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瞑想 無意識探究の旅

2018年、南アフリカのブロンブス洞窟で、壁に描かれたハッシュタグ(#)図形が発見されました。
7万3000年前に描かれたとされるこの「#」が、今のところヒトの「こころの萌芽」を示す最古の遺物です。
#記号はそこから数万年の時間と一万キロメートルの空間を超え、ショーヴェやラスコー、アルタミラなどの洞窟に描かれた32種類のシンボルの一つとして、ヨーロッパ全域で共有されることになります。
南アフリカとヨーロッパの洞窟の間にどういう関係があったのか?は謎ですが、この時期を境としてヒトの脳内には、抽象化されたコトバを扱う機能である自意識が形成され、それまで全てを包括していた根源的意識が、顕在部分と潜在部分の2つに分かれていったのだと思われます。
 
太古の洞窟内の暗闇フォーマットで起きた意識変容は、内在光学現象entoptic phenomenonとして脳内にシンボル記号を焼き付け、ヒトに自意識をもたらしました。
それと同時に誕生したての自意識に向かって、根源的意識の渦がなだれ込み、脳内には情報の大洪水が起こります。
この洪水の巨大なエネルギーをなんとか処理しようとして、それまで脳内各所を隔てていた機能別パーティションが取り払われ、現生人のこころを特徴付ける、横断的で流動的な知的機能が作り出されました。
一方ではバッファーとしての変性意識状態(ASC)を作り出すことで、自意識と無意識の間を行ったり来たりできるような仕組みができ、無意識内に見たイメージを自意識に投影して、その形を洞窟の壁に描き写すことを楽しむようにもなりました。
アーティスティックで創造的なこころは、変性意識状態を通して無意識と自意識が自由に交流することで生まれたのです。
 
ところが1万数千年前、地球の温暖化により洞窟の暗闇から外へ出て、太陽の下で暮らすようになったヒトの自意識は、周りの環境の変化に対応することで精一杯となり、ASC機能に制限を設けることで無意識から距離を置くようになっていきました。
また一緒に暮らし移動するバンドの規模が大きくなるにつれて、仲間内での言語的なコミュニケーションの割合が増えていくと、コトバを操る自意識部分が膨張していきました。
そのうちにメンバーの中には、「自意識こそが自分の全てである」と思い込む者も、チラホラと現れ出て来たことでしょう。
 
そういう自意識セントリックなメンバーに対して、ヒトと世界の背後に隠れてしまった本当の姿を伝えるためのイニシエーション・システムが、太古の部族社会には自ずと完備されていきました。
そのシステムが神話(ミュトスmythos)、そして祭り(コミュニタスcommunitas)です。
部族社会のメンバーは、自分たちの祖先や精霊、神々が体験してきた「冒険」や「友情」「創造」「死と再生」などの「物語」を無意識内に共有することで、初めて成熟した真の構成員として部族内で認められるようになります。
祭りという集団儀礼の中で、共通の変性意識状態を作り出し、言語によらない身体的精神的追体験により、再現されたイニシエ(古来)の出来事を意識の奥底に定着させるのです。
そうして若者たちは、自分が決して自意識だけの孤立した存在ではなく、仲間や祖先、精霊たちと意識の根っ子で繋がり合った、大きな生命樹の一部分であることを知ります。
 
神話的世界に生きる彼らは、祭りによる変容体験の他にも、夢見や特定の植物摂取など様々な方法により、頻繁に無意識への旅を行なっていたことでしょう。
そこには祖先の英雄たちや聖霊、神々が活きいきと暮らしていて、訪れた彼らに生きるための様々な知恵を授けてくれます。
英雄たちの生き方に倣い、聖霊たちの導きに従って植物を採り、動物を狩りながら、神々の指し示す未知なる土地へと、彼らは移動し続けていきました。
そしてわずか数万年の間に、アフリカやユーラシアだけでなく、ベーリング海峡や太平洋を渡って、南極を除く地球上のすべての大陸や島々へと、フロンティアを広げていったのです。
 
こころの中で経験した無意識への旅は、からだを伴う現実世界の旅のための羅針盤となって、後にグレートジャーニーと呼ばれるようになるヒトの大移動を引き起こしました。
次回はこのグレートジャーニーの先頭集団として、他の集団に先駆けて海を越え遥かなるフロンティアを目指した、アボリジナル・オーストラリアンの「夢見=ドリームタイム」について書こうと思います。

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