創作小説『こうして店は消えていく』 (2/4)
「運転資金500万円を貸してもらえるのか…」
ダメなら万事休す…。銀行からの回答を待つ日々は長く感じられた。
週明け、息子の同級生でもある地銀(メインバンク)の担当者が「追加資料が欲しい」と店を訪れた。追加資料が欲しいと言うことは貸してくれるという前提か?困った時ほど自分に都合よく解釈するものだ。
👤「固定資産台帳なんて何に使うんだ?それより融資は出そうかい?」
担当の若い行員はバツが悪い感じで「本部に稟議を通すために必要なんです」と答えた。
「まだ本部にも掛け合っていないのか?もう時間がないんだよ!500万円なら支店長決済で出せるって聞いたけど?」と控えめに詰め寄る社長。
✅『ここだけの話、スーパーとまとは減価償却を全部していませんよね?だから銀行で計算し直すと実質この3年間は営業赤字なんですよ。支店長が本部に稟議を回すかどうか…、おやじさん、これは内緒ね』と手を合わせた🙏🏻
不安は的中した。その2日後、資金がショートする月末まで1週間を残し「本部の稟議が下りず、ご期待に添うことができませんでした」と支店の「次長」から断りの電話があった。鼻から貸す気など無かったんだ。支店長は留守だという。
「少し蓄えを貸してくれないか?店が危ないんだ』と息子頼んでも『20万なら出せるけど…」と焼け石に水。
従業員の給料と仕入れ代金だけは遅らせる訳にはいかない。社長は別の信用金庫に貯めてある定期預金の解約に走った。
👉「社長さん、この定期預金は融資の担保にはなっていませんが、その『見合い』として考えています。解約するなら融資も返済していただかなければなりません!」と返ってきた。
自分の金も使えないのか💢 月末を越えるためには経営者一族の給料など払っている場合じゃない。息子にも言い聞かせ、少しの間辛抱させることにした。
なんとかしなければ潰れてしまう。税理士先生のご指導の下「鉛筆を舐めて、赤字だけは避けましょう」との意味は十分理解していた。その甘えのツケが今自分の首を絞めている。
他の銀行に頼むにしても時間がない。時間があったとしても頼みのメインバンクがこの有様なら可能性は低い。過去のピンチのたびに資産を担保に融資を受けてきたがもう差し出すものはないし、政府の制度融資も黒字の会社が優先されていて、その意味をなさない。
「自力で乗り切らねば」社長は知恵を絞り、勝負に出ることにした。
👤「そうだ、支払い額が多い魚問屋は長年の兄弟分の付き合いだ。少し支払いを待ってもらえないか頼んでみよう」
社長は菓子折りを持って市場にある魚問屋を訪ねて懇願した。相談を受けた問屋の社長は「まあ社長、頭を上げてくださいよ。困った時はお互い様ですよ。10日間くらいなら遅れても構いませんから!」と言ってくれた。
🙏🏻仏の顔に見えた。「口は利いて見るもの、頭は下げて見るもの」だ。息子にこんな思いはさせたくない……
なんとか月末を乗り切った社長に、経理担当の奥さんが慌てて駆け寄ってきた。
妻「銀行が今月末の手形貸付を一旦全額返してくれって💦その分は減額して新たな証書貸付にして半年で返済しろと。今まで折り返し・折り返しで利息だけ払っていたのに、これじゃお金が足りないわ。消費税の支払いもあるのに!」
一難去ってまた一難、泣きっ面にハチとはこのことだ。支払いに回す日々の「売り上げ」は天候不順が原因の野菜の高騰と、この地域特有の農作業の繁忙期が重なり減る一方だった。そして支払いを繰り延べてもらった魚問屋には、やっと半月後に借りを支払うという有り様。
「もう頼めない……」 社長はそう悟った。
翌月末の支払いも厳しく、他の取引業者への支払いを伸ばしてもらってなんとかクリアした。店舗は自社物件のため家賃は発生しない。これがもし賃貸物件だったらもっと早く資金はショートしていたことだろう。
繰り延べた仕入れの支払いも、いつかは支払わなくてはならない。相手も商売である。彼らに誘われて嫌々参加していた市場のゴルフコンペの招待も最近は来なくなった。
売り上げはまったく改善の兆しを見せない。給料がなくなった息子の専務も「このままじゃマズい……」とようやく感じ始める。社長は資金繰りに奔走し、店先に立つことも減った。その結果、息子が先頭になって店を切り盛りするようになった。とまとの被り物をまとった彼を見て、子供たちは、指を差して笑った。
👤「金のことはなんとかするから、お前は店を守れ!」と檄を飛ばす父。
店にノータッチだった息子の嫁も、無給で母の経理と惣菜の仕事を手伝うようになった。危機は家族を強くする!そう信じたかった…。
続く
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