がん様々 9 ケモブレインという脳の機能低下、研究の賜物
がん患者による、がん患者のための、
がん治療対策マニュアル
2章 抗がん剤治療開始
11 ケモブレイン
8日目頃から「言葉が出てこない」「何を言いたかったか分からなくなる」「物忘れがひどい」「発想力や想像力の衰え感」といった、思考機能低下や記憶力低下などの症状を感じはじめていました。
同席している方に「本当に申し訳ない」と思ってしまうくらい、脳の機能が劇的に落ちたのです。
ただ、何事も良いことと思えることもあるのです。
元々記憶力は良い方で、人の歴史を語れると言われるくらいだったのですが、さっき何を食べたか忘れる、伝えたいことを話したかどうかを忘れる、など頻繁に起きるようになっていた感覚に、「忘れるってめっちゃ便利な生き方な気がする」と少しの喜びもありました。
現在は、5年前の抗がん剤治療前ほどの記憶力はありませんが、生きるには程よいくらいに戻っています。世の中、覚えていない方が良いことも多いですからね。
「ケモブレイン」という言葉があります。
これは、抗がん剤の副作用で、記憶力や思考力が低下する症状が現れることをいいます。まだきちんと解明されてはいません。
そもそも抗がん剤副作用対策が発展途上と感じている現実や、様々な副作用に対してどれだけ興味をもって研究がなされているかわからない中、日本でこの症状を積極的に研究している人はいるのだろうか…。
「限られた時間にこの研究をするくらいならば他の研究をするだろうなぁ、きっとね」と思うのです。
この病気になり、医療現場が日常の一部となった今、研究の大切さをとても感じています。
今受けられている治療は、過去の研究の賜物です。どなたかが興味をもち、結果が分からない未来を信じ、諦めることなく研究を続けてくださったおかげで生まれた物です。
地球上の自然以外のモノすべて、過去から伝承された産物でできているのですよね。良いモノばかりではありませんが、そう思うと、目に映るモノが過去の人が紡いできた夢の塊と感じられるのです。
解剖学や生理学など、基礎医学から臨床で実施されている最新の診断や治療まですべて、過去のどなたかが興味や夢をもち、発見と研究がなされ、それが言語化された賜物です。
今この瞬間にも、世界中の研究者が新たな賜物を生むべく、学会発表や論文執筆の準備をされていることでしょう。
歴史の中では、研究半ばにして発表できずに終わった重要な知見や情報も沢山あったと思います。
今の医療現場はもちろん、これらの過去の賜物に基づいて判断がなされ、治療が行われ、患者へのアドバイスが行われています。
医師も責任が取れる範囲内のアドバイスをしなければならないので、確立された賜物の領域外のことは言葉にしにくいと理解しています。
ただ1つここで言いたいのは、この過去の賜物からしか、言葉にできたものからしか、判断していないということ。それを認識した上で、医療従事者に医療現場に居ていただきたいということです。
病気になり、そのことを改めて感じました。
言葉を換えて言うと、確立されていない不確実な事象に未だ発見されていない真実が存在する可能性が大いにあるということです。
新しい発想は、まず否定されがちです。否定する人は、分かっていないから、知らないから否定できるのだと私は思っています。否定する理由をもっていないのです。
分かっていないことの中に真実が潜む可能性があるのです。
今は常識や当たり前となっている知見も、発想当初は否定されたものが多かったことでしょう。否定されることが、研究者や臨床家のヤル気を奮い立たせる原動力にもなってきたと想像しています。
抗がん剤副作用対策は発展途上です。医療現場の研究は、薬開発の研究が一番多いのでしょうかね。薬で解決できることもありますが、薬で解決できないこともあるのです。
私は、そこを研究してきました。「当事者が当事者を研究する」、患者だからこそできる研究もあるのです。
私自身の吐き気対策も、発見した当初は周りに「たえこだからできること」と私の特別な感覚と捉えられることがあり、そこに違和感を覚えていました。
私は、「万人がもっている感覚や肉体でできること」を基本に研究を行なっています。そうでなければ、誰のお役にも立てないからです。
