日本政府がエンタメを日本の基幹産業にすると本気で動き始めました。その背景とこれから起きること。
昨年の春頃から、霞が関・永田町に行く頻度が増えました。経済産業省のコンテンツ産業課は「デジタルコンテンツ白書」の編集委員をしていた頃から、20年以上のお付き合いがあるのですが、最近は、知財戦略本部、内閣府など、もう少し広範囲の政策立案をしている部署の方々からご相談をされるケースが増えてきました。
日本政府全体の意志として、
「コンテンツ産業を日本の基幹産業に」
「個人のクリエイター支援のために適切な収益分配が回る仕組みが必要」
「エンタメの各ジャンルや異業種と連携した横串を官民連携で」
といった方向で政府の各部署が動き始めていることが感じられました。
ずっと水面下の動きだったのですが、ついにメディアに情報が出たのが、4月17日の「新しい資本主義実現会議」に関するこのニュースです。
新しい資本主義実現会議で語られたコンテンツ輸出
「日本のコンテンツ売上は鉄鋼、半導体に匹敵」というのは、キャッチーなコピーで、事務局の皆さんが流石だなと思いました。
この資料を見てもらうと、本noteの読者は、音楽部分は拙著『最新音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本』がベースになっていることがご理解いただけるとかと思います。実際、霞が関で打ち合わせをする際に、自分の本が付箋を貼られて読まれているのも見るとちょっとした感慨がありました。既存の音楽業界から反発があることも覚悟しながら、結構踏み込んだことを書いてしまったのですが、書いてよかったなとしみじみ思っています。
公取委もエンタメ業界に注目
同時にでてきたこのニュースも「個人クリエイター支援」という文脈があります。
前述した講師を務めた自民党の委員会にも公取委の方はいらしていました。ジャニーズ事務所の性加害問題で大手芸能事務所のやり方が問題視されましたが、芸能事務所の力の源泉は、地上波TV局に対する影響力です。ヒットコンテンツに対するTVの影響力は、以前は絶大でしたが、近年は大きく下がっています。特に、音楽ではヒット曲を生み出す震源地としての価値は低くなっています。 個別の事案に問題は残るにしても、改革するべき生態系という観点で見なくてはいけません。
自民党の委員会で話した中で、公取委に関連する部分は3点です。まず、デジタル時代に合致しない商習慣の見直しが2点。
1:レコード会社の専属実演家契約のテンプレートがCD時代ベースのままでアフェアであること。
このことはnoteでも取り上げてきました。個々の契約は、それぞれ判断するべきことなのですが、業界標準的なテンプレートがデジタル対応できていないこと、レコード会社とアーティスト個人では、情報の不均等があることは事実なの業界外からの視野も含めて、フェアなガイドラインを作らないと音楽家個人が守られないので、行政側でも認識をお願いしますと伝えました。
2:音楽出版権の日本独自の慣習がグローバル化の中で、日本人クリエイターへの逆差別になっていること
音楽出版権における、作詞作曲家にとって死活問題です。「クリエイター支援」というのならば避けて通れない問題です。長年積み上げてきた、音楽出版社側が有利な日本独自の商習慣を業界内だけで変えていくのは非常に難しいものです。
3:サブスクの月額料金が日本だけ半額程度に安くなってしまっていること
もう一つ、マクロ的に大切なのは、日本のストリーミングの月額料金が世界機銃から安すぎるという問題です。円安もあって、980円というのは欧米基準の半額程度になってしまっているので、せめて1500円位にはするべきです。この件は、鈴木貴歩さんnoteが詳しいです。
「日本だけサブスク安すぎ問題」を権利者側がまとまって事業者側と話すと、独禁法違反になりかねないので、そうならない国際標準の視点で改善したいのですというお話は、可能なニュアンスがありましたので、是非、今年中にはやりたいですね。権利者側と事業者側が、非公式にでも会合を持つ、そのための「行事役」を行政が務めれくれれば、前に進む気がします。
拙著ではそうなった経緯も含めて書いています。
次の5カ年計画立案中の知財戦略本部
知財戦略本部の委員会でも、新しい資本主義実現会議と呼応しているような動きが見られます。
「クールジャパン」のこれまでを総括して、反省を活かして新たな計画を立てるという取り組みにご協力しています。先日最後の会合が終わって、7月頃に発表されると聞いています。
どこまで僕の意見を取り入れていただけるかはわかりませんが、ともかく前には進んでいる、と前向きに捉えています。
JETROコンテンツ専門官への期待
さて、霞が関の皆さんのお話を総合すると、コンテンツの海外輸出のサポートはJETROの機能強化で行うことになるようです。
製造業などと同等に支援する体制を作っていこうと言う意志なのでしょう。既存のスタッフでは対応できないので、「コンテンツ専門」の部署をつくって、新たな任用、採用を行っていくのだと思います。
JETROは全世界に拠点があり、特に発展途上国(最近はグローバルサウスという言葉で捉えることが多くなりましたね)研究を専門とする組織ですから、これから日本のエンタメ業界が取組むべきな、経済中間層が生まれ始めている経済新興国への展開には合致しています。ベンチでの情報収集、パートナー探しの部分で、言語の壁をクリアーすること含めて、サポートしてもらえるのは心強いですね。
僕は最近あった、霞が関の方々からJETROについて意見を求められるたびに、「実効性の仕組みにしていきましょう。コンテンツ担当の方の採用方針、人事評価基準などについて、意見を言わせてください。」と前向きにかつ、「アリバイ作りのお役所仕事」にならないように釘を刺す発言をするようにしています。僕の経験で少しでもお役に立てればと思っています。
先日の記者会見は、政府方針開陳のスタートです。これから公式な表明、正式な文書に落とし込まれ、来年度からはその方針を反映した、予算、人事が行われていきます。
「コンテンツを日本の基幹産業に」「インバウンドでもエンタメ活用」「個人のクリエイターに適切な収益還元がされる生態系の構築」などテーマは決まるってきています。
僕は、「文化・クリエイティブ産業」という領域設定で、「日本ブランド」を広め、高めることで、各分野が連携して、稼いでいく関係性、仕組みをつくることが大切と思っています。特に日本のエンタメは、商材ごとに業界がタコツボ的に進化してきました。それを地上波TVというマスメディアで括っていくみたいなやりかただった訳ですが、「デジタルとグローバル」の時代にはその仕組の再構築が不可避です。各業界は、村的に成り立っていますが、その村の「脱構築」をしないと成長が望めません。海外消費者の目線を持って、「日本の文化を高く売って儲ける」ために連携していくことが本当に重要です。そのために政府も腰を上げようとしています。
皆さんそれぞれの立場で、注目、活用、時には批判もして、盛り上げていきましょう。このテーマはnoteで情報発信を続けますので、コメントなど大歓迎です。
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