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MPA研究会で話しちゃった「日本の音楽出版ビジネス(著作権)の矛盾と課題」

 昨年の12月のことですが、日本音楽出版社協会(MPA)の「ビジネスモデル研究会」で講師を依頼を受けました。僕のPodcastを聞いてくれている方がいたそうです。嬉しくなって、いつもの調子で「本当のこと」を喋ってきちゃいました。
 僕も一応、音楽業界人の端くれで、音制連での理事経験(8年間!)もあるので、お行儀よくしなきゃいけない時と場合はわかっているつもりです。MPA新会長の稲葉さんは友達だし、余計なことを言い過ぎないようにしようと最初は思っていたのですが、根は正直者なので、準備会とかで話しているうちに、これまで音楽業界内ではハバカられるかもしれないことを喋ってしまいました。1ヶ月経って、誰からもおトガメの連絡もないので、業界内の変化と勝手に受け止めて、その時の内容をnoteでも公開しようと思います。

 こんなアジェンダでお話をしました。デジタルコンテンツ白書から引用した一般的な内容もありますが、本稿では、「いま業界が抱えている矛盾や課題」というところに絞ってまとめていこうと思います。


<AGENDA>
 1.急速なV字回復を遂げる世界(日本以外の各国)の録音原盤市場
 2.コロナ禍のダメージによる著作権徴収額はの影響は2〜3割減
 3.コロナが浮き彫りにした日本の矛盾と課題
  ・レーベルの専属解放と契約条件の矛盾
  ・洋楽曲のシンクロが許諾権のYouTubeでの矛盾。
  ・業界全体のDXの遅れ
 4.音楽出版社の課題 
 
  ・著作権契約書や共同出版契約書を電子化して作家との関係性も可視化
  ・音楽ビジネスやメディアの構造変化で従来の業界慣習が成り立たない
  ・作家の育成、楽曲開発における貢献は?

背景:デジタル化とグローバル化という環境変化

 背景にあるのは、環境変化に伴う音楽ビジネス(録音原盤市場)の仕組みの変化です。 
 パッケージ(CD)ビジネスにおいては、CDの製造をして、流通をさせて、専門店で売るという仕組みで、いわばレコード会社がビジネスのプラットフォームを提供していて、音楽ビジネスの幹の役割でした。デジタル配信が音楽消費の中心になったことで、幹の役割は、Spotify、Apple、Googleといったデジタル配信事業者に替わっています。レコード会社は原盤を配信事業者に提供する窓口に役割が縮小しています。マスメディアを中心としたタイアップやTVCM,ラジオ局との連携といったレコード会社の宣伝手法を影響力が著しく下がり、SNSなどのデジタルメディアが主役になり、アーティスト個人の情報発信の方が重要、有益になっています。
 幹(プラットフォーマー)がデジタル配信事業者に替わったことで、音樂市場はグローバルになりました。Spofityで配信して、YouTubeやTiktokで宣伝すれば、世界中のユーザーと自動的に繋がります。
 過去の仕組みを前提に作られた業界慣習が無効になっているのですが、レコード会社の契約の基本形は変らないままで矛盾がどんどん大きくなっているのです。

矛盾1)レーベルの録音専属契約の公正さ

 従来のレコードビジネスは、「録音専属実演家契約」をベースにしていました、あらゆる実演(歌唱演奏など全て)を録音物にする際の契約を独占的に一つのレーベルに提供するのが原則になっています。前述のように以前はレコード会社がビジネスの幹としてアーティスト活動のサポートを行い、契約金、専属料、育成金、コンサート援助金などの名目で多額の支払いをしていましたので整合性のある契約でした。いまや契約金が払われるケースは稀になり、原盤制作(録音の費用)も少額で済み、デジタルPRについてほとんど貢献できなくなってい待っています。一方で、オンラインの配信などもふくめて「すべての録音録画物」の独占という原則だけは変らず、著しく公正さを欠く契約になってしまっています。
 全くの私見ですが、おそらく日本で現存している専属契約の過半は、裁判所に判断を求めたら、契約書に捺印されていても「経済的合理性と公正さに欠くので無効」となり得るものだと思います。
 レコード会社が主役で、音楽出版社が黒子のような存在という役割分担は過去のものなので、レコード会社に任せずに、出版社が主体的に音楽ビジネス生態系の作り直しに取り組んでいただきたいとお願いしました。

