山田 忍

山田 忍

最近の記事

あの病院へ

朝からしとしとと雨が降っている。 ぼくは、母と待ち合わせした 整形外科まで来たが、姿が見えない。 「山田さん、診察終わり会計済みですよ」 事務の人が教えてくれた。 「すれ違ったな、仕方ない帰るか」 車に戻るとつま先が湿っていて気持ち悪い。 その足で、アクセルを踏み4分後、非通知の着信があった。 「何処にいますか〜?私は、1階の入院手続のところにいます」 留守電を聞いたぼくは、もとの駐車場に戻った。 待合席でショルダーバッグを抱えて ちょこんと座っている母をようやく発見し

    • 大麻の匂い

      ぼくは ひとり暮らしの高齢の母に会いに ときどき田舎に帰るようにしている。 「帰ってっも食べるもの無さそうだしな」 スーパーに寄っていくことにした。 時計は、19:46だった。 この時間は、客も少なくていい、知り合いに合わなくてすむ。 エビドリアをカゴに取り、菓子コーナーで立ち止まっていると 店内で、30代のカップルが何かを探している様子が見えた。 女性の方が、ぼくの後ろを通り過ぎてレジの人に話しかけている。 空気がレジの方へ動いた後、スモーキーな悪臭が鼻をさし 「気持ちが

      • 新しい職場

        老舗和菓子屋の面接から1週間後 採用の連絡をいただいた。 「よし!修行だ」 菓子の製造、喫茶メニューの製造、菓子販売と提供と 部署が分かれていて ぼくは、菓子販売と提供からのスタートだ。 シフトを見るとぼくの名前はもちろん1番下である。 接遇やコーチング等の教育がされていないスタッフだと 直ぐにわかった。若いスタッフは、高齢者からいじめで 何人も早期退社しただろうという雰囲気である。 ぼくは耐えられるであろうかと少し不安になった。 いや、そんなこと考えてはダメだ 絶対に

        • ASDの同僚③

          土日のカフェ営業の日の通勤はいつも日差しが強く ぼくの腕はいつの間にかこんがりとしていた。 「ユイちゃん、今日はぜんざい用の白玉作ってみないかい? 白玉粉買ってきたんだ」 ぼくは、200グラムの袋をカサカサさせながら言った。 「わああ、わたし作ったことないんですかど、できますかね」 「大丈夫だよ。一緒に作ろう!準備するね」 道具をざーっと揃えて、この先はユイちゃんにやってもらおうと思った。 粉と水をきれいに混ぜてくれたので、丸める作業を一緒に始めた。 「真ん中を押すと形が割

        あの病院へ

          ASDの同僚②

          朝の小雨のせいで、庭がしっとりしている。 小さくしゃがんでいるユイちゃんに 「ユイちゃんのおかげでお庭がきれいになるね」 と声をかけてみた。 「草取りしてるんですけど、 集めると石がいっぱい入っちゃって、あのオいいんですかね」 「ちょっと休憩しようよ。お菓子作ってきたから味みしてほしいな」 店主が何処かと探していたら、クーラーのきいた部屋で横になっていた。 ぼくはわざと大きな声で 「お疲れ様でーす!お茶にしませんか?」 「おっ、おう。コーヒーいれようか」 店主は、ずいぶん

          ASDの同僚②

          お盆の時の話

          「今年は買わなくても畑の鬼灯でいいね」 母が趣味で作っている作物は形は整っていないが 無農薬でとても愛らしいカタチをしていた。 「最近ぼくは、自閉症の人と一緒に仕事してて、 彼女を見ていると、もしかしたら父さんも自閉症だったんじゃないかなぁ と思ったりするんだよね」 母は茄子で馬を作り始めた。 「あの頃はね、生きるのが精一杯でお父さんにはいつもイライラしていたよ。 なんせ働かなかったからね」 「ぼくもイライラしていたよ、当時は。ふとお婆ちゃんの言葉を思い出したんだ。『わたし

          お盆の時の話

          ASDの同僚

          この夏は、カフェのお手伝いをしている。 店主が「自閉症の子がスタッフで来るからよろしくな」 ぼくは「どんな人が来るのだろう」と、なぜか楽しみだった。 出会った1日目は、少し距離を置きながらも 普通に仕事しランチも共にした。 実年齢より幼く見えるが、視線を合わせて会話もできた。 2日目、店主が 「暑いからホースで水撒きしてくれ」 そう言われると、彼女は裏からホースを伸ばして 樹木に水撒きを始めた。 「ちがうよ、地面に撒いてくれ」 「あっ、はいい」彼女の足ホースが絡み 「ああ

          ASDの同僚

          Bamboo houseの残骸

          天上から観音さまが ボロボロのbamboo houseを眺めている。 父が生きていた頃は 昼夜を問わずこの部屋に友だちが 日替わりで訪ねてきた。 バンド仲間や見るからにサーファー 普通の人や都会から来る会社役員などが 酒や食品の手土産を持ってやってくる。 幼い頃のぼくは バンドの大音量が大嫌いだった。 タバコの煙だらけの部屋に 近づくこともなかったが その煙が大麻の煙とも理解していなかった。 家族が大麻を常用している環境で育ったこどもは 日本にどれくらいいるのだろうか

