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行動変容(人材育成開発)を視覚化:信号機の青・黄・赤で紐解くプロセス


行動変容のアプローチの1つの「変容理論(TTM)」とは

前回は「コンセプト」について解説しましたが、今回は「人材育成開発」に焦点を当て、行動変容のプロセスを深掘りします。信号機の「青」「黄」「赤」というシグナルを活用し、変容理論(TTM: Transtheoretical Model)を基に、どのように個人が行動を変え、成長していくのかを段階的に視覚化して説明します。このアプローチにより、行動変容のプロセスが直感的に理解しやすくなるだけでなく、組織内での人材育成開発における効果的なサポート方法についても明確になると思います。

注釈:実際の変容理論(TTM)では5つの段階に沿って進行しますが、この記事では信号機の色に基づいて順序を調整しています。

変容理論(TTM)とは

変容理論(TTM: Transtheoretical Model)は、行動変容を段階的に進めるための理論で、特に健康行動の改善や生活習慣の見直しに幅広く活用されています。この理論は、個人がどのように行動を変えるかを段階ごとに理解し、そのプロセスを支援する枠組みとして発展しました。

TTMは以下の要素に基づいて構築されています。

  • 認知的要素:信念、期待、動機、価値観など

  • 感情的・人格的要素:情緒的な状態や性格的特性

  • 行動的要素:健康の維持、回復、向上に関連する行動パターンや習慣

これらの要素が行動変容のプロセスに影響を与え、どの段階でどのようなサポートが必要かを明確に示します。

健康行動理論とTTMの役割

個人が健康的な行動を実践するためには、次のプロセスが重要です。

  1. 意識的な気づき:まず、自分の現在の行動が健康にどのような影響を与えているかを認識し、変化が必要であることを理解することが求められます

  2. 動機づけ:次に、行動変容を促進するためには、内面的な意欲を高めることが不可欠です。これには、具体的な目標設定や、成功体験を通じた自信の強化が含まれます

  3. サポートシステム:さらに、行動を継続させるためには、周囲からのサポートや適切な環境が整っていることが重要です。これには、職場や家庭での支援体制の整備が含まれます

変容理論:TTMの5段階

これらの要素を組み合わせることで、行動変容の各段階に応じた適切なアプローチが取れるようになります。重要なのは、行動変容は一度で完結するものではなく、段階を踏みながら徐々に改善し、成長していくプロセスであるという点です。次に示す5つの段階は、個人がどのように行動を変化させ、成長していくのかを説明しています。

  1. 前熟考段階(Precontemplation): まだ変化を考えていない時期

  2. 熟考段階(Contemplation): 変化を意識し始め、検討する時期

  3. 準備段階(Preparation): 具体的な行動を計画・準備する時期

  4. 行動段階(Action): 実際に行動を起こし、変化を実践する時期

  5. 維持段階(Maintenance): 成し遂げた変化を継続し、定着させる時期

変容理論では、行動を一度変えたとしても、再発する可能性があることを前提としています。そのため、再発は失敗ではなく、行動変容の一部として捉えることが重要です。

変容理論(TTM)を信号機の3色に紐づけて考える

変容理論(TTM:Transtheoretical Model)を信号機の青、黄色、赤の3色に紐づけて考えることで、行動変容のプロセスを視覚的に理解できます。信号機の色は、各段階における意思決定や行動の指針を表し、どのタイミングで行動を起こすべきか、または慎重に進むべきかを示します。

青信号は、行動を起こすべきタイミングを示し、積極的に前進する段階に対応します。黄色信号は、慎重に準備や計画を整える時期を表し、注意を促します。そして赤信号は、立ち止まり、再考や調整が必要な段階を指し、無理に進むのではなく再評価を促す役割を果たします。

青信号:行動開始のフェーズ 【準備段階と行動段階】

青信号は、TTMにおける準備段階行動段階を表します。準備段階では、個人が行動変容に向けて具体的な計画を立て、行動に移るための準備をおこないます。行動段階に入ると、実際に新しい行動を開始し、変化を起こすフェーズです。

準備段階(Preparation)

この段階では、個人が行動を起こすための準備を整えています。行動変容に向けた計画を立て、具体的な目標を設定する時期です。青信号が意味する通り、進むべき方向が明確になり、実行の準備が整います。組織としては、個人が計画を具体化し、実際に行動を実行できるようにサポートすることが重要です。例えば、リソースの提供や具体的なガイドラインの策定、必要なスキルのトレーニングなどが有効です。また、個人が目標達成に向けて自信を持てるようにするための支援も必要です。