頑張らないとできないことは活用しにくいものですが、当事者の主体的な“ちょっとの頑張り”が医学の進歩に必要だと思っています。
患者が状態の辛さに流されて受け身になってしまったら、身体は病気の居心地を良くさせる場所に近づいてしまう気がするのです。
いつしか人は、どんな理由であれこの世を去る瞬間に近付けば、受動的に流れに身をまかせるしかなくなる時が来るでしょう。
それまでの、生きる道を主体的に整える協力は、患者自身にもできるのです。いま病気であれ健康であれ、それが延命や命の質の向上に繋がっていると思います。
目の前に研究材料があるのに、何もしないのはもったいない。
12 皮膚の色素沈着
2回目の抗がん剤治療後あたりから、抗がん剤の副作用と思われる皮膚の色素沈着が起きはじめていました。全身の皮膚が日焼けのように少し茶色っぽくなり、皮膚の硬質化、爪の変色、顔のシミの急増殖などが起きました。
抗がん剤投与日の2〜3日後から発生する全身の皮膚の痒みには、対処法を発見できるまでの4回目までは大いに悩まされました。元々皮膚がとても弱いのもあるのでしょうか、掻いて血管が浮き出たり湿疹が出たりしていましたね。
クリームを塗るなど、外側からの対処で治まるような痒みではなく、中から湧き出てくるような痒みです。抗がん剤による皮膚細胞への影響で、皮膚の栄養が枯渇し痒みが発生する、という副作用が起きていたのがよく分かりました。
爪においては、ターンオーバーが分かる現れ方をします。
爪が作られる細胞の部分に抗がん剤の影響が及ぶと、その間の爪は変色して伸びてきます。そして、抗がん剤が抜け正常なターンオーバーに戻ると、ピンク色になるのです。ターンオーバーが活発ゆえの症状ですね。これが抗がん剤治療毎に繰り返され、爪は次第にストライプ模様になるのです。
顔のシミは、点々と小さいものが日に日に増殖していき、「これがすべて繋がった先は顔全体がシミということか!?」と想像される姿に、それは避けたい!と新たな研究テーマを掲げました。
吐き気対策を見つけ出した後の次なる研究は、皮膚対策です。この研究からは、4回目抗がん剤治療時に大発見!!の対処法が生まれました。 この対処法、効果が現れたのは皮膚だけではなかったのです。思いも寄らぬ、髪の毛にも効果がありました。
私は、乳がんが発覚してからしばらくは「乳がん治療とは」をインターネットで調べることはなく、主治医の著書や病院からの基礎情報のみで、起きることを感じていくようにしていました。
情報に埋もれないまま、自分で自分を研究したかったのです。起きる事実が見えにくくならないよう、先にある情報に、起きる事実を当てはめていきたくなかったのです。当事者研究をするには、既存の情報は後から答え合わせのように使うことが大切と考えています。
乳がん治療を受けるにあたり、国民が皆保険で受けられる標準治療を経験したく、そう決めていました。それが現状で最も良いと考えられている、この上ない治療なわけですし、認められている最善の治療はどのようなものかを知りたかったのです。
一般的な食べ物やサプリ、西洋医学ではない有効とされる治療方法など、様々な情報をいただきました。
でも、ピンっとこなかったのです。効果があるかどうかの「ピンっと」ではなく、多くの方が受けられる方法でないと、経験者として何かのお役に立てないような気がしたのです。
自分自身が乳がんになったことで、待ち構えている「知れるコト」の喜びを感じていました。
食べ物やサプリを含め標準治療ではないモノも、きちんと実証研究されたら「或る症状には有効」とされるモノは多く出てくると思うのですが、現実的にはハードルが高いことです。
ただ、私の治療経験の中で試す価値はあると思いました。がん退治に有効そうなモノを試すという視点ではなく、がん治療をサポートしてくれるという視点で試すことにしました。あらゆる副作用の軽減など、より元気な状態を保つことをサポートしてくれるほうにターゲットを絞ったのです。
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