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AIがコモデティティ化する時代に「作曲家」は何をやるのか?現在位置とこれからのマインドセット、そしてSynthesizerVの可能性

  CHAT GPTの大ブームに象徴されるAIへの注目度は、学習法にブレイクスルーがあったことが原因なので、しばらくは加速することはあっても、止まることはないでしょう。


作曲家にとってのAIとは?

 現在時点を整理したいと、ミュージシャンをハッカソンに巻き込もうと一緒にハッカソンを企画していたテクノロジーの知見が強い浅田祐介さんと、AI✖️作曲をテーマにセミナーをやりました。プロ作曲家講座「山口ゼミ」の10周年記念シリーズとして、作曲家にとってのAIについて掘り下げました。イベントレポート的にまとめようと思います。

浅田祐介プロフィール:1995年にフォーライフからアーティストとしてデビュー。4枚のアルバムをリリース。
プロデューサーとして、Chara、傳田真央、Crystal Kay、玉置成美、CHEMISTRY、織田裕二、キマグレン等々、数多くのアーティストでヒット曲を送り出した日本を代表するサウンドプロデューサーの一人。
また近年はミュージシャンズxハッカソン、TECHSなどのエンターテック系イベントの企画運営や、デザイナーYUMA KOSHINOとの音楽レーベル「Blind Spot」主宰など、活動の幅を広げている。
一般社団法人JSPA(日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ)理事。

http://www.anything-goes.co.jp/creator

シンセサイザーV登場のインパクト

 タイトルにも掲げた「SynthesizerV」は音声合成アプリとして頭抜けたクオリエティを持っています。ヤマハのボーカロイドは初音ミクなどの新しいカルチャーを産み出した素晴らしい技術ですが、ポジションとしてはサブカルチャー的で、J-popのプロ作家が使うものではありませんでした。
 SynthVは登場以来、これならコンペ用のデモにも使えるという評価もあり、また自分の作品として使いたい、いわば「AIシンガー」的な使われ方をし始めています。そのきっかけは、浅田祐介のこのツイートでした。
 実は、SynthVの開発者のカンル君は、浅田祐介と僕が主宰した「ミュージシャンズハッカソン」にアメリカから参加してくれたという出逢いでした。日本のカルチャーにリスペクトがある彼は、その後、日本に住んで起業しています。そんな経緯もあって、個人的にも応援しています。厳密に言うと、 AI技術ど真ん中ではないのですが、テクノロジーが表現に与えるインパクトしては小さくありません。

作曲プロセスごとにサポートしてくれるサービス群

 英語では、韻を踏む重要性もあって、Rap Geniusが広く使われていて有名ですが、日本語作詞支援もさまざまなサービスが出ていますね。この日の話で僕が面白かったのは、浅田祐介が「二番の歌詞はChatGPTに書かせる」と言っていたことです。一番とサビができたあとに、2番の展開を考えさせるというのは上手な使い方だな感心しました。本稿のテーマにある「クリエイティブとスキルの判別」という話につながって示唆深いです。

 作曲に関しては、DAW(Digital Audio Workstation)アプリと一体化していく方向にあるようですね。
 「山口ゼミ」は日本のコーライティング・ムーブメントの震源地なのですが、これからは、コーライトメンバーの一人に必ずAIツールはいるという感じになっていくのだなと思いました。

 ミックスおよびマスタリングについては、原盤制作が、ハードディスク上の作業になっている今は、AIが得意とする領域であると言えるでしょう。「波形」を学習して傾向を探って、アウトプットをすることを素早く無限にやってくれるというのは凄いことですね。人間は「聴いて選ぶだけ」ということになっていくでしょう。

 音楽制作が、PC上で完結可能になっている今、AI技術の関与は容易になり、しかも有益な活用ができるようになっています。便利なものは使って、効率よく、良い曲作ろうね、というのがこの日の方向性でした。
 もちろん、不安や課題がないわけではありません。

