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TuneCoreJが中国への配信開始!期待と音楽家が知っておくべきこと

成長を続ける巨大中国市場の音楽サービス

 素晴らしいニュースですね。巨大な消費市場である中国では、他の分野よりも遅いスタートでしたが音楽市場を成長を始めています。違法サイト天国で「海賊版すらプレスされない」と言われていた中国が変わったのは、あの国らしく、共産党政府の号令でした、2015年12月に「自国の音楽産業を2020年までに450億ドル越えを目指す」という国家計画を発表した時は驚きましたが、IT財閥Tencentを中心に着々を音楽サービスが売上を伸ばしています。コロナ禍もあって、中国映画市場は2020年に世界一の規模になりました。音楽も世界有数の市場に成ることは間違いないでしょう。

 TuneCoreJapan代表の野田君が、中国音楽サービスにも配信できるように交渉を始めたと聞いたのは、2年近く前のことだったと思います。「素晴らしい!日本で最初に繋ぐことになるね!」と言ったのを覚えています。2019年9月にSingaporeのMusicMattersで飯食った時には、こんなに時間がかかる様子には見えませんでした。交渉は予想以上にハードだったようで随分時間がかかりましたね。まずは、お疲れさまでしたと感謝したいです。野田先生。辛苦了、謝謝。

 さて、これで日本からも簡単に中国サービスにできるようになったので、配信をしている音楽家はもちろん許諾するべきと思いますが、留意しておく点があるのでまとめたいと思います。

中国は独自ルールを持つ「別の星」だけど向き合う

 ITサービスも政府の許諾が無いと始められないというルールの中国は、GoogleもTwitterもサービスが行えていません。音楽サービスもSpotifyは諦めたようで、Tencentと資本提携を行いました。

 デジタル革命によってグローバル市場は大きくなり、国境の壁は低くなっている近年ですが、中国は特別です。共産党の指導が最優先であるというのが原則です。言論の自由も限界があり、司法の判断も共産党の指導下にありるというのがルールです。僕らが知っている国家、社会とはそもそもの構造が違います。
 その共産主義社会を維持したまま、資本主義を取り入れることに成功して中国経済は巨大に成長しました。この壮大な「社会実験」の着地がどうなるのかは歴史の判断に委ねるしか無いのですが、今を生きる僕たち日本人は、距離的にも文化的にも近い中国市場と向き合うことは必須です。「民主主義国の常識が通用しない」という前提で「日本人音楽家は機会損失を避けるために向き合うしかないので、ともかくやってみる」というマインドセットをオススメします。

配信売上の分配については他の国と変わらない

 大きな話になってしまいました。具体の話をしましょう。
 もしかしたらちゃんと理解できていない人もいるかも知れませんが、TuneCoreなどのディストリビューターを通じて行っている行為は、原盤権の行使による音楽配信の依頼です。SpotifyもAppleなど、現在の音楽ストリーミングサービスでは売上の概ね5割程度をアーティストサイド(原盤権利者)に再生回数に応じて分配するというのが基本になっています。QQmusic等の中国系音楽サービスも概ね同様の料率を採用しているはずです。Tencent MusicはNY証券市場への上場も果たし、東南アジアなどでもビジネスを展開しています。Spotifyなどはコンペティターになり、そのシェアを広げることは株価を上げることにつながりますから、音楽家に認められる条件を提示することはTencentにとってもメリットになります。中国IT企業はグローバルの条件と同様にした方が得という構造がある訳です。
 ですから、TuneCore経由の分配は、SpotifyやLINE MUSICなどと概ね同じように行われると思って良いと思います。

著作権の徴収には限界があることを知る

 楽曲の著作権についてはTuneCoreは扱っていませんので、別途受け取るように出版権を預ける必要があるのですが、まだ未整備で難しい状況です。
 まず料率ですが、JASRACは売上の12%になっていますが、世界標準は平均して15%です。それでも原盤との比較で低いということで焦点になっている部分です。中国での配信事業者も15%程度の分配支払をする用意はあるでしょうが、分配を受ける方法が難しいのです。
 中国にも著作権管理団体はありますし、JASRACとの相互管理契約もありますが、機能しているとは言い難い状況です。音楽サービスがデジタル化したことで、従来の国ごとの管理団体経由の徴収分配が十全と機能しないうちに時代遅れなった、という背景もあり、また著作権の徴収分配を真面目にやればやるほど輸入超過(貿易赤字)になることが明らかな中国政府が積極的に行うモチベーションは無いでしょう。出版権は音楽出版社に預けましょうというのがこれまでの常識でしたが、デジタルサービスに関して言うと、音楽出版社という業態自体が時代遅れになりはじめて、Kobalt,Downtownというデジタルに特化したエージェントが伸長しているという現状を音楽家も理解する必要があります。(音楽出版権の構造変化については、これまでも折にふれて語ってきましたが、改めてまとめて書きますので、少々お待ち下さい。)

中国市場から著作権を受取る方法。山口私見

 僕の意見は以下の通りです。
 TuneCoreの内訳を見て、中国系サービスからの分配金額については、プラス約3割位、音楽出版権分の収益を自分が受取る資格があることを認識しましょう。(約50%を受け取っていて+15%分くらい受け取れてないからですよ。)音楽家自身も、誰かに委託するにしても、数千円、数万円程度のお金のために動く気にはなりませんよね?まずはウォッチングして、やれる宣伝は取り組んで再生数を増やしましょう。
 金額が大きくなれば、QQmusic側も対応が変わってきます。前述のKobltやDownTownがまだ中国についてはまだ強くないようなのです。NexToneの子会社で台湾にone asia musicという出版社があります。(一昨年日台合同での台北コーライティングキャンプを一緒にやりました)そこと契約して受取ることもあり得るでしょう。これまで事例が無いことをやるのは工数はかかりますが、意義はありますし、先行者メリットもあります。金額が増えたら動きましょう。

 私見をもう一つ加えると、大局観としてみた時に、中国市場から1億円以上の印税を受取る日本人音楽家は3年以内に必ずでてくるでしょう。それが、日本の音楽界の活性化にも繋がることと期待しています。その人数を増やすため、時期を早めるため、できる協力は惜しみませんので、遠慮なく連絡下さい。
 もちろんこの問題はTuneCore野田くんも認識して対応策を考えているはずです。僕が代表のStudioENTREも音楽ビジネス生態系のUPDATEは大きなテーマです。スタートアップで、この問題も含んで解決できるような事業は準備しています。
 デジタルとグローバルで音楽ビジネスにはチャンスが溢れています。音楽家も起業家も前向きに取り組んでいきましょう。知見とノウハウは惜しみなく、(そして場合によっては事業資金も)提供しますので、連絡下さい!

野田くんとの交流をまとめている過去投稿紹介
StudioENTREでは起業志望者向けの育成プログラムを行っています!

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モチベーションあがります(^_-)