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釣りをしていて、堤防から転落してしまう——海へ遊びに行く前に知っておきたい危険とそれを避ける方法

夏休み。子どもと一緒に登山や、川遊び、海水浴など、外遊びに出かける人も多いのではないでしょうか。しかし、外遊びをしている最中に、子どもが事故にあってしまうケースが少なからずあります。

この記事では、子どもと一緒に外遊びに行く際に知っておきたい、実際に起きてしまった"海"の事例と、どうやったらそれを避けられるかの解説『子ども版 これで死ぬ 外遊びで子どもが危険にあわないための安全の話』(山と溪谷社)から紹介。

外遊びで楽しい時間を過ごせるよう、事前に海にひそむ危険を知っておきましょう!


*本記事は、『子ども版 これで死ぬ』から一部抜粋、編集したものです。

CASE1:釣りで堤防から転落

11月下旬、徳島県で8歳の男の子が堤防から転落、父親が海から引き上げ、病院に搬送されましたが死亡しました。男の子は家族で釣りに来ていて、魚のえさになる貝を探している途中で堤防から波消しブロックの間に転落し、おぼれたとみられています。

©️コルシカ

香川県では、8月下旬に堤防に釣りをしにきていた4歳の男の子が海に転落、助けようと飛び込んだ60代祖父が、男の子を助けたあとおぼれて死亡する事故が起きています。

2023年に起きた海のレジャー中の事故による死亡・行方不明者は218人(大人を含む)。そのうち、釣りをしている最中の事故による死亡・行方不明者は90人で、全体の約40%を占めています(※1)。

また、12歳未満の釣りの際中の事故の92%が海への転落で、そのうち82%がライフジャケット未着用でした(死亡事故以外も含む2012〜2021年海上保安庁の累計※2)。

※1「令和5年における海難発生状況(速報値)」(海上保安庁)による
※2「子供の海の事故発生45 海の危険 状況と当庁の取り組み」(海上保安庁)による

死なないためには


釣りのときは全員がライフジャケットを

海では遊びの種類や個人の泳力、経験によって、ライフジャケットの着用おすすめします。とくに海に転落する事故の多い釣りの場合は、たとえ通いなれた自宅近くの堤防であっても、同行者全員のライフジャケット着用が必須です。体格に合ったものを正しく装着しましょう。ライフジャケットは浮力になるほか、海に落ちたときの衝撃をやわらげ、冷たい海の中で体を保温する役割もあります。

海に落ちたら、まずは呼吸を確保

ライフジャケット着用が命を守る大前提になりますが、万一、釣りをしていて堤防から海に落ちてしまったときは、ロープやはしごなど、まず周囲につかまるところはないか確認します。もしない場合は、パニックにならずに呼吸を確保するあらゆる方法をとることが大切です。

『子ども版 これで死ぬ』P.47より(イラスト=コルシカ)

浮き具として使えるものを確認しておく

助けようと海に飛び込むのは、泳ぎに自信がある人でも、二次災害を招くリスクが大きいので禁物です。万一、海に転落してしまった人がいたら、ペットボトル、バケツ、クーラーボックスなど浮くのを助ける補助的なものを投げ入れる方法があります。ペットボトルは中身を少し残しておくと、より遠くに飛ばすことができます。釣りざおなど長いものを差し出して助ける方法では、救助者は腹ばいになったり、固定されたものに捕まったりして、海に落ちないように気をつけます。

CASE2:離岸流に流される

7月中旬、島根県の海岸に家族で海水浴に来ていた11歳の女の子と10歳
の男の子が海で流されているのを見つけ、助けに向かった父親がおぼれて死亡しました。子どもたちは無事でした。3人は、海岸から沖合約35m付近で見つかり海岸から沖に向かって強い流れが生じる「離岸流」に流されたと見られています。

砂浜が広がる海岸の南には波消しブロック、北側には小島があり離岸流が発生しやすい地形とも言われ、同じ海岸で離岸流に流されたと見られる事故が過去に複数起こっています。この海岸は、以前は海水浴場として使用されていましたが、事故当時海水浴場は開設されておらず、ライフセーバーはいませんでした。

©️コルシカ

また静岡県の海水浴場では8月下旬、離岸流と見られる強い流れで十数人が一度に沖合に流される事故が起きています。多くはライフセーバーや消防隊員によって救助されましたが20代の男性1人が死亡しました。


死なないためには

気がつかないうちに流される離岸流に注意

海水浴中の事故で多いのが、海岸から沖に向かう強い流れ「離岸流」に流されてしまうことによるもの。遊泳可能と言われる波の高さであっても、離岸流に流されてしまうと、浮き輪で遊んでいる子どもは知らず知らずのうちに足が届かないところへ流されてしまいます。水泳の得意な人でも、流れに逆らって泳いで戻るのはむずかしいと言われています。

砂浜に発生する離岸流のイメージ。沿岸流とは岸に沿って流 れる流れのこと。離岸流の幅は10~30m、長さ10~100m程 度で、波の高さが高くなるほど流れは早く規模も大きくなる(『子ども版 これで死ぬ』P.54より、イラスト=コルシカ)

