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私は変わりたいのです。

◇◇ショートショート

「もうすぐ30歳を迎える私は、今人生の分岐点にいるのかも知れないなー」
鏡の前で化粧を落としながら恵子は、そんなことを考えていました。


「20代最後の年に独身で、仕事最優先の人生、パートナーはいないし、物凄く秀でた才能があるわけでも無い、そんな私に女としての明るい未来はあるのかなー」
恵子は洗顔しながら自己分析を始めていました。


「ねえ、仕事命って思ってる私って、可愛くないわよねー」
「うん、そうかも」

「同性の後輩からは慕われてるんだけど、異性から見たらたいした魅力は無いよね」
「うん、そうかも」

「でもね私が、私を愛してあげないと誰も私を認めてくれないし、誰も好きになってくれないと思うのよね」
「うん、そうかも」

恵子は自問自答を繰り返しながら、一日の汚れを丁寧に落としていました。

「私って思い込んだら突き進むタイプだし、人の意見は聞かないし、物凄く強情だよね」
「うん、そうかも」

「わからない、出来ない、どうしようなんて言う言葉はほとんど言わないし、後ろ向きなのは嫌いなんだよね」
「うん、そうかも」


「困ったな―なんて言いながら男性に依存するタイプじゃないよね、やっぱり可愛くないかな・・・」
「うん、そうかも」

鏡の向こうで、もう一人の恵子が何度も頷いています。

彼女は自分の事が良く分かっているのです。
十分分かっているのに、変えることが出来ないのです。

「あなた、自分のいいとこも悪いとこも分かってて、変えられないのよね」
「うん、そうかもね」

そう言いながら恵子は、石鹸だらけの顔を洗い流していました。

ふかふかのタオルで水気をきれいにふき取って、さっぱりした表情で恵子は鏡に向かって言いました。

「ねー、私もうすぐ30歳になるようには見えないよね、私、童顔だよね、結構可愛い顔してると思わない、まだまだいけるよね」
「うん、そうかもね」

「手のひらがぽっぺたに吸い付くよ、これ若さの証拠だよね」
「うん、そうかもね」

お化粧を落とした途端に、恵子の武装が解除され、素直な彼女が顔を出しました。

「わたしって可愛いよね、中々チャーミングだよねー、まだまだ大丈夫だよね」
「うん、そうかもね」

恵子は自分にそう言い聞かせて、寝室に向かいました。

「私、本当は可愛い女に変わりたいんだよねー」

化粧を落として、鎧を脱ぐ、恵子のいつもの儀式が終わりました。

「おやすみなさーい、可愛い私」


【毎日がバトル:山田家の女たち】

《自分が変わりたかったら変わったらええ》

※92歳のばあばと娘の会話です。

「人間は気持ち次第じゃけんね、自分が変わりたかったら変わったらええんよ、変わりたいと思た時に変わらんとね、その一言に尽きます

母はさらりと言ってのけました。


最後までお読みいただいてありがとうございました。
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