まだ「メジャーデビュー」したいアーティストへ〜録音専属実演家契約という害毒〜
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まだ「メジャーデビュー」したいアーティストへ〜録音専属実演家契約という害毒〜

山口哲一:エンターテック✕起業

 いまだに普通に使われている「メジャー・デビュー」という言葉、アーティストを志す人は、そろそろ言葉の真の意味を理解したほうが良いと思います。
 以前から音楽業界的には「メジャー・デビュー」という言葉は、曖昧にそして、恣意的に使われてきました。大手レーベルと契約していることを伏せて、敢えてインディーズレーベルからリリースするみたいな作戦もありました。(僕自身も事務所社長としてやったことありますw)

少なくともバイトは辞められた契約条件

 15年くらい前までの「メジャーデビュー」時にアーティストに提示される専属実演家契約時の条件は、おおむねこんな内容でした。

・専属料(アーティスト育成金等):月額10万円〜20万円(バンドの場合は一人あたり)2〜3年間
・アーティスト印税:1%
・原盤制作費:1曲100〜150万円(事務所やレーベルが予算管理)
年間10曲以上

 専属料は、契約金や印税の不返還アドバンス(印税で相殺されていく返済義務のない前払い)など、形態は様々でしたが、要するに「バイト辞めて音楽に専念できる」環境が手に入りました。

 今は、大きなファンベースを持っている(即、売上が望める)ケースを除けば、このような「将来性に期待してレーベルがアーティストに投資をするスタイルの契約」は行われていないと思います。
 15年位前までは、CD販売というビジネスモデルのいわばプラットフォーマーであったレコード会社が、アーティストに対してリスクを取っていましたが、音楽ビジネスを取り巻く環境が変化して、そういう余裕はなくなりました。その事自体は、時代の変化として受け入れればよいのですが、問題はレコード会社の「専属実演家契約」のテンプレートが変わっていないことです。

 もともと、アーティスト育成金などの契約は、本契約である専属契約とは別紙でサブペーパーのような形で行われていた。サブペーパーによるアーテイストの投資がほぼなくなったのに、本契約の条件の基本線を変えないという不合理な条件がまかり通っている訳です。
 例を挙げて説明します。

アーティスト印税は1%!?

 アルバムが3000円だとして、ジャケット控除(ジャケット制作費がかかるからその分減らすね10〜15%)、返品控除(CDって返品があるからその分減らすね10〜20%)があるので、概ね3000円✕90%✕80%✕1%=21円が1枚あたりの印税になります。1万枚売れて21万円、10万枚だと210万円ですね。
 低すぎる感じるでしょうが、これを補う「サイドペーパー」が以前は存在し、コンサートやファンクラブなどの収益も含めて、成功すれば手に入るという構造だった訳です。
 ポイントはデジタル配信に関する売上もこの料率をベースに提示をする場合が多いことです。「デジタル分は+3%乗せますね」みたいな会話が今だに行われているようです。

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デジタルはCDとは別の計算式で料率を交渉すべし

 条件としてフェアなのは、配信に関しては、そもそもの計算式のフォーマットを変えることです。配信事業者から受け取った金額に対して(窓口手数料を設定した上で)どういう割合で分けるかという交渉が、ビジネスの構造として真っ当な話です。僕が業界で見聞きする限り、レコード協会加盟社(いわゆるレコード会社)で、この議論のテーブルには乗るところは、まだほとんど無いようです。原盤制作費の金額が著しく下がった今、原盤権という概念も意味が変わってきています。アーティスト自身が音楽制作はコントロールできるケースが増えているでしょう。
 現状を考えると、デジタル収益については、レコード会社が取る「窓口手数料」は何%か、その上で残りをどう分けるか?折半なのか?6対4なのかみたいな議論にしていくべきです。
 仮に、窓口手数料2割で、利益は折半という契約だとこのようになります。

 配信売上  80%(窓口手数料2割) 1/2= 40%

 1%と40%が大きな違いであることは誰でもわかりますね?そして、デジタルについては後者が明らかにフェアな考え方です。

 そもそも、配信に関する売上に関して、レコード会社が貢献してくれていることは何なのか?について冷静に考えて、その料率を考えてください。そして、今後は音源の売上はデジタルがメインです。

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2015年に作った表を再掲しておきます。基本は変わっていませんが、著作権使用料は世界の標準は12%から15%になってきています。日本でも8%くらいまで上がっていますね。

アーティストにとってのレコード会社の役割

 以前、「メジャーデビュー」するとアーティストが得ていたベネフィットは、前述の契約金、前渡金的なお金以外にもたくさんありました。

1)CDを確実に発売日にCD店に届けて、棚を確保する。売れ行きを見ながら、確実に追加注文を取っていく

2)メディア(TV局、ラジオ局、音楽雑誌)に担当者がいて、ラジオでのオンエアーを依頼できる。TV番組やCMのタイアップを獲得することがある

3)A&Rがクリエイティブ面のブラッシュアップをしてくれる

 これらの価値が相対的に下がっていることは、誰の目にも明らかだと思います。ちなみに日本のレコード会社には、デジタルマーケティングや海外市場での展開にノウハウを持つスタッフはほとんどいません。
 音楽市場やビジネススキームやユーザーへの情報の伝え方が変化している中で、レコード会社の持っているスキルが陳腐化しているのです。

