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あの病院へ

朝からしとしとと雨が降っている。

ぼくは、母と待ち合わせした
整形外科まで来たが、姿が見えない。
「山田さん、診察終わり会計済みですよ」
事務の人が教えてくれた。
「すれ違ったな、仕方ない帰るか」

車に戻るとつま先が湿っていて気持ち悪い。
その足で、アクセルを踏み4分後、非通知の着信があった。
「何処にいますか〜?私は、1階の入院手続のところにいます」
留守電を聞いたぼくは、もとの駐車場に戻った。

待合席でショルダーバッグを抱えて
ちょこんと座っている母をようやく発見した。
「先生に、入院手続き早くしておいて下さいって言われてね。
説明聞いたけどよくわからないから、あんたにも聞いてほしくて呼んだのよ」
「わかったよ、行こう」
入院手続きカウンターの方は、親切に2度目の案内をしてくれた。
書類は10枚近くあるが、記入見本も付属されていてわかりやすい。
母はもう、これが理解出来ないのか…

父と殴り合いの喧嘩をしていた母が老いていく。
15年前、勾留中に倒れた父が最後に運ばれた場所で
「お願いです。新聞には出さないで下さい。どうかお願いします」
刑事に頼み込んだ事を彼女は憶えているだろうか。

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