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日本起点に世界へ躍進したK-Pop(全文公開)〜第4章:伸長の期待大きい欧米以外の音楽市場1

人口が減り始めた日本では海外市場の開拓が死活的に重要なのはいうまでもありません。本章では、「日本経由」で世界で成功した韓国の事例と欧米以外の経済新興国の音楽市場について見てみましょう。

急速なデジタル化で時代を先取り

 韓国音楽業界がK-POPを掲げて世界を席巻している様子は、読者の方もご存知かと思います。日本と様々な意味で対照的な韓国音楽業界の成功の軌跡をたどりましょう。

 韓国音楽業界における歴史の転換点は、1997年にまで遡ります。当時韓国は、アジア通貨危機の影響で外貨準備が底をつき、IMF(国際通貨基金)から 厳しい財政緊縮を受けていました。いわゆるIMF危機です。企業の倒産やリストラが相次いで起こり、GDP成長率が-6.7%まで落ち込むなど、韓国経済は混迷を極めました。しかし翌1998年に発足した金大中政権によって、韓国は大改革を遂げていきます。
 まず金大中が目指したのは、世界一コンピューター活用が進んだ国を作ることでした。1999年から施 行された Cyber Korea21計画によって、情報通信インフラの整備を飛躍的に進めた結果、わずか二年で韓国は世界最高レベルのブロードバンド普及率を達成 します。こうした急速なデジタル化は、音楽業界にも大きな変化をもたらしました。なんと2003年の時点で、デジタルの売上がフィジカルを上回ったのです。 アメリカでその現象が起きたのが2009年であることを考えると、いかに時代を先取りしていたかがわか るでしょう。
 また2022年現在で国内シェア1位を誇る音楽ス トリーミングサービス Melon は、2004年にローンチしています 。これはSpotifyより2年も早いサービス開始であり、結果的に Spotify は国産サービスの後塵を拝し、日本よりも5年遅い2021年にようやく 韓国上陸を果たしたという経緯があります。

海外市場開拓に乗り出す

 さらに金大中は1998年の文化大統領宣言にて、 文化産業は21世紀の重要な基幹産業であると発表し、コンテンツへの投資と海外市場開拓の支援を宣言します。翌1999年には文化産業振興基本法を制定 し、2003年までに5000億ウォン(約475億円)をコンテンツ産業に集中投資することを決定。これを期に、韓国音楽業界も海外輸出に積極的に取り組み始めます。
 はじめに韓国の音楽事務所が照準を合わせたのは、 日本の音楽マーケットでした。2001年に日本デビューを果たしたBoAは、ダンスパフォーマンス力 の高さと優れた日本語能力で瞬く間に人気を博し、2002年から6年連続で紅白歌合戦出場を達成しま した。また2005年に日本デビューした東方神起 は2009年に韓国アーティストとしては初の東京 ドーム公演を成功させました。数多くのマージャーを輩出したK-POPの本家的な存在のSMエンターテ インメントの日本法人は、エイベックスと吉本興業との合弁でした。

強力なプロモーションと共同作曲方式

 しかし韓国音楽業界にとって、日本マーケット進出は足がかりの一つに過ぎませんでした。日本での人気 を確立したK-POPは、2010年代に入り欧米市 場への挑戦をついに本格化させます。その試みが最初に大きく実ったのは、2012年にリリースされたPSYの『江南スタイル』です。MVが YouTube に上がるや否や、わずか二ヶ月で世界中に拡散され、 YouTube 史上初めて再生回数10億回を突破した動画となりました。さらにK-POP歌手初のビルボードHOT100で2位という大記録も達成していま す。これらの要因には、PSYが所属するYGエンーテインメントがYouTube やSNSプロモーショ ンに注力していたことが大きかったといわれています。またこの頃には2NE1やBIGBAN G 、少女時 代 と いったアーティストが、欧米でのプレゼンスを獲得しつつあったことも見逃せません。彼らの楽曲は共同作曲方式(コーライティング)を採用しており、海外の トッププロデューサーを集めて最先端の音楽トレンド を取り入れながら制作をしていました。それによりク オリティの高い作品が生まれ、欧米でもファンを獲得していったのです。

グローバル市場で大成功を収める

 こうした先人たちの活躍を経て、2017年にはBTSがビルボード・ミュージック・アワードにてSNS で最も関心を集めたトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞します。また2019年には BLACKPINK がK-POPのガールズ・グループとして史上初めてコーチェラ・フェスティバルに出場し、大きな話題となりました。そして2020年、ついにBTS の『Dynamite』がビルボードHOT100で1位を獲得するという歴史的快挙を成し遂げます。北米へのK-POP輸出額も2015年からの五年間で80倍にまで伸長し、名実ともにK-POPはグローバル市場で 大成功を収めることとなりました。
 国内音楽市場の崩壊という痛みを伴いながらも、韓国の政府が後押ししたコンテンツ振興戦略は大成功を収めています。徹底的なデジタル化は、結果として国内市場の成長にもつながりました。韓国音楽市場は世界第7位まで浮上しています。
 BTSの成功には、ファンダムと呼ばれるファンの マーケティング活用/応援が指摘されますが、ファンクラブは日本に原型があるものです。事務所という形態も日本と韓国に特有なモデルです。国内の市場に閉じこもった日本とはまさに対照的で、K-POPの躍進から日本の音楽業界が学ぶべきことはたくさんあります。デジタル戦略を徹底すれば、日本の音楽界もグローバルヒットが生まれる潜在力を持っていることは K-POPが証明してくれています


モチベーションあがります(^_-)