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168.夜中の気付き

ある日の深夜、睡眠中の私は唐突に目を覚ました。声にならない小さな声が漏れ出てくる。

『あいたたたたたた』

左モモの内側がつって起きた。暗闇の中で悶える私。

例えばふくらはぎや足の裏がつったのならこうはならない。慣れない場所がつるというのは非常に痛いのだ。寝ながら出来るだけ患部を伸ばし、ほとぼりが冷めるのを待つ。しばらくすると痛みが治まり、再び眠りについた。

別の日の深夜、睡眠中の私は唐突に目を覚ました。声にならない小さな声が漏れ出てくる。

『あいたたたたたた』

両ケツがつって起きた。ー以下同文ー

別の日の深夜、睡眠中の私は唐突に目を覚ました。声にならない小さな声が漏れ出てくる。

『あいたたたたたた』

右のもも裏がつって起きた。ー以下同文ー

こんな具合に短いスパンで筋肉がつってしまう日が続いた。

一体何故なのだろうか。その原因について"水分が足りてないから"だと酔っ払っている時に誰かにそんな事を言われた。だが私はこう思った。

『(誰に言ってやがる)』と。安易すぎる発言に憤りすら感じる次第である。

私の日々の水分摂取量を侮らないで欲しい。1日あたり私がどれほどの水分を摂取していると思っているのだ。私は朝から夜までに1リッター近く水を飲んでいる漢だ。その証拠と言わんばかりに午前中から尿道が擦り切れんばかりに小便をしている。夜は夜で飯を食ってから寝るまでにちびちび水を飲んでいる。ここでも最低0.5リッターは飲んでいる。

これで水分不足だとしたら1日どれ程の水分を取れば良いというのか。

とにかく水分は足りているのだ。原因は他にあるはず。とは言うものの、既に私の中で心当たりがあった。恐らく運動不足なのだろうと。足がつる事と運動不足に因果関係があるかは分からないが、他に思い当たる節が無い。"それ関係ある?"と人に指摘されたがその時私はこう思った。

『(誰に言ってやがる)』と。安易すぎる発言に憤りすら感じる次第である。

私の日々の運動不足具合を侮らないで欲しい。私がどれほど運動とは無縁の生活をしていると思っているのだ。この街は車社会。玄関を出て車に乗り、目的地に到着して建物に入る。ドアトゥドアの生活。それに加え私の場合、太らない体質にかまけて大人になってから運動らしい運動なんてしていない。実家が山の上にある住宅地なので学生時代こそ日々自転車で坂を登り、隆々と鍛え上げられた下半身を保持していたが、今備わっているのはその頃の忘形見。

20年も放置された筋肉だ。これが原因と考える事が無難だろう。じゃあこの悲鳴を上げた筋肉をどうするのか。

色々考えた結果、私は人生初の決断をした。

『(体動かすか)』

以外と悩まず、この判断を受け入れた。何せ40代に突入しているのだ。いつまで若かった頃の記憶や想いだけでいられるはずもない。きっといつかお肌の曲がり角的な事が肉体にも起きるのだろう。その前に自分のために少しだけでもやってみよう。

とはいえ、そんな大それた事をするわけではない。日々続けられそうな負荷をかけられればいい。マッチョになりたいわけじゃない。という事で私は【歩く】ことにした。ウォーキングフォーミーである。

問題はどの程度歩くかだが、幸い私は競馬場の近辺に住んでいる。競馬場の外周をぐるっとして戻ってくれば、程々に歩いた感も出るだろう。そして最初に時間を計測して歩き、次からはそれを基準に負荷のある速さで歩けば良い。

思い立ったが吉日。早速歩いてみた。ぐるっと歩き、さくっと帰宅する。スマホで計測した所、距離は三千数百メートル。およそ3キロ。記録は34分。速さ=距離÷時間なので3キロ÷0.6時間は5。約時速5キロで歩いた事になる。これが基準。この速度を早めて負荷を掛けていけば良いのだ。歩きながら今時速何キロ出ているなんて分からないが、とにかく今日より早く歩けば良い。

こうして私のウォーキングフォーミー作戦が始まった。雨の日や雪の日以外は歩く。私の中に三日坊主という言葉は無い。やると言ったら淡々とやるのだ。

そして約一ヶ月ほど経過すると最高記録28分をマークした。速度にすると時速6.4キロ。最初はある程度の負荷を掛ければ良いという思いだったのでここまで早く歩く必要もないが、"昨日の記録を更新する"という連なりが6分もの時間を短縮させた。正直この速さで歩くと息が切れ、汗もかく。

ここで私の中に一抹の不安がよぎる。

『(このまま続けたら痩せてしまうのではないだろうか)』

私は今でも十分痩せている。健康診断的にもギリギリのライン。正直、もうこれ以上痩せたくはない。だが体を動かさないと下半身がつる。なんともいえないジレンマを抱える。

理論上、この運動がどの程度カロリーを消費するのか調べてみた所、こう出てきた。

【体重が50kgの場合、3km歩くと50×3=約150kcalのエネルギーを消費することになります。 週に5回1日に30分のウォーキングを行うと、1ヶ月で150×20=3000kcalものエネルギーを消費することができます。 3000kcalというと、約0.5kgの脂肪が蓄えているエネルギー量に等しいです】

エネルギー量と言われると良く分からんが、1ヶ月に0.5キロ痩せるという事だろうか。体重50キロの場合の計算ではあるが、その場合、私の体重(60キロ代)でも大きな違いはないだろう。1ヶ月に0.5キロ痩せる運動を私はしている。なるほど。

だがこう思った。

『(・・・なんか・・・腑に落ちない)』

あんなに頑張って歩いて、息を切らし、汗もかいて1ヶ月で0.5キロしか落ちないのかと。いや、痩せたいわけじゃないのだが、すごく頑張った割にその程度の運動なのかと。多少憤りを感じる。あんなに歩いてるんだから、どうせなら大いに一抹の不安を味わわせて欲しかった。少しダイエットに失敗する人の気持ちが分かった気がする。

でも私は歩くと決めたのだ。その程度じゃ心は折られない。翌日も息が切れるほど歩いたし、もう筋肉痛にもならない。状態は上向き、記録も上向き、非常に良い感じで継続出来ていると感じていた矢先、こんな事が起きた。

深夜、睡眠中の私は唐突に目を覚ましたのだ。そして小さな声を出す。

『あいたた』

ふくらはぎがつって起きた。思わず私はふくらはぎに問う。

『(なんで?)』

水分を摂り、運動もしてるのにこの仕打ち。一体何故つるのだろうか。本当に水分が足りないのか、運動が足りないのか、そもそも運動は関係無かったのか。原因が分からず自問自答を繰り返しながら眠りについた。

そして現在、私は未だに歩き続けている。なんなら26分代という自己新を更新している。

だが、もはや何の為に歩いているのかも分からず、続ける意味も止める意味も見出せず、深夜徘徊の様に夜な夜な競馬場の周りをうろつくおっさんと化した。

【誰か私を止めてくれ】

そう願いながら、今宵も取り憑かれたように夜道へ繰り出すのだ。

おわり

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