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ランチの女王 涙の味は人生の味

私が子どもの時から、ずっとずっと大好きな、多分人生で一番好きなドラマ、ランチの女王。このドラマに出てくる二人の女王について、書いてみる。

一人は主人公の、竹内結子演じる麦田なつみ。オムライスを美味しそうに食べる姿、クシャッとした笑顔。キッチン・マカロニの4兄弟が全員夢中になるのもそりゃそうだ、となる。圧倒的に、あの時の竹内結子はかわいい。

もう一人は、秀美。あの美人の秀美。江口洋介演じる勇ニ郎と、友達以上恋人未満の関係。意地悪な夫に暴力をふるわれ、泣きながらクリームコロッケを食べていた秀美。
結局、微妙なバランスで成り立っていた勇ニ郎との関係も崩れ、暴力夫の子どもを身ごもり、彼とロンドンに渡る秀美。

私はずっと秀美が嫌いだった。殴られたなら逃げれば良いのに!!とか、勇ニ郎に甘えやがって!!とか、登場する度に言ってやりたい事が山程あった。
だけど、数年ぶりに見返した今、私は誰よりも秀美をリアルに感じる。
トンチンカンな設定のラブコメの中で、唯一めっちゃリアルな存在。

秀美はきっと、どこにでもいる。
自分の存在自体をあきらめて、パートナーに嫌な事をされても、「まあ、仕方がないか。」とサラッと流してしまう。
秀美、あんなにキレイなのに、ずっと伏し目がちで申し訳無さそうにしている。悲しいよー!

勇ニ郎にハグされても、「寄っかかったら、戻れなくなっちゃうから。」ですって。自分から「もう会うのはやめる。」と言っておきながら、「来ちゃった。」とノコノコやってくる。いや、来るんかい!!

私はずっと、なっちゃんと秀美は太陽と月のような、対となる存在なんだと思っていた。対となる二人が、勇ニ郎に惹かれているのだと。でも、なっちゃんは、あのドラマの中で誰よりも秀美に近い。

房総半島を仕切る、暴走族も一目おく不良の幹部だったなっちゃん。元カレの修治に裏切られ、刑務所に入った過去がある。
修治がマカロニで暴れた時、躊躇なくなっちゃんの背中を椅子で殴る。
勇ニ郎に心配されても、「あのくらい、しょっちゅうだったから。」と、サラッと流す。

悲しいけれど、自分を大切にしてくれない人と一緒にいるしかない、という状況。
健全な人にはきっと理解できないのだろうけど、そうやって最初から何かを諦めているからこそ、どこか問題のある人と居てしまう。

そういう意味では、なっちゃんと秀美が惹かれた勇ニ郎もある意味仲間なのかもしれない。
彼は繊細すぎるがゆえに、制約がある女性しか好きになれない。夫がいたり、兄の婚約者だったり。失うことが怖すぎて、最初から叶うことがない人を求めてしまう。
似た者同士の三つ巴だ。

なっちゃんはビーフカツを、秀美はクリームコロッケを、泣きながら食べた。どちらも勇ニ郎が作ったものだ。泣きながら食べた者にしか、人生の味はわからない。
そうやって、痛みがわかる人同士が、お互いにそっと寄り添う。

なっちゃんが途方に暮れた秀美と缶蹴りをするシーンは愛が溢れているし、勇ニ郎が「店辞めてー!!」と叫ぶ、秀美との夜のドライブも素敵。
警察署に行ったなっちゃんを迎えに行く勇ニ郎、その後公園でビールを飲む場面は、日本の夏の正しい使い方だと拍手してしまう。

では、なっちゃんと対になるのは誰だろう。きっと、伊東美咲演じる塩見とまとだ。
夏の日差しのような周囲の愛を浴び、真っ赤なトマトのようにピチピチに育った女性。
「複雑は良くないよ、シンプルが一番」と豪語し、真っ直ぐすぎる男純三郎を一途に追いかける。

こじれた人だけでなく、真っ直ぐな人もいる。真っ直ぐな人がこじれたり、こじれた人が真っ直ぐになったり。
弱かったり、ある場面では強かったり、登場人物のありとあらゆる側面こそ、このドラマの醍醐味だと思う。

儲けなしの商売である千円以下のランチを提供する店に、前科者、DV夫の妻、犯罪者、子育て中の女性、娘の分しか注文できない父親などが、次から次へとやってくる。

どんな人がどんな状況で食べても、マカロニの料理は変わらず美味しい。変わらないって、美味しいって、やっぱりすごい。

泣いたり笑ったりしながら、人生は続くのだ。泣いちゃうときに、いつも変わらない美味しい料理があればいいなあとしみじみ。

あと、なっちゃんのようなドロップキックを、一回で良いのでやらせて下さい。お願いします。



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