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音楽クリエイターに収益をもたらし、地元岡山にも貢献、会社も成長。西尾周一郎の初志貫徹がわかるインタビュー。

2013年9月出版の本書は、僕にとってエポックメイキングな書籍です。エンタメ分野の起業家と新規事業創出をしていくスタートアップスタジオStudio ENTREを始める原点でもあります。7年前のインタビューとその後の彼らの軌跡を追いながら日本の未来を考えます。
株式会社クレオフーガ 西尾 周一郎
1982年生まれ。岡山大学経済学部 経営/会計コース卒業。大学在学時より、 個人で取り組んでいた音楽コンテストサイト運営に力を注ぐ。 徐々に規模を拡 大させ、それを元にしたビジネスプランが表彰を受けるなどし、経済学部4回 生の時に(株)クレオフーガを設立。同社、代表取締役に就任。素晴らしい才能 を持ったたくさんの音楽クリエイターを、もっともっと世に出していきたい。 また、音楽家がより活躍できる土壌を事業を通じて作りたいと考えている。日 刊工業新聞社主催 新事業の提案コンテスト『第6回キャンパスベンチャーグラ ンプリ中国』中国地区グランプリ&中国経済連合会会長賞受賞。『岡山県ベンチャービジネスプランコンテスト2007』審査員特別賞受賞。

音楽クリエイターが24時間音楽に時間を使える世界をつくっていきたい

  2007年に岡山で創業しました。 年からは東京にもオフィスを構えて、企画や営業は東京、開発は岡山という体制で活動しています。音楽コンテス
トやコンペを開催する音楽クリエイター向けのコミュニティ「音楽投稿コミュニティ クレオフーガ」や、ゲームや映像へ音源を提供する音楽ライセンスのマーケットプレイス「オーディオストック」を運営しています。

活動の場をつくっていくことで、音楽家を支援したいんです 
 音楽家が音楽に24時間没頭できるような世界をつくっていきたいと思っています。そのために音楽家に、しっかりお金がまわるような環境をつくるというのが、 会社のビジョンです。「音楽投稿コミュニティ クレオフーガ」は会員8000人が登録しているコミュニティで、開催している企画で代表的なものはバンダイ ナムコゲームスの「太鼓の達人」で使う楽曲の募集ですね。毎回500曲以上集まる中から10曲位が選ばれて、PSPやアーケードゲームなどで使っていた だいています。楽曲の一般公募を行うことで、音楽リエイターに活躍の機会を提供したり、新たな才能を発掘していきたいと考えています。

空気を読まないで応募するので、面白い曲が集まる
 「クレオフーガで集めると面白い曲が多い」とよく言われます。プロに発注すると、イメージに合わせようとしすぎてクオリティは高いが無難な曲を作ってしまうことがあります。クレオフーガで一般公募すると、いわば「空気を読まず」 に皆さん応募してくるので、意外性のある尖った曲や面白い曲が集まる。そこに 魅力を感じていただいています。
 他の事例では、レコード会社と共同で楽曲コンペも開催しています。日本コロムビアのアーティスト雪乃さんの楽曲コンペをクレオフーガで開催し、 アルバム収録曲として採用していただきました。 最近はJASRACと契約して管理曲を投稿できるようにしたので、音楽出版社から許諾をいただきカバー曲コンテストを開催しています。自分の歌を提供したい歌い手にアカペラのボーカルトラックを投稿してもらい、自由にダウンロー ドして制作に使用してもらえる取り組みも行っています。歌い手と音楽クリエイ ターのコラボレーションが増え面白い作品が生まれてきています。リスナーも、有名曲がジャズバージョンとかロックバージョンになるのを楽しんでいただいているようですね。

日本の音楽クリエイター人口は300万人!
 現在の登録数である 人の音楽クリエイターが何人まで増えるのかを考
えると、日本国内だけでも、まだかなり可能性があると考えています。
ヤマハの統計によるとDTM(デスクトップミュージック)を行っているユー ザー人口の推計は10万人だそうです。パソコンで音楽を作って楽しんでいるとい う、クレオフーガにとって一番コアな層ですね。総務省の統計では、3日に1回以上楽器を演奏している人口が300万人いるそうです。月に 回は演奏してい るという計算になりますから、音楽が好きな人ですよね。クレオフーガでも楽器 演奏者や歌い手のユーザーが増えてきているので、そこまで含めたら300万人以上にも広がります。また、自分で曲を作らないリスナーの方も増えてきているので、今後はリスナーの方にももっとサイトを楽しんでもらえるようにしていきたいと考えています。
 ベンチマークしているのは「ニコニコ動画」です。動画コンテンツを介してコミュニティとして非常に盛り上がっていますよね。独自のカルチャーを築いているし、随所に遊び心があってとても面白いサイトです。クレオフーガも、将来的 には有料会員を設けることも検討しているのですが、ニコニコ動画は有料会員だ けで 万人いますからね。音楽を軸に差別化していきたいです。