従来型の著作権との整合性、特に学習データの利用権

 この日のイベントでもポイントを整理しました。僕は、AIにデープラーニングさせる学習データにまつわる部分が焦点になるなと感じています。
 画像生成において、何でもかんでもネット上にある画像を学ばせると画一的になり質が下がるという意見も出てきています。そうなる学習データの質が重要になるわけですね。才能ある一流の音楽家の作品で学ばせると精度の高いAIが出来上がるというのは想像できることですね。
 そのため、学習データに使用させない権利を主張するという流れが生まれています。
 社会的に責任を果たせる企業が適切な使用法で、レベルの高い作品を学習データにして、データ提供者に対しても何らかのベネフィットが提供されるというのが現状目指すべきところなのでしょう。問題は、僕の技術的な理解の範疇では、学習データに何を使ったかを検知することはできないので、「ズルをした」時に訴える証拠がないことです。音楽作品は、ネット上に発表されていますか、それを集めてきてAIに学ばせるは誰でも可能です。このクリエイティブな生成に関する学習データのルール設定は「AI創造生態系」のポイントですね

AIラッダイト運動は無意味だし、ダサい

 同時に、テクノロジーの発展というのは人類史的な必然ですから、必死になって遅らせても、止まることはありません。遅らせようとする側に回った人たちはその後損をします。これはストリーミングサービスの普及を遅らせようとした日本のレコード業界が、遅らせることはできたけれど、その結果として、世界で市場は成長し、日本だけ停滞したという最近の出来事でも明らかです。
 この日のイベントでは、「AIラッダイト運動」は駄目よね。ダサい音楽家にはならないようにしようという話になりました。ラッダイト運動とは、19世紀にイギリスで、労働者たちが機械の破壊をしたことです。
 最近では、ハリウッドで俳優組合と脚本家組合がストライキをしていました。この件は、アニメ会社GONZO社長の石川さんと動画で話しているので、こちらをご覧ください。
 時代の流れは止まりません。

 音楽においても、ドラムマシンが発明された時、サンプラーが広まった時、「こんなの音楽に使うものではない!」と言ったミュージシャンたちは、その後、活躍しなくなりました。新しい表現が生まれ、音楽表現もひろがっていったのが歴史的事実です。AIも同様になるでしょう。

音楽家に大切なのは、ブランドと作品が生まれてくる物語

 音楽家としての自身のスタンスとしては、浅田祐介さんは「陶芸家と大量生産品の違い」という言い方をしていました。誰が作ってもよい音楽はAIにまかせて、例えるなら、日用品としての食器と、陶芸家のサイン入りの陶器の違い。後者をやればプロの音楽家は成立すると。
 これは音楽家もブランディングが大切ということですね。その作品が生まれる背景にどんな物語があり、その作家がどんなフィロソフィーを持っているのかが問われてくるのだと思います。

 そんなことを書いていたら、こんなニュースがありました。これが今の潮流ですね。「作曲」の概念が変わっていきます。
 どんな楽曲にするかという「最初のグー」と、「最後の決定」そして作品に対して責任を取る=著作権を持つことが作曲家の役割になっていくでしょう。世界観を決めてアイデアを出すことと、AIが無限に出してくれる選択肢から選ぶのが人間の役割になります。

スキルはAIに任せて、クリエイティブに集中する

 スキルはAIに、本当にクリエイティブなことだけを人間が、というのがこれからの役割分担です。クリエイティブに専念できることを喜ぶべきでしょう。ただ気をつけたいのは、これまで人間にしかできないクリエイティブだと思っていた作業が、実はAIの方が得意だったということは次々起きていまう。「本当に人間にしかできないこと」を探し続けるというのが、表現者のポジションになるのだと思います。
 ルールや環境が変わっていくので大変ですが、面白い時代になっていますね。

 AI時代の作曲家のあり方も一緒に考えていきましょう。「山口ゼミ」は受講生募集中です。 

 AI技術で創造行為をサービスとして提供したいと考えているエンジニア、研究者、そしてこの領域で起業したい人は、是非、ディスカッションしましょう。提供できる知見、ビジネス上の付加価値は持っているつもりです。Web3とクリエイターエコノミーには日本人が世界で活躍するチャンスがあると僕は信じています。


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