行動段階(Action)

この段階では、個人が準備段階で立てた計画に基づいて、新しい行動を実行に移します。青信号が示す通り、ここでは行動が順調に進むことが期待され、実際に新しい習慣が実践され、変化が目に見える形で現れるタイミングです。重要なのは、自己効力感(self-efficacy)です。個人が「自分はできる」と実感することで、行動変容へのモチベーションが高まり、積極的に新しい挑戦に取り組むようになります。この自己効力感が、行動の持続に大きな影響を与えます

組織としては、行動の持続をサポートする役割を果たします。具体的な目標設定やモチベーション維持に役立つフィードバックを提供し、個人が自信を持って行動を続けられるように支援します。こうした取り組みが、行動変容の成功につながります。

黄色信号:見直しと維持のフェーズ 【熟考段階と維持段階】

黄色信号は、行動を慎重に見極めるべき段階を示しています。これは、TTMの「熟考段階(Contemplation)」と「維持段階(Maintenance)」に対応し、社員が変化について考え始めたり、既に始めた行動を持続するための調整が必要な時期です。

熟考段階(Contemplation)

この段階では、個人が変化の必要性を感じつつも、まだ行動に移していない、または移せない状態にあります。黄色信号は、進むべきか一度立ち止まって考えるべきかを慎重に判断する時期であることを示しています。組織の役割は、個人が変化に対する迷いや不安を克服し、次のステップに進むためのサポートをおこなうことです。ここでは、行動変容のメリットとデメリットを明確に示し、進むべき道(ビジョンやキャリアパス)を具体的に見える、つまり理解できるようにするための情報提供やコミュニケーション(コーチング、ティーチング、メンタリングなど)が効果的です。

維持段階(Maintenance)

この段階では、変化した行動を持続し、安定した習慣として定着させることが重要です。組織は、個人が新しい行動を継続できるよう、定期的なサポートやフィードバックを提供し、再発(Relapse)のリスクを軽減する必要があります。

行動が一見安定しているように見えても、様々な要因が影響を及ぼす可能性があります。そのため、成功体験を強化し、自己効力感を高めることで、変化を持続するための強固な基盤を築くことが求められます。もし行動が定着しない場合は、その原因を特定し、効果的な改善策を講じることが必要です。

赤信号:行動停止と再評価のフェーズ 【前熟考段階と再発】

赤信号は、行動を始める準備が整っていない、もしくは再発して元の行動に戻る時期を示しています。TTMの「前熟考段階(Precontemplation)」と「再発(Relapse)」に相当し、行動変容プロセスの一時停止や再評価が必要な段階です。

前熟考段階(Precontemplation)

前熟考段階では、個人はまだ行動変容の必要性を強く認識しておらず、変化に対する意識も低い状態です。赤信号が示すように、この段階では具体的な行動をおこなう前に、まず変化に対する意識を高めることが求められます。組織の役割は、行動変容を促進するために、効果的な情報提供や教育を通じて、個人が変化の必要性やメリットを理解できるようにサポートすることです。また、焦らず適切なタイミングで行動に移せるように、段階的な支援をおこなうことも重要です。

再発(Relapse)

再発は、行動変容の途中で一時的に元の習慣に戻ることを指しますが、これは失敗ではなく、成長と学びの一環として捉えるべきです。TTMでは、再発が起こる可能性が想定されており、それを機に自身の行動を振り返り、改善に向けた準備をおこないます。赤信号がその振り返りのタイミングを示し、再発は新たな取り組みに備えるための重要なステップとなります。

組織の役割は、個人が再発を乗り越え、再び行動段階に進むための具体的なサポートやフィードバックを提供することです。例えば、再発の原因を共に分析し、必要なスキルやリソースを再確認しながら、新たなアプローチを提案する機会を設けることが重要です。柔軟で適切な支援を通じて、個人が自己効力感を高め、行動変容を継続できる環境を整えることが求められます。

状況を直感的に把握

変容理論(TTM)を用いることで、信号機の青、黄色、赤のシグナルが社員の行動変容にどのように関連するかを明確に理解できます。青信号は行動の準備と実行を促進し、黄色信号は行動の維持を支援します。赤信号では再発と再評価を通じて、新たなスタートを切る機会を提供します。このアプローチにより、社員の行動変容プロセスを深く理解し、効果的なサポートを実施することが可能になるのではないでしょうか。

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