          Bamboo houseの残骸

          勾留中に亡くなって15年が経過していた

          ぼくは、高齢者の孤独死を心配し 定期的に母の住む場所へ足を運んでいる。 あの Bamboo Housesもここにある。 「そういえば命日だ」 と思いその場所にゆっくりとゆっくりと 忍び込んでみた。 現在も竹の壁が残されていて その下にはボロボロになったリュックが寄りかかっていた。 リュックは大麻栽培の為山に入るとき 肥料やスコップを入れていたものだと ぼくは知っていた。 耳をすますと 南南西の風に乗ってかすかに太鼓の演奏が聴こえる。 父の大麻仲間の演奏だろうか。

          勾留中に亡くなって15年が経過していた

          さくらフレグランス

          ぼくが庭園の花壇で除草作業をしていると、白髪で白シャツとジーンズ姿の品のある男性が「こんにちは」と声をかけてくれた。新しく就任した取締役だった。以前はフランスで活躍されていたそうだ。                 画像は今は亡きT氏がプレゼントしてくれたストラップのパーツである。研修生だったぼくを社員に引き上げてくれた。また、香りの世界を魅せてくれた方っだ。                                 T氏はどんな想いでさくらフレグランスを制作したの

          さくらフレグランス

          初釜

          お金と教養の無い家庭で育った僕は 自身の立ち振舞いを整えたく茶道教室に通っている。 今日は、二度目の初釜を迎えた。 掛軸には『洗心』と書かれている。 先生からは 「心のけがれを洗い清め、新たな1年を過ごしましょう」 とお言葉をいただいが 僕のけがれを洗う水など、どこにあるのだろうか。 1月15日は、小正月 そのことすら知らなかった。 「お茶杓に御名を」と正客、 「左義長でございます」と亭主。 無知な下民な僕にも 先生はとても丁寧に稽古してくれる。 日本文化を極められた方

          久しぶりの読書

          いまさらと思われるかもしれないがこの本である。 ぼくの部屋には未来に読みたい本が山積みにされている。 その中の一冊だ。 この本にあったようにクスノキが 血縁のアカシックレコードだったとするならば 祖父と父は何を残しただろうか。 そんな想像をしながら寝てしまった。 朝 目が覚めると 寂しさと愛情が交互に湧き上がり 涙していた。 曾祖父「おまえの父親はいつも家にいないな」 父「…」 ぼく「どうしてそんなになるまで酒を飲むんだよ!」 父「ここにいる為だ」 祖父が分家した理

          久しぶりの読書

          父のギター

          今日は雨に濡れながら仕事をした 効率が悪く余計にむきになった。 帰り道、ディスプレイされているギターが目に留まった ぼくは楽器のことがよくわからない。 酒に酔った父が庭でギターを片手に何やら歌っている 「毒の霧を浴びた〜野菜が〜〜」 ふと隣の畑を見ると、農家のおじさんが農薬を散布していた。 そこに宛てた歌だったがおすそ分けでいだだけば食しているし 農家のおじさんに聴こえるか聴こえないかの大きさの声で歌う父は とても気の小さい人だと思った。 そんな日ばかりでも無くその時の気分

          父のギター

          Summertime

          朝起きてテレビをつけると 大女優が紫やピンク色の花の隣で喋っている。 ぼくは髪を刈り上げたばかりだったので 大女優の髪型に憧れた 女優だけでなくライブでも活躍しているらしい。 あっ この曲知ってる bamboo house に置いてあったLPに入っていた。 ぼくが生まれる前の曲だ Summertime Summertime, time, time Child, the living’s easy Fish are jumping out And the cotton,

          夏のちょんぼ

          ぴちょんぴちょんからビュービューと音が変わり目が覚めた。 カーテンが行ったり来たりしている。 膝の裏側と首元がベタベタするので ぼくは伸びかけた髪を持ち上げて汗を拭った。 その手で髪を縛ってみると涼しいが似合わない 今度の休みにやっぱり切りに行こうと思う。 祖母は別のところに住んでいて週末だけ自分の建てた家に帰ってきて 「まったく、みっともないったらありゃしない。切ればいいのに」 いらいらと何度も父にそう言った。 長いときは肩甲骨よりずっと下くらいあったと思う。 田舎でロン

          夏のちょんぼ

          裸電球

          ぼくは飲みたくもないアイスカフェオレをオーダーし 小さな丸テーブルとグレーのクッション付きの椅子に座った。 会社にはぼくのデスクが無い あちらこちらのカフェに行きカフェオレ一杯分の場所を買う。 ふと見上げると裸電球がいくつもぶら下がっていた。 bamboo house がもうボロボロになった頃 ぼくは誰もいない部屋にそおっと足をふみ入れてみた。 部屋はゴミ屋敷のように散らかっていてほのかに煙の匂いがする。 5歩くらい進むと目の前にお弁当箱くらいの大きさのタッパーがあり 持ち