矛盾2)海外と比較した音楽出版権の日本の特殊性

 日本の音楽出版権は、アーティスト側(事務所、レーベル)がコントロールします。欧米は作家が出版権のイニシアティブを持ち、作家にアドバンス(前払い)をした音楽出版社や、作家自身の出版社が権利を持つという慣習です。日本の音楽業界で育った僕は、リスクを持ってアーティスト育成を行う側が出版権を持つことに違和感はないのですが、自作自演ではないアーティストの場合は、海外作曲家と日本人作曲家で「逆差別」が生じてしまっている問題があります。海外楽曲も増え、作曲家の活動範囲もグローバル化していく中で、両者の業界慣習をどうバランス取るのか?大きな課題です。
 もし海外の出版社から参加している作曲家が日本国籍でペンネームが「ジェームス」だったら?中国のようにパスポートチェックのない日本だと、外国人扱いされるかもしれません。東京に住んでいる日本人かもしれません。
なんという矛盾でしょうか?

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矛盾3)搾取される作曲家?作家事務所の存在

 音楽出版社の主たる役割は作曲家の育成と楽曲の開発です。今の音楽出版社業界の作曲家育成は十分ですか?と投げかけました。おそらく十分ではないから「作家事務所」の役割が大きくなったのでしょう。多くの業界関係者は知らないのですが、音楽出版社の取り分は40〜50%が大勢となっています。僕も山口ゼミで作曲家育成を始めるまで知らずにいて、驚きました。音制連的な感覚は2〜3割です。もちろん個別の私契約で、事務所の貢献度が高いのであれば料率が高いことは問題ありません。僕の知る限りコンペ情報を流してデモを送る以外に付加価値は付けずに採用楽曲の印税分を半分取るような作家事務所が多数存在しています。まさに旧いブラックボックス型のビジネスモデルですね。
 前掲の図を見て下さい。前述の国内海外の慣習の違いもあって、採用された場合に受け取る印税が、実質的に3倍になってしまいます。
 外国人=45%=25%(作家取り分)+20%(音楽出版社分の作曲部分)
 日本人=15%(作家取り分から事務所フィーが4割だった場合)

解決策:クリエイターファーストの実現に向けて

 搾取されているところに、才能は集まりません。この構造を解消しなけば日本の音楽の未来は暗いと僕は強い危機感を持っています。
 この日にお話していたのは、稲葉会長が取り組んでいる著作権契約書の電子契約クラウド化に際して、作家と出版社の関係性を濃くする機会にしてくださいということです。従来だと、リリースが決まってから契約書が郵便で届き、捺印して返送して、出版社と作曲家にそれ以外のコミュニケーションがあることは稀になってしまっています。直接、オンラインででやり取りできるようになれば、今ある課題を音楽出版社とソングライターが共有することが容易になるはずです。長年続いた慣習をいきなり全て変えることは難しいかもしれませんが、まずは問題点を認識することが必要です。
 例えばレコード会社が行っている「コンペ」をMPAが取りまとめる仕組みにすることを提案しました。多くの作家が事務所に頼るのはコンペ情報が入手できないからです。機密性が高い情報がコンペシートには含まれるので、オープンにはできません。ソングライターに正当な報酬が支払われるように音楽出版社が努力できることはたくさんあるように僕には見えます。

 レコード会社は録音専属契約書のドラフトのテンプレートを全面的に修正する必要があります。これは音楽出版社だけではなく、音楽業界全体で取り組むべきでしょう。

 既に従来の業界慣習、相場観を前提にした契約条件は矛盾が噴出しています。新しいアーティストは、旧い慣習をウノミにせずに、本質的な構造を見ていきましょう。困ったいる人は連絡下さい。僕は弁護士資格はないので交渉代行はできませんが、「登場人物の手口」はよく知っていますので、ロジックという「武器」、交渉術の知恵を授けることはできます。日本の音楽会が正常化に向かうように無償で支援します。

 日本の音楽業界の慣習には、素晴らしいところもたくさんあります。良さを残すためにも、無効になった無駄や矛盾を削除する必要があるのです。

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