地元にこだわりはある。岡山に税金を納めたい
 僕の人生で音楽と深く関わるようになったきっかけは、4歳のときからエレクトーン教室に通い始めたことです。その後、中学生の時に に出会って作曲 にのめり込みました。大学時代には通信カラオケの打ち込みのバイトをしながら、 バンド活動も行い自主制作で を制作した経験もあります。 その中で、周りに音楽を作っている人も多かったのですが、曲を作っても発表する場が少ないと感じていました。在学中の岡山大学では を専攻していたこと もあり、インターネット上で音楽を発表できる場を作りたいと考えて、大学に通 いながらクレオフーガの母体となるサイトを立ち上げました。その後、起業に向 けて大学の経営会計コースに移り、在学中の25歳の時に法人化しました。翌年には大学を無事に卒業して事業に専念するようになり、現在に至ります。
 地元の岡山で起業したのは、今は東京一局集中という時代ではなくなってきて いますし、インターネットを使って音楽クリエイターを支援する事業はどこにいてもできると考えているからです。また、起業したのと同時期に岡山県ベンチャー ビジネスプランコンテスト特別賞や、キャンパスベンチャーグランプリ中国地区 グランプリなどの地元の賞をいただいたのも追い風となりました。ビジネスプラ ンコンテストへの参加では事業計画の作り方やプレゼンの仕方など色々な方に教 えていただきました。参加したことで学びが非常に多く、とても良い経験ができたと思っています。

 現在もサービス開発は岡山オフィスで行っています。スタッフはアルバイトを 入れて 人ほどなのですが半分以上は岡山出身ですね。会社が大きくなっても岡山に本社を残し地元に税金を納めたいというこだわりはあります。

経済的にも成功し、たくさんの起業家を支援したい
 成功した起業家として、やはりビル•ゲイツって凄いと思うんですよ。経 済的に大きく成功しているので妬みも多いと思いますが、社会にもしっかり還元 している。僕も自分が起業してお金に苦労したので、夢を持った起業家や音楽家を将来的に支援したい。まだまだ先の話になるとは思いますが特に地方で頑張っている人を応援したいですね。会社を大きくして社会的に影響力のあるサービス にしなければ自分の夢も会社の夢も実現できないので、それができればお金はつ いてくると思っています。 
 今後の目標としては、5年後には株式公開をしたいと思っています。音楽家を 支援している会社が上場することで社会的にも良いインパクトがあると思うんで すよね。音楽にもっと夢を持てるように僕らのサービスを通じて盛り上げていき、 音楽文化の発展に尽力していきたいと思います。

<山口の眼>
 UGM(ユーザー・ジェネレイテッド・メディア)という言葉が使わ れるようになって久しい。日本のアマチュアクリエイターのクリエイ ティブや リテラシーが非常に高いというのは、「ニコニコ動画」とい うサービスが、見事に証明している。初めて見た頃は、著作権的な問題 がまだ未整備だったこともあって、音楽業界にいる「プロ」から見ると、 得体の知れない存在だった。けれど、ユーザーとクリエイターがグラデー ション的に繋がっていて、「共犯意識」と呼べるような感覚を共有してい ると感じた時に、このコミュニティは力を持つなと思ったのを覚えてい る。もう、随分前の事だ。
 そんな「ニコニコ動画」をベンチマークしているという、西尾さんの強みは、ユーザーと同じ視点を持っていることだ。自身が経験したアマチュア音楽家のニーズをサービスにしている。岡山大学に6年通って、 地元に起業という経歴は、エンタメ系のベンチャー企業としては、珍しいケースだ。日本では、芸能や音楽の業界、メディアは東京に集中的に集まっているけれど、アマチュアクリエイター向けのインターネットサービスであれば、東京にある必要は無い。目先の事象に振り回されずに、ユーザー動向を見極めて、サービス開発をしていくには、環境が良いところにエンジニアがいる方が向いている気がする。岡山と東京を行き来するというやり方は、バランス感覚や複合的な視点を持つという意味で、効果的なやり方かもしれない。西尾さんは、いつもスーツにネクタイ、眼鏡という風貌で現れ、木訥と話す。そんな彼から「ビル・ゲイツはすごい」という言葉があって、 内心驚いた。心に秘めた野心はかなり大きいようだ。地味に見えるけれど、非常に真っ当な上昇志向を持っているし、音楽クリエイターを支援するという軸も明確だ。
 岡山の県民性は、やりだしたら頑固でやり抜くことだそうだ。「クレ オフーガ」の西尾さんが、どこまで昇っていくのか、注目したい。

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<2020年の山口の眼>
 岡山県人らしく7年間やり抜いて、どんどん昇っています。僕もアドバイザー的な立場で、著作権処理などの対応や、資金調達含めた座組みの在り方などで協力しています。Co-Writing Studioという作曲家に特化したコミュニケーションツールを共同開発したり(こちらは事業としてはブレイクさせられませんでしたが、「山口ゼミ」では便利に使わせてもらっています)と関係は深くなって嬉しいです。定期的に意見交換をする関係が長く続いています。
 改めて7年前に行ったインタビューを読んで、軸はぶれてないなと感心しました。toBを中心とした比較的安価の映像用BGMのマーケットプレイスという伸長している領域で今日的なビジネススキームをの「Audio Stock」が成功し始めています。会社名もサービス名に揃えましたね。
 コロナ禍をきっかけに改めて岡山本社を強化しつつ、5年では達成できなかった株式公開にいよいよ挑もうとしているようです。MusicTechのスタートアップの成功事例が日本では少ないので、その筆頭に立ってもらいたいです。起業家、音楽家の支援については次のフェーズで一緒にやれることがあると思っています。
 僕がやることにはすでに協力してもらっていて、SudioENTREのメンターもお願いしていますし、先月、ミュージックビジネス専攻を開講することを発表した大阪音楽大学では客員教授もお願いしています。今や頼もしい仲間です。
 若い起業家にとっても、ロールモデルになって欲しいな、なってくれそうだなと期待をして見つめています。


モチベーションあがります(^_-)