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これからの日本にインドは重要なことがよくわかる。インド入門に最適!『日本人とインド人』

  日本人ビジネスマンに、インドの可能性とインド社会についてわかりやすく説明したわかりやすい入門書です。著者は、インドのITビジネスの伝道師的な知識人で、グローバルな視座からインド社会の良さと課題、インド経済の可能性について合理的に語っています。素晴らしい内容なので是非、読んでほしいです。

 実は僕自身は、10年位前までインドには全く関心を持っていませんでした。音楽プロデューサーとして狙う市場ではなかったからです。エンターテインメントの分野だと、独自の文化と巨大な市場を持つインドは「クールジャパン不毛の地」という印象でした。データ的な裏付けがあったわけではありませんですが、世界中の都市で行わている、アニメやゲームのキャラクターを模するコスプレ大会を中心として日本カルチャーイベントがインドからだけは存在が聞こえてきませんでした。ボリウッドと言われる映画界が独自のフォーマットを持っているのが象徴的で、ポップカルチャーの位相が違うという印象でした。

 しかし、ITサービスは国境の障壁を超えていきます。情報が流通することで世界中のカルチャー、コンテンツが並列に楽しめる時代になっていますから、インド市場にも可能性はでてくるのでしょう。

 そもそも、これからの日本の経済を考えた時には、インドは非常に重要です。人口は中国を抜いて世界一位になると言われています。GDPもアメリカ、中国と肩を並べるところまで成長することが予想されています。民主主義国家で、英語をしゃべる国民が多く、経済成長と比例するように、ITサービスの分野を皮切りに日本との距離も近くなっていくでしょう。

 日本事情にも詳しい著者は、わかりやすい引用、比較をしながら説明してくれるので、日本人にもわかりやすいです。

一九九一年からの経済改革はインドにとっては明治維新のようなものでした。輸入関税の引き下げ、産業ライセンス制度の撤廃、市場の規制緩和、税の引き下げ、および外国投資の増加、国営企業の民営化などです。(中略)                   一人当たりGDPの年間成長率は、経済改革後約三〇年間で、マイナス一パーセントから現在の六パーセントに加速、一〇年で平均収入が二倍になるわけです。特に政府による規制が緩和されたサービス部門の通信、保険、資産管理、情報技術などの分野は成長しました。

 サービス業、情報関連産業が伸びたというのがインドの経済成長のポイントなんですね。

開放経済後、インドにはニューマネーがいくつも生まれた。そして、インドは夜に成長した。経済改革の後、特に成長したのがITサービス、つまり、アメリカの消費者に対するコールセンター業、そして、ソフトの開発請負業です。インド人のうち一二パーセントは英語を不自由なく話すことができます。しかも、毎日、英語を使って生活しています。仮に人口の一二パーセントだとしても、母数が約一三億ですから、実に一億数千万人が英語を母国語のように話すことができるわけです。こうした人たちがいたためにまずコールセンターが立ち上がりました。そして、次はソフトの開発です。

 コールセンター請負〜ソフト開発請負という分野から、自国の中間層の市場が成立したというのが興味深いです。

日本が戦後、経済成長したきっかけが朝鮮戦争による特需だとしたら、インド経済が伸張するきっかけはY2Kでした。Y2Kとは一九九九年から二〇〇〇年に変わる際に、コンピュータが誤作動するのではないか、とされた問題です。それに対して、データをアップデートしなければならないというとてつもない需要が生まれたのです。

 朝鮮戦争と2000年問題の対比は今まで考えたこともない視点でした。国際情勢と経済成長には強い関連性があるんですね。

IT産業では規制も役人の口出しもわいろの要求もなかったから、急速に成長したのです。そして、この産業に入ってきたのは若い人と特権的なカーストに属さない人でした。カーストの縛りがないIT産業は、アウトカーストの人たちにとっては魅力だったのです。

 この指摘は興味深いですね。役人が口出しできない分野は成長するというのは、日本でも意識するべきポイントでしょう。

 本書の中では、日本の法人登記の法務局の時代遅れぶりも指摘されています。デジタル庁の巧拙が日本の経済の未来を決めるのだろうなと、残念なことですが、もし失敗したら僕自身も仕事の拠点は日本国外に移すことになるんだろうなと思っています。

