変わる音楽ビジネス生態系

<今週のpick up>
●Apple Musicが音楽出版を強化、作曲家支援で変わるインディーズとメジャーの境界線 

 いつもわかりやすいJay君の記事ですが、今回は、著作権と原盤権を区別や日本と欧米の音楽出版社の役割の違いなどを知らない人には理解が難しい内容になっている気がするので補足的にまとめつつ、僕の見解を述べたいと思います。
 1つの音源には、3つの権利が存在します。楽曲の権利である著作権、レコーディング費用の負担者が持つ原盤権(レコード製作者の著作隣接権)とも言います。実演家(歌ったり演奏したりした人)の著作隣接権。現状、この3つの権利がバラバラに管理されていて理解が難しいですね。特に2つの著作隣接権については、そもそもの法律が国によって違っていたりして、法的にきちんと話すとかなり複雑な話になります。なので、極力単純化して書きますのでご了解ください。

 音楽出版社(MUSIC PUBLISHER)というのは、楽曲の著作権を管理、開発する会社です。欧米では作曲家と専属契約を結んで、作家ごとに紐づく形で音楽出版社が存在しているのが一般的です。しばしば専属料としてアドバンス(印税の前払)が行われているようです。ちなみに日本は「代表出版」制度があり、楽曲ごとに一社の出版社が代表して管理(JASRACやNexToneに信託)するのが一般的です。どこの会社が出版権を持つかは、アーティストサイドが決定権を持っています。大きなタイアップがある場合は、その番組のテレビ局の子会社が代表出版を持つという慣習もあります。(ちなみにアメリカでは放送局が出版権を持つことは違法になり、できません)日本と欧米の業界慣習が大きく異なっているのです。

 一方原盤権は、レコード会社が窓口になるのが一般的です。パッケージビジネスについては、レコード会社自体が事業主体となり、CDを製造し、小売店に流通させ販売する、宣伝や販促も行うという形で音楽産業は成長してきました。デジタル配信が主流になって、レコード会社はサービスの主体者では無くなりましたが、これまでの業界慣習の流れもあり、原盤権の配信事業者への許諾は、原盤権利者としてのレーベルが行うのが一般的です。ちなみに原盤権は、レコード会社だけが持つのではなく、事務所や音楽出版社とシェアして持つ毛0スも多いです。レコーディング経費の負担とセットで権利を持つわけです。

 サブスクリプションストリーミングからの売上の音楽側への分配の相場は、著作権は12%(日本では8%)前後が現状です。原盤権については、売上の40〜50%が一般的で、その枠にアーティストへの分配分が含まれます。この記事には、その前提が書いてないので、楽曲の著作権と原盤権をごっちゃに捉えている方もいるかも知れません。
 ストリーミングサービスが音楽ビジネス生態系の幹になっている現状で、この比率の重要度が上がってきています。レコード会社や出版社と配信事業者は、グローバルで一律の条件で契約するのはお互いとって効率的です。アーティストごとや曲ごとに分配比率を変えることは、分配事務工数的にも非効率ですし、ほとんど行われないと思います。
 音楽家側として、全体で60%前後になる分配額をどのように分けるのがフェアなのか、契約条件自体の見直しが必要になっているのです。著作権部分の料率が高くなれば、配信事業者としては、原盤およびアーティスト部分の料率を抑えたくなるでしょう。

 実は、ここで前提自体を疑うべき事態があります。たとえばEDMのアーティストで自分でトラックをつくって歌う場合、そもそも3つの権利を分けて、別々の仕組みで徴収する意味がありませんよね?自分で原盤権も持ち、出版権ももって、まとめてAppleやSpotifyに許諾すれば最も効率的です。そういうやり方が広がると、音楽業界の徴収分配の仕組み、音源にまつわる生態系を構造的に変えることに繋がります。
 個人的に僕が心配なのは、許諾交渉がパワーゲームになっていくことが音楽産業全体にとってはプラスではないことです。出版社やレーベルの寡占化は進行しています。そんな中でデジタルに強い新興のkobaltがシェアを伸ばしているのは注目しました。背景を調べたいと思います。いずれにしても、これまでの、著名な音楽家であろうと、無名の新人であろうと、ラジオで流れた時に生じる金額は同じというのは、音楽界の健全さを示している気がします。パワーゲームの交渉が横行すると、大手出版社の楽曲だけ極端に料率が高いということもありえます。映画のように、Appleだけで聴けるかわりに、使用料が高いというようなやり方はユーザーにとってはアンハッピーです。

 構造が変わる際には、様々な歪みがでるものです。僕は少なくとも20年位のスパンで言えば、ブロックチェーン技術を使った、透明性の高い分配の仕組みに収斂するという予見を持っていますが、それまではどんな混乱があっても不思議はないなと思っています。
 そんな構造を理解した上で、このニュースを捉えてもらいたいですし、これからグローバルに広がっていく音楽ビジネスについて考えてもらいたいです。
 
 先週は、こんなニュースもありました。

●Merlin Japan (マーリンジャパン) 日本支社設立 野本晶氏をゼネラルマネージャーに任命

 野本晶さんが日本代表に就任したMarlineは、3大メジャー以外のドメスティックレーベルを取りまとめて、大手配信事業者と交渉を行っている会社です。サービスよっては、メジャーレーベル以上の高い料率を獲得しているようです。配信側も一社独占(ユニバーサルミュージック一人勝ちみたい)になるよりも、インディーズレーベルが伸びる方が、音楽サービスの多様性という意味でも、交渉時のパワーバランスという意味でもメリットがあると考える事業者が多いようです。

 野本さんは、iTune Music StoreもSpotify も日本でのサービス立ち上げの中心人物で、日本の音楽のデジタル化の最大の功労者です。レーベルとの交渉では辛い思いもされたのでしょうし、彼のキャリアならいくらでも高給のオファーがあったでしょうに、日本の音楽業界に貢献するポストを選んでくれて、心から感謝です。(株)VERSUSのメンターもお願いしているので、引き続きつるんで、一緒に日本の音楽を元気にしていきたいと思っています。

 これからのアーティストの活動の仕方については、以前ブログを書いたので、こちらもご覧ください

●3大メジャーレーベルとMerlinとTuneCoreと〜グローバル視点で音楽ビジネスを俯瞰すると〜


モチベーションあがります(^_-)