだと思います。


理由3 暗闇の中でこそ美しく輝く花火

この作品には、「花火」が効果的に登場します。

詳しくは、小説を読んで味わっていただきたいのですが、物語の最後の花火は、まるで、自分も一緒に観ているような感動を味わうことができました。

この物語は全体としてかなり暗いです。
主人公の二人の境遇があまりにも厳しく、読んでいて苦しくなるほど。

そんな暗闇のなかで、一瞬の煌めきとして、花火が物語全体に光を与えてくれます。暗ければ暗いほど、花火が綺麗に見えるのです。

この物語の重要な主題の一つとして、「どんなに暗くて苦しい現実があろうとも、歯を食いしばって頑張って生きていれば、花火のような美しい時間に立ち会うことができる」というのがあるのかなと思いました。


理由4 透明度の高い文章

この小説の文章は、ハッとする言い回しや、キレのある比喩が沢山散りばめられている…というわけではありません。

ただ、とにかく読みやすい!わかりやすい!

暁海と櫂が、章ごとに交互で語り手となりますが、それぞれの心理描写が丁寧に描かれているので、二人のそれぞれの行動に共感できて、感情移入が容易でした。

気づいたら私は暁海になっていて、次の章では私は櫂にもなっている。
つまりは、物語に完全にのめり込んでいました。

文章が上手いことすら気づかないほど、自然な気持ちで読める透明度の高い文章。それが凪良ゆうさんの文章の魅力なんだと思います。


以上です!

いや、正直、まだまだ『汝、星のごとく』の魅力を半分も語り尽くせていない気がしますが、私の筆力と分析力ではこれが限界なので、ここで筆を置かせていただきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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