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僕と新入社員研修

「僕も2週間前にここに来ました」

人に与えられた時間は有限であり、これまで時間をかけてきたものだけがやがて受け取ってもらえるだけの価値になる。

気づいた時から僕は人と関わることが好きで、もうちょっと掘ると、何かが発芽する瞬間を見つけるのが好きで、その芽が育つのを近くで見るのもまた好きだった。

それが仕事になるといいなと思って興味を進めていったら、たまたま僕の価値は教育にあった。有名な教育者というわけではないけれど、先生という国から認められた教育のプロとして10年近く仕事を続けることができているわけだし、関わった子ども達を幸せにできた自負もある。

つまり1日が平等に24時間あるのなら、世の中には価値のない人はいなくて、もし今自分に価値がないと思うのであれば、それは生きる場所が違うか、自分への理解が足りないのである。その答えはあいにくSNSには転がっていないので、今すぐこんな記事を読むのをやめて、スマホを置いて散歩にでも行くといい。サウナでもいい。人を介さない、自分だけが会話の相手になる時間が必要なのである。

そんな僕も今は自分の価値がないところにいる。子どももいなければ、授業をすることもない。

教育という自分の価値であり、武器を取り上げられた時に初めて自分の価値がそこにあることを知る。

流れる時間も違えば、参画するチームも、任される仕事も違う。これまでの日常がまったくなくなってしまった時に寂しさが一緒に連れてくる、ここじゃない感はだいたい勘違いであり、ここではない場所への過大評価であることを過去の経験が教えてくれるから、僕は今必死で新しい自分を探すことができる。

それはやや陰った自信と引き換えにある、とても春らしい人生の楽しみ方でもある。

そんな僕にも自分の価値を生かせるチャンスが与えられた。

新入社員研修である。

元々、民間企業研修はそれぞれの専門性から遠くない企業へ配属されることになっているため、こういった教育の色の強い仕事を任されることは伝えられていたが、久しぶりに人と関わる仕事をして感じたことは、僕にとって教育という仕事は格別におもしろいものであるということだ。失いかけた自信を取り戻すためにちょうどよく用意された機会だったとも思う。

………
……

「みなさん、おはようございます」

「おはようございます」

「素敵なあいさつですね」

「ありがとうございます」

「みなさんはここでの研修を終えるとそれぞれの配属先で働き始めます。きっと今は期待と不安が入り交じったそんな感じなんだと思います。今ちょっと不安だよって人います?」

「1、2、3、そうですよね。働き始めると先輩方と比べてできることも少なく、きっと気後れすることもあると思うんです。初めての環境に飛び込んだ時にはだいたいできないことの方が多くて、せっかく希望をもって臨んだ仕事なのに自信をなくしてしまう。あれ、何もできない自分の価値ってどこにあるんだろう?って。なんか思ってたのと違うって。でも、自信ってできることを愚直に積み重ねていった先にしか生まれない。だから小さなことから丁寧にやっていきましょう。みなさんがしてくれた素敵なあいさつもそのひとつですからね」

「僕も2週間前にここに来ました」

「異動ですか?」

「異動というか、2週間前まで中学校で教員をしていたので、そもそも企業で働くのが初めてです。だから、偉そうにこうして喋ってますが、僕もみなさんと同じ新入社員です。なんならみなさんの方が、色々と調べてここに来ているはずなので僕よりずっとできるやつです」

「先生!そんなことあるんですね」

「そうらしいです。僕もまだ何でここにいるのかよくわからないです。今のところ爽やかなあいさつができるぐらいの価値しかないんで…

でも、お互い頑張りましょうね。できることが増えるって楽しいし、働くっていいなって思うはずなんで」

「はい!」

先輩社員の顔した新入社員は今週もまたできることが増えて働くを喜んでいる。











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