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Do You Know Studio-Magic?スタジオ・ミュージシャンとアレンジャーの時代〜ドキュメンタリー音楽映画「ONKIO HAUS」

 近年、音楽ドキュメンタリー映画は、欧米の素晴らしい作品が相次いでいますが、日本からも出てきました!主役は音楽スタジオ「音響ハウス/ONKIO HAUS」。日本を代表する音楽家が沢山出演して、音楽とONKIO HAUSへの愛を語っています。
 ギタリストで作編曲家の佐橋佳幸さんが新曲を書き下ろし、稀代の演奏家とレコーディングエンジニア(飯尾芳文)と一緒に完成させていく様子を縦軸にレコーディングスタジオの持つ価値、意義、役割、思い出などが貴重な証言で綴られていきます。伝説のCM音楽プロデューサー故大森昭男さんや尊敬する先輩音楽プロデューサー牧村憲一さんのエピソードも非常に興味深く、音楽を愛し、クリエイトしてきた「ミュージックマン」が登場しています。音楽好きを自認する人には、是非是非、観ていただきたい映画です。
 ちょっとだけ時代考証っぽいことを書くと、この映画で語られる1980年代は、日本でレコード産業が大きな成長をしていった「旧き良き時代」でもあり、辣腕アレンジャーと凄腕スタジオ・ミュージシャンがプロフェッショ・ナルエンジニアと一緒に素晴らしい作品をたくさん残した時代でもあります。最近、「シティポップ」が海外で人気になっていると言われていますが、シティポップは(当時は、呼び方としてはそれほど一般的ではありませんでしたが)まさに、スタジオ・ミュージシャンとアレンジャーが創った音楽で、この映画の世界観から生まれていると思います。そういう意味では、日本が世界に誇る歴史であると言えるでしょう。
 僕は世代的には、この映画の出演者の方々より下ですが、若い頃に村上ポンタ秀一、佐山雅弘といったミュージシャンのマネージメントを自分の会社で引き受けたこともあって(映画出演してブラスアレンジをしている村田陽一も10年くらいマネージメントさせてもらいました)この雰囲気と価値観はよく知っているつもりです。この時代は、制作に関わる音楽家達の矜持と、社会性の無さ(特に若い頃は)とそれらも含めた人間的な魅力が音楽の中に詰まっていた気がします。
 音響ハウスも大好きなスタジオで何度行ったかわかりません。音響ハウスから独立するエンジニアやスタッフがいきなりフリーになるのが不安というので、クッションをつくるために、僕の会社(BUG)で2年位社員として、在籍していたこともあります。

 なので、製作の噂を聞いたときから楽しみで、公開早々にこのユーロスペースに足を運んだのですが、映画を観ながら不思議な感覚になってことを告白します。幸せな気持と不安が同居みたいな微妙な居心地の悪さ、言葉にするならアンビバレントな感情とでも言うのでしょうか?音楽好きと思っているある年齢以上の人は絶対観るべきと薦めたいのですが、同時に10代20代の若い音楽家に「この映画を観て勉強しろ!」というオトナには自分はなりたくないという気持ちが湧き上がりました。
 映画が終わった後に、パンフレットを読み、この映画の中で創られた楽曲「Melody-Go-Round」を何度も聴きながら自分の感情の理由を探ってみました。(ボーカルをHANAちゃんにしたのは、ナイスプロデュースですね!)

 音楽界には「音楽シーン」という考え方があります。ファンから熱量と音楽家のネットワークがシンクロして、大きなムーブメントになっていくのが、「シーン」です。この頃は、音楽スタジオがシーンを産むサロンの役割を果たしていたのは映画で語られている通りです。ライブシーンには、六本木ピットインと言うライブハウスを中心にしたコミュニティもありました。YMOはそこから生まれたと言っても間違いではないでしょう。シーンは、時代の空気や、メディア、テクノロジー、経済などの環境との相互関係で生まれ育ちます。当時現場にいると、気づきませんでしたが、この時代の音楽は、アナログレコードからCDに商材が代わり、レコード産業が成長していたことを反映していたのだと思います。アルバムが作品制作の基本だったのもその文脈で捉えるべきでしょう。
 個人のPCで音楽を作り、ストリーミングサービスでスマホでヘッドフォンで聴くのがノーマルになっている時代に、音楽の創られ方が変わっていくのは自然のことです。
 おそらく、僕が感じたアンビバレンスは、この映画の背景にある、思想・世界観へのリスペクトと、自分も通ったという思い入れがあるが故のものだと思います。そして、もう無くなってしまっているのなら、まさに遺産として守らないとですが、出演アーティストが現役であることからわかるように、まだ続いているシーンです。自分の立ち位置がどこなのか、感覚的に困惑したのかもしれません。歴史として語り継ぐというスタンスを取るのはまだ早く、ここに出演されているミュージックマンに対して失礼でもあります。僕は若い音楽家がこの映画を観て「意味分かんない。空気を通してテープで録音するより、ビットレートの高い音源でハードディスクでつくるほうが速いし」とか否定的なことを言われたいという妄想しました。僕自身が音楽プロデューサーとしての現役感を失いなくないという気持も関係あるのだと思います。そういう意味では、映画の最後で、出演者に「あなたにとってのいい音とは?」という質問を投げかけるシーンで、佐野元春さんが「売れる音」と即答しているのが、まさに現役感があって、サイコーでした。

 こうやって文章にしてみると、まさに僕の個人的な問題ですね。そんな風に自分にとっての音楽の意味を掘り下げて考えさせられる映画でした。長くなってすいません。という事でみなさん是非ご覧下さいww

 スタジオには音楽の魔法(スタジオマジック)が埋まっていることを伝えている映画でもありました。このドキュメンタリー映画でもMagicについて語られていました。こちらもどうぞ。僕が『Making of MOTOWN』を手放しに絶賛できたのは、海外のそして歴史上の出来事だったからだということも『ONKIO HAUS』の映画を観て気付かされました。


モチベーションあがります(^_-)