子どもが流されたらライフセーバーへ

離岸流に流されてしまった場合、離岸流をぬけるためには岸に沿って横に泳ぐなどと言われますが、岸まで泳ぎ着くのは困難です。

流された場合は呼吸を確保することに努め(上で紹介した「浮き方の例」も参照)、救助を待つのが賢明です。もし子どもが流されてしまったら、二次災害につながるので助けにはいかずに、ライフセーバーのいる海水浴場であればライフセーバーに、もしくは海上保安庁(118)か消防(119)に救助を要請します。水難事故は未然に防ぐことにつきます。海では子どもから絶対に目を離さず距離をあけないこと。ライフジャケットを着用し、海水浴に適した状況で遊ぶことが基本です。

©️コルシカ

必ず海水浴に適した場所で泳ぐ

海は、日ごと時間ごとに天候などの理由で様子が変わります。上で述べた離岸流が起きている場所を、海に来るのは年に数回という人が見つけるのはむずかしいでしょう。

では、子どもと安全に海で遊べるのはどんな場所でしょうか。
●ライフセーバーが常駐している
●遊泳エリアがロープやブイなどで指定されている

このような安全管理がされた海水浴場では、波や風の状態を監視して、それらの情報を掲示し、危険な状態になれば遊泳が禁止になります。また、もし前ページでお話した離岸流で流されてしまうようなことがあっても、す
ぐに救助に向かうことができます。 日本ライフセービング協会のウェブサイトやスマホ用アプリ『WaterSafty』では、ライフセーバーが活動している全国の海水浴場や海水浴場施設の情報を確認できます。海で安全に遊ぶためのハウツーを楽しく学べるコンテンツも発信されていますので、事前に情報をチェックして楽しい海での時間を過ごしたいですね。

着いたら、まずは海の状態をチェック

ライフセーバーがいる監視所に置かれていることの多いインフォメーションボードで、その日の海や風の状況を確認しましょう。直接、ライフセーバーに気をつける場所はどこか、波の様子などを聞くのもおすすめです。

準備体操をし、浮き具などを正しく身につけます。自分が海に入った場所をきちんと確認できるように目印を覚えておくことも忘れずに。海で泳いでいるときもこまめに自分のいる位置を確認することで、気づかぬうちに流されるのを防ぐことができます。

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『子ども版 これで死ぬ 外遊びで子どもが危険にあわないための安全の話』では、川・海・山・身近な公園で実際に起きた子どもの事故事例28を紹介。

それぞれの場所で事故防止策・安全啓発を発信しているプロの監修のもと、どうしたら事故を防ぎ、安全に楽しむことができるかを徹底的に解説しました。

また、各章の最後には、最も重要な安全の話がつまっている漫画解説付き。子どもと一緒に安全に外で遊ぶ方法について学ぶことができます。


■書誌情報
羽根田 治・監修、藤原尚雄・監修、松本貴行・監修、山中龍宏・監修、大武美緒子・文
定価:1,540円(本体1,400円+税10%)
仕様:四六変形判/128ページ
ISBN:978-4-635-50050-0

■本書の監修者・著者について
監修・羽根田 治(はねだ・おさむ)
フリーライター、長野県山岳遭難防止アドバイザー、日本山岳会会員。山岳遭難や登山技術の記事を、山岳雑誌や書籍で発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆活動を続けている。近著に『ドキュメント生還2 長期遭難からの脱出』『これで死ぬ』(山と溪谷社)、『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(幻冬舎新書)など。

監修・藤原 尚雄(ふじわら・ひさお)
1958年大阪府出身。大雪山系の麓で、大自然に囲まれた生活を謳歌している。雑誌『Outdoor』(山と溪谷社)の編集、専門誌『カヌーライフ』の創刊編集長を務めたのち、フリーランスとしてアウトドア関連および防災関連の雑誌、書籍のライターとして活動する傍ら、消防士、海上保安官、警察機動隊員などに急流救助やロープレスキュー技術を教授するインストラクターとしても活躍中。

監修・松本 貴行(まつもと・たかゆき)
横浜国立大学大学院教育学研究科修了。成城学園中学校高等学校保健体育科専任教諭。公益財団法人日本ライフセービング協会副理事長、教育本部長。溺水事故はレスキューよりも、いかに事故を未然に防ぐか?が最重要であると、日本で初めて水辺の安全を誰もが学べるICT教材「e-Lifesaving」を開発。内閣府消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。

監修・山中 龍宏(やまなか・たつひろ)
1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長。

文・大武 美緒子(おおたけ・みおこ)
フリーライター・編集者。山と溪谷社で登山専門誌、ガイドブック編集に携わったのちフリーに。二児の子育て中、親子でアウトドアを楽しむ。著書に『不思議な山名 個性の山名 山の名前っておもしろい!』(実業之日本社)、編集・執筆を手がけた本に『はじめての親子ハイク 関東周辺 自然と遊ぶ22コース』(JTBパブリッシング)などがある。

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