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2022年世界市場データから読み解く音楽の近未来と日本が取り組むべきこと

 IFPI(国際レコード・ビデオ製作者連盟)から、2022年のRECORDED MUSIC MARKET REVENUS(録音原盤市場売上)のデータが発表され、それを踏まえて、Midea Reserchが分析データを発表しています。

2022年音楽収入は 前年比6.7%増、ストリーミング比率は64.1%

 日本では「サブスク」と呼ばれることが多い音楽ストリーミングサービスは、音楽ビジネスの幹として成長を続けているものの、成長率は鈍化してきたというデータです。
 これは、僕が1月に仏・カンヌでのMID3M+のキーノートスピーチでも同様でした。サブスク市場を「Traditional Streaming Ecosytem」=伝統的なストリーミングサービス生態系、と表現したのが印象的でした。やっと一般化し始めた日本との彼我の差は大きいですね。
 昨年もストリーミングが世界のレコード産業の成長の主な原動力となり、Midia社の推定では、2022年の売上高は前年比8.3%増、15億ドル増の200億ドルに達するとされています。レコード音楽産業の収益に占めるストリーミングの割合は64.1%になったそうです。完全にサブスクが生態系の幹になりました。

成長率鈍化の要因は欧米の成熟化で、「アジアの時代」の到来

 成長率の鈍化について、詳しく見ていきましょう。
 Midiaの分析によると、鈍化の理由は欧米の有料会員数の伸び率鈍化したことと、広告収入の減速が理由だそうです。
 売上の成長が鈍化したのに対し、音楽配信契約数の伸びは好調で、全世界で13.7%増の6億5,200万件に達したと推定されています。つまに欧米以外の月額料金が安い国でユーザーが増えたということですね。北米と欧州は、世界の年間加入者数の増加の1/3に過ぎなかったとのこと。
 「新興市場は世界のストリーミングの成長において徐々に大きな割合を占めるようになるが、ARPU(一人あたりの課金額)の低下やアングロ・レパートリー(いわゆる洋楽ですかね)のシェアの低さから、2022年に見られた成長収益と加入者増加率の乖離は長期的な市場の特徴になるだろう。」というのがMidiaの分析です。
 欧米以外の市場とその国と関連の深い作品の比率が上がっていくということですね。ラテンアメリカやアフリカもありますが、人口でも経済でも世界の注目の的はアジア市場でしょう。「アジアの時代」と言われる理由がデータ分析からも語られているわけです。

ユニバーサルとインディーと「両端」がシェアを伸ばす

 Midiaは売上シェアの推計値も出しています。2022年にUMG(ユニバーサルミュージックグループ)が増やした収入は、他の2つのメジャー(ソニーミュージックと ワーナーミュージック)よりも多いと報告しています。UMGは2022年に 5億ドル伸ばして92億ドルに達し世界の市場で29.5%のシェアを獲得したとようです。

 同時に、独立系レーベルとDIYアーティスト(「アーティスト・ダイレクト」=レーベルを通さず、ディストリビューターを介して直接リリースするアーティスト)がともにストリーミング市場全体を成長させたとも語っています・と推定している。前年同期比でそれぞれ 13.9%、17.9%のストリーミング収入を伸ばしました。
 アーティスト・ダイレクトは、「今回も大きな成功例となった」とし、2022年のレコード音楽収入は前年比16.6%増の17億8000万ドルとなり、世界市場シェアは、2021年の 5.2%から5.7%になったとのこと。

 2022年を総括すると「アーティスト・ダイレクト」収入と独立系レーベルの収入は108億ドルで、UMGの92億ドルよりも大きいということになりました。僕がずっと語ってきているデジタル化によって生じる「個へのパワーシフト」は、どんどん進んでいるということですね。

出版権は前年比16.6%と力強い成長

 ここまでは、録音原盤からの収入に関する分析でしたが、「音楽の持続的な価値は、音楽出版によってさらに強く示された」と指摘もありました。出版権の方が成長率は高く、前年比16.6%ということです。楽曲の使われ方、収益源は多様ですから、ストリーミングサービス以外からも売上が上がります。ストリーミングが世界に普及した後も、音楽ビジネスは有望だよという強いメッセージですね。

日本が取り組むべきは、「アジア時代」に乗っかること

 2022年データは、コロナの影響が残っていたにもかかわらず、世界の音楽市場は成長した、重心が欧米市場以外に移り始めているということを示しています。
 最後に日本が取り組むべきことについて意見したいと思います。
 世界二位の市場でありながら(CD市場が大きかったことにこだわってしまったから、でもありますが)デジタル化が世界で一番遅れている日本市場をDXしていくことが緊急かつ重要であることは言うまでもありません。まずは、ストリーミングサービスの普及率を上げることですが、海外比較で6年くらい遅れいるので、「ポストサブスク」時代として始まっている、web3的な動きも同時並行でやっていく必要があるでしょう。まずは楽曲リリース時にNFT付を一般的にすることは始めたいですね。初回版DVD付みたいな感覚で。

 そして、なによりも、世界の音楽業界が「アジアの時代」と認識していることをどう活用するかという感覚をプロデューサーもアーティスト自身も意識することが最重要です。
 現状は韓国音楽業界に完膚なきまでに完敗していますが、もともと、K-popは韓日合作で日本で始まっています。日本にできないわけは有りません。文化的な蓄積と多様性が日本の音楽界が持つ圧倒的な武器です。アニメという心強い味方がいますし、クリエイターエコノミーの時代にn次創作に長けたユーザーがたくさんいることはとてつもない財産です。
 アジア市場で稼ぐこと。そして、アジア音楽シーンの一翼を担う(という風に見せる)ことで、世界市場で存在感を示すことが、今、日本の音楽界がやる最も大切なことだと、2022年IFPIデータを見て、改めて痛感しました。
 一緒に頑張りましょう!!!

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モチベーションあがります(^_-)