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お盆の時の話

「今年は買わなくても畑の鬼灯でいいね」
母が趣味で作っている作物は形は整っていないが
無農薬でとても愛らしいカタチをしていた。
「最近ぼくは、自閉症の人と一緒に仕事してて、
彼女を見ていると、もしかしたら父さんも自閉症だったんじゃないかなぁ
と思ったりするんだよね」

母は茄子で馬を作り始めた。
「あの頃はね、生きるのが精一杯でお父さんにはいつもイライラしていたよ。
なんせ働かなかったからね」
「ぼくもイライラしていたよ、当時は。ふとお婆ちゃんの言葉を思い出したんだ。『わたしにはどうにもできないんだよ』そう言ってたよ」
その言葉の意味が今になってわかった気がしていた。

母は茄子で馬を作っているが足の部分が上手く刺さらないでいる。
「私は、お婆ちゃんからそんな話聞いた事ないね」
「お婆ちゃん、お父さんが自閉症だった分かってたんじゃないかな?」
生活費が枯渇した時は、いつもお婆ちゃんが援助してくれていた。
ぼくの学費もだった。

茄子の馬の足は片方の前足がだけ地面に着かないでいる。
「あの人はただのアル中だよ、お酒だけじゃなかったけどね」
「仮に仮にね。自閉症だったとしたら、母さんとぼくはあんなにイライラした生活送らなくてもよかったんじゃないかな。
ユイちゃんを見ているといろいろ考えさせられるよ」

父の遺影がぼくらの会話を眺めていた。



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