 文化的側面の分析も素晴らしいです。

両国が似ているところとしてケストラーがあげたのは、同族まで広がる家族および社会階級を基礎とし、似たような社会構造を持っていること。例えばどちらの社会でも年長者は若者からの尊敬を要求する。男性は女性よりも上位にあり、生徒は教師を敬うことが必要とされる。個性よりも順応性が評価され、物事を決める場合、合理的経験的な判断よりも、直感を大切にする。

 日本の中だけを見ていると、マイナス面ばかりを捉えそうなところも世界視野で見るとプラスに捉えることができるんですね。

 中国はインドよりも20年先を行ってます。
 その分、インドは成長に時間をかけます。インドは賢い象です。日本や韓国、台湾のようなアジアの虎でもない。中国のような帝国でもない。中国はスピードを求めたため、独自の文化がなくなりつつあります。インドはゆっくりと成長すればいい。独自の文化を守りながら高い成長を成し遂げれば良い。急がばまわれと言うでしょう。インド人の時間の感覚は長いのです。

 この視点も凄いなと思いました。日本の価値は、1500年以上続いている歴史であることを忘れてはいけないなと思います。

シンガポールの元首相で、叡智の人、リー・クアンユーはこう言っています。「21世紀の世界で、中国の成長は世界の脅威になる。インドの成長は世界の脅威にならない」これは軍事的な意味も含めて、中国の脅威を指摘したものです。インドはいくら強大になっても進出、侵略の国になりません。多様性があるし、また独立も軍事力で勝ち取ったわけではありません。非暴力はインドと言う国家の体質ともいえます。
 良質なサービス業を起業することで世界の人々の役にたつ。それがインドのこれからです。日本もまたそちらへ向かっていくことです。

 日本の政財界、官僚の方々に読んでいただきたい内容です。日本の道筋が描かれ、それがインドと軌が同じであると説かれています。

どちらの国の人間もアンチ中国と言うこと。日本人もそうでしょうが、インド人も中国人が嫌いなわけではありません。しかしどちらの国民も中国政府の侵略主義に警戒感を抱いています。インドは中国文化、中国人に対してリスペクトしています。(中略)中国企業が政府を後ろ盾にして、経済的にも全て握ってしまおうと言うことにも反対しています。

 中国へのスタンスは僕自身も全く同じで、強く共感しました。

インド人が日本人のどこを評価しているかと言えば、一言で言うと、ヒューマンタッチなコミニケーションです。理屈だけではなく情緒を重視する姿勢が、インド人と同じだからです。そして信頼を築いて仕事をしていこうと言う姿勢も良い。日本人は信頼しあって相手と仕事をしたいと言う気持ちがあると思います。そこはインド人にとっては重要なことなのです。
 人生で最も大事な事は仕事ではなく、精神的な充足感だともわかっています。これは日本人、インド人に共通することです。公共の秩序を重んじる気持ちがあり、話やハーモニーを大切にする。独自の伝統文化を忘れない。目上の人を尊敬する社会であること。しかし実力主義が徹底していること。
 インド人は日本人がこういった気持ちを持ち行動していることをよく知っています。ですから、インドに来てもらいたい。一緒に行うプロジェクトを増やしたいと思っています。

 見事な分析です。日本人向けにインドの印象を良くしたいという著者のポジショントークも多少はあるのでしょうが、ここまで言われると、インドで仕事がやりたくなります。

 個人的体験では、Flutinという音楽サービスに日本のCVCが投資したことで、ファウンダーのインド人起業家と定期的に意見交換する機会を持っています。僕自身、インドのユーザーと、ITスタートアップに強い興味を持つようになりました。その国でもそうですが、その国の友達を創るというのが相互理解の一歩ですよね?
 外国への理解という意味では、その国に行って、街を歩き、食事をするというのがもう一つの基本です、コロナ騒動が落ち着いたら、インドを訪れないなと強く思っています。

 日本と日本人の未来を考える時に、インドを外してはいけないなと強く思う契機をくれた本でした。あらゆる職業の皆さんに強く推薦します。

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