小説 縄文人のオレが弥生人のアイツに土器土器するなんて 『第9章 弥生式土器を教えたくない僕。』
その日の午後、僕はルルと昨日約束した縄文土器を作っていた。「大陸の方の土器を教えて」ってルルは言ったけど、それは弥生式土器を表していて。僕は、弥生式土器が……あまり好きではない。
あれほど魂の、原初的な力を出し切った縄文土器の後にやってきた弥生式土器は、ツルッとしていて本当にただの器で。
絶対、ゴテゴテした縄文土器よりは使い勝手がいいのがわかっていたけど、それを僕が教えたら、このムラの土器は全部、今までのものとは変わってきてしまうのかと思うと、伝えたくないという気持ちが出てしまっていた。
「ルル、僕はルルの作る土器が見てみたいから。ルルの土器の作り方、教えてくれるかな?」
こんな風に女の子に、何かを頼んだのは初めてだ。ああ、僕は今まで、周りにいた人たちを、「いない」と思って過ごしてきたんだろうな。
本当は、「いる」のに。いるはずがないと、強力に思い込ませて、いたのかもしれない。
「うん。いいよ。じゃあ、見てて」
ルルは胡座になって座ると、粘土と砂を混ぜ、それをよく捏ねた。僕もそれを見て真似をする。手に粘土から染み出す水分が冷たく感じられる。砂のザラザラした感触。土が、気持ちいい。
ルルは、いつか縄文館のワークショップで見たように粘土を紐状にして、それを段々に積み重ねていく。でも縄文館で見て、ワークショップでやった時とは明らかに違う。ルルは、まるで自分の宇宙にでも入り込んでいくように、無心になってこれから作る縄文土器の姿を探るように、粘土を抑え、粘土をちぎり、土器の姿を生み出そうとしている。
「あたしも、やる!」
そう言って、突然僕の膝に飛び乗って来たのは、結婚式の時に盃を持ってきた子どもだった。土器作りを嗅ぎつけた子どもたちが5人くらい、きゃあきゃあと言って周りに集まってきた。みんな5歳ぐらいの子どもで、その辺でいつも遊んでいる子どもたちだ。ルルはそれに気づいて、
「ああ、そこに粘土あるから。砂と混ぜて作りな。何作ってもいいよ」
と言った。まだ土器の世界に入っているのか、ルルの顔に挑戦的な微笑みが浮かんでいる。この粘土を、どんな形にしてやろうかと企む、猫のような顔。
その日、ルルが長い時間をかけて造形した土器は、縄目を押し当て、更に飾りを幾重にも渦巻状に並べた高さが40センチもある大作だった。それは、作るのに3時間以上もかかり、周りにいた子どもたちが飽きて、いなくなるほどの時間だった。
「なんか、作ってるうちに、こんな風になっちゃった……」
ルルは、疲れて地面に手足を放り投げながら言った。
「後は、これを十分乾燥させて、焼けばいいだけ。ああ~、スッキリした!」
ルルは、横になって体を寝そべらせた。片手で頭を支えて、こっちを見ている。
「なんかね。あたし、やっぱりアンタのこと、嫉妬してたみたい。それ、全部土器に込めたから、あと何も残ってないよ……」
「土器に、込めちゃったの……?」
「うん。そういう形だよね。渦巻きが炎みたいになって、アシリを好きな気持ちと、アンタにむかつく気持ちは、蛇みたい。でもなんか、素直な線が自然と出てきたから。形にしたらどうでも良くなってきた……。アタシがアシリを好きなのは変わらないし、気持ちなんて、消えるまであるんだから」
(消さないんだ……)
僕は思った。気持ちは、消えるまである。一体、いつ消えるんだろう……。それは、誰のコントロールからも外れた場所にあるんだろうか。
「ルル、す、す……好き……だよ」
僕は、心臓が破れそうなぐらいドキドキしながら言ったんだけど、ルルは、「ありがと。へへ」と、本当に猫にニャーとでも言われたぐらいに簡単に、
受け流した。
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