メジャーアーティストというブランド

 半分皮肉も込めてになってしまいますが、僕が価値として残っているなと思うのは、「メジャーデビューしました」「メジャーアーティストです」と、世の中で言えるというブランド価値です。
 地方の親御さんが親戚に子供の活躍を伝える際には、名前を聞いたことがあるレコード会社から「メジャーデビュー」したと言えば、喜んでくださるでしょう。テレビで曲が流れることも同様です。金銭的メリットが非常に小さい今、音楽家にとって、メジャーデビューの最大の価値は「親孝行」ではないでしょうか?「彼女/彼氏孝行」の場合もあるかもしれませんね。

 そのために、どこまで利益率が下がることや、契約金がないことを許容するのかというきちんとした判断をして契約してもらいたいです。

 Tiktokなどで自然発生的な大ヒットが出た後に、既存の事務所やレーベルと契約するアーティストの状況などの噂を聞くと、「なんて日本には親孝行なアーティストが多いのだろう!?」と思います。自分の取り分が1/5になっても(3000万円だとしたら600万円!)、「メジャーデビュー」というブランドを選んでいるようです。

専属実演家契約の拘束の範囲

 既存のレコード会社との専属契約を結ぶ際に、アーティストにとっての最大のリスクは、「実演」の範囲が非常に広いことです。コンサートのオンライン配信などを含めて、アーティストとしての作詞作曲以外のほとんどの活動をレコード会社は「実演」と定義し、専属契約をすると、アーティストは自由にできなくなってしまいます。デジタルサービス上で行うことは、全て「専属実演家」の契約解放が必要になるので、以前より拘束範囲はむしろ広くなっています。

 これはお金の取り分の料率の問題だけでなく、「やりたい活動が自由にできない」というアーティストの生命線に関わる問題です。
 以前は、Mステに出て、CDアルバムを売って、ホールコンサートツアーをやって、、、、とアーティストの成功には、基本的なパターンが有りました。その「席の取り合い」みたいな側面が強かったので、専属実演家契約をしてレコード会社と一緒に頑張ることに、合理性があったと思います。
 今は、デジタルが主戦場の時代です。前述した様ににデジタルサービスやSNS/UGMについては、レコード会社は素人同然です。戦略的に優れていることは稀です。活動範囲や具体のやり方、タイミングをアーティスト自身がイニシアティブを取れないのは死活問題です。
 レコード会社から契約提案があったら、「やったー!メジャーデビューだー!!」と喜ぶのではなく、自分の足元と未来をしっかりみて、考えてほしいと思っています。

未来を見つめた僕なりのソリューション

 音楽事務所社長兼音楽プロデューサーとしてキャリアを重ねた僕としては、音楽ビジネスの構造変化に対して、若い世代にソリューションを示す責任があると感じています。

 開店休業で僕の個人会社になっていた音楽事務所バグコーポレーションで、自分でレーベルや事務所を始めたい未経験者や、セルフマネージメントを志すアーティスト向けのメンタリングサービスを受け付けることにしました。興味のある方はお問合せください。音楽ビジネスを理解していて交渉が上手な弁護士(日本には少ないです)も紹介しますし、既存の業界を活用するための「地図」も渡します。

 今の日本の音楽界の最大のペインは、デジタルマーケティング人材とノウハウの欠如です。音楽が好きで、デジタルマーケティングスキルを持った「音楽マーケター」の育成プログラムを始めています。講座中にアーティストと実践をやるという内容で、現在、第二期募集中です。ここをベースにアーティストとマーケターのマッチングなども手掛けていきたいと話しています。
 今後はインディーズアーティストと音楽マーケターのセットが、音楽ビジネスの最小ユニットになるでしょう。

 世界の音楽ビジネスには、強烈な「個へのパワーシフト」が起きています。デジタル化が約6年遅れた日本にもまもなくやってくるでしょう。これは不可逆的な変化です。音楽での稼ぎ方が変わるのです。

 新しい人材育成につながる活動は、音楽マーケターだけではなく、これまでもできる限りやってきました。音楽ビジネスに興味のある人の実践的研究の場としての、ニューミドルマンコミュニティ。日本でコーライティングムーブメントを広めた作曲家育成プログラム「山口ゼミ」の卒業生によるクリエイターコミュニティCo-Writing Farmそして来春からは大阪音楽大学に新しくミュージックビジネス専攻が開講します。

 もはや「メジャーデビュー」は、一般論としてベネフィットよりもリスクの方が大きいことを知ってもらいたいです。音楽ビジネスは属人性が高いですし、成功することが最優先なので、もちろん、ハッピーな場合もあるでしょう。ただ、セルフマネージメントでやれないことは無い時代、マストに大手事務所やレーベルが必要ではない時代に、リスクを取って、専属録音家契約を、わざわざ選んでいるのだということは、これからのアーティストにしっかり認識してもらいたいですし、そのための情報発信は続けていきたいと思っています。


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起業家育成と新規事業創出のスタートアップスタジオStudioENTRE代表取締役/音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/大阪音楽大学特任教授/iU超客員教授/ブロ作曲家育成「山口ゼミ」「ニューミドルマンコミュ」主